
Wi-Fi 6Eとは?従来のWi-Fi規格との比較やメリット、注意点を解説
さまざまな規格のあるWi-Fiですが、現在高速回線として提供しているものの多くはWi-Fi 6Eという規格です。
Wi-Fi 6Eは従来のWi-Fi 6と同様の規格ではあるものの、さまざまな改良がされています。具体的には、回線速度が速くなっていたり、Wi-Fi接続が良くなっていたりといった特徴があります。
本記事ではWi-Fi 6Eが誕生した背景から利用するメリットなどを分かりやすく解説します。
Wi-Fi 6Eとは

はじめにWi-Fi 6Eとはどのようなものかについて解説します。あわせてWi-Fi 6Eの元となる規格Wi-Fi 6についても解説します。
そもそもWi-Fi 6とは何か
Wi-Fi 6は無線ネットワーク規格の第6世代であることを指しています。
Wi-Fiは、パソコンやスマートフォンなどの端末をインターネットに接続するための無線ネットワーク規格です。通信に使用できる周波数は国が用途ごとに定めています。
この規格はIEEE(アイ・トリプル・イー)という学会で決められています。そのため、Wi-Fi 6の正式名称は「IEEE 802.11ax」です。
Wi-Fi 6は2019年にリリースされた規格で、それまでの規格と比較して高速化とつながりやすさの向上が図られました。
Wi-Fi 6EとはWi-Fi 6の拡張版
一方でWi-Fi 6Eは、Wi-Fi 6と同様の規格(世代)でありながら、性能の改善をした拡張版です。Wi-Fi 6では対応周波数が2.4GHz帯・5GHz帯の2つのみでしたが、Wi-Fi 6Eでは新たに6GHz帯の利用ができるようになりました。
対応周波数が広がったことで電波干渉が起きにくくなり、より安定した高速通信が可能になりました。
これまでアメリカなど一部の国ではWi-Fi 6Eの提供が開始されていましたが、日本国内においては6GHz帯の許可が下りておらず、Wi-Fi 6Eが使用できませんでした。
しかし、2022年9月2日に「電波法施行規則」「無線設備規則」「特定無線設備の技術基準適合証明等に関する規則」を一部改正する総務省令が公布され、即日施行しました。
この総務省令により、日本国内における「6GHz帯の無線LAN」の利用が可能になりました。
Wi-Fi 6Eのモジュレーション技術
Wi-Fi 6Eの性能向上を支えているのは高度なモジュレーション(変調)技術です。この技術によって、高速通信、低遅延、大容量通信を実現しています。
主な技術は次の3つです。
- 直交周波数分割多重方式 (OFDM)
- 直交周波数分割多元接続 (OFDMA)
- 高密度変調 (1024-QAM)
まず、直交周波数分割多重方式 (以下OFDM)は、データを複数の搬送波に分割して同時に送信することで、周波数の利用効率を高めます。これにより、限られた帯域幅でより多くのデータを送ることが可能になり、高速通信ができるようになります。
次に、直交周波数分割多元接続 (以下OFDMA) は、OFDMを発展させた技術で、一つの通信チャネルを複数のユーザーで同時に使用します。そのため、多くのデバイスが同時に接続される環境での通信効率が大幅に向上します。
OFDMとOFDMAの違いを理解するために、荷物を運ぶトラックに例えて説明します。
OFDMは、一度に一つの荷物(データ)を運ぶ大型トラックのようなものです。効率的ですが、小さな荷物を運ぶ場合、トラックの容量を十分に活用できません。
一方、OFDMAは、1台のトラックを複数の小さな区画に分けて、異なる配送先の荷物を同時に運ぶシステムのようなものです。
このOFDMAの方式により、周波数帯域の使用効率が大幅に向上し、特に大量の小さなデータを送信する場合に非常に効果的です。
最後に、高密度変調 (1024-QAM) は、一度に送信できるデータ量を増やすための技術です。1024-QAMは、一つの信号で伝送できる情報量を増やすことで、帯域幅の利用効率を高めます。
具体的には、1シンボルあたり10ビットの情報を送信できます。これは、Wi-Fi 5で使用されていた256-QAM(8ビット/シンボル)と比較して、約25%のデータ密度の向上を意味します。
ただし、1024-QAMは高い信号品質を必要とするため、混み合っていない通信環境でのみ最大の効果を発揮します。そのため、Wi-Fi 6Eは比較的干渉の少ない6GHz帯を活用することで、この技術を最大限に活用しています。
Wi-Fi 6Eが登場した背景

Wi-Fi 6という通信規格が存在するにも関わらず、Wi-Fi 6Eが開発された背景にはWi-Fi 6が当初期待したパフォーマンスを出せなかったことがあげられます。
その理由として「Wi-Fiトラフィックの増加」と「Wi-Fi接続デバイスの増加」という2つの原因があります。
Wi-Fiトラフィックの増加
8K動画、VR(仮想現実)、AR(拡張現実)などは、従来のコンテンツと比較して桁違いのデータ量を必要とします。これらのコンテンツの普及により、Wi-Fiネットワーク上のトラフィックが爆発的に増加しました。
例えば、4K動画の再生には約15-25 Mbps必要と言われており、8K動画の場合はその4倍となる約50-100 Mbpsが必要になると言われています。
Wi-Fi接続デバイスの増加
2つめは、Wi-Fi接続デバイスの増加による無線ネットワークの混雑です。
リモートワークの影響や家電製品やIoTデバイスの無線接続により、従来無線接続が必要なかった機器までWi-Fiを使用するようになりました。
例えば、スマートスピーカー、ネットワークカメラ、スマート照明、ロボット掃除機など、多種多様なデバイスが常時Wi-Fiに接続されるようになりました。
Wi-Fi Allianceの予測によると、このトレンドは今後も続き、Wi-Fi接続デバイスの数は増加すると見込まれています。
※参考:Wi-Fi Alliance 「Wi-Fi Alliance®、2022年のWi-Fi®のトレンドを発表」
従来のWi-Fi規格とWi-Fi 6Eの比較
Wi-Fi 6EはWi-Fi 6の拡張版として登場しましたが、その違いは主に利用可能な周波数帯にあります。以下の表で、Wi-Fi 5、Wi-Fi 6、Wi-Fi 6Eの主要な特徴を比較します。

周波数の比較
Wi-Fi 6Eの最大の特徴は、新たに6GHz帯を利用できるようになったことです。6GHz帯は、既存の2.4GHzや5GHz帯と比べて混雑が少なく、混雑した環境での通信性能の向上が期待されています。
通信速度の比較
理論上の最大通信速度は、Wi-Fi 6とWi-Fi 6Eで同じ9.6Gbpsです。しかし、実際の使用環境では、Wi-Fi 6Eの方が高速な通信を実現できる可能性が高くなっています。
これは、6GHz帯の追加により、より広いチャネル幅(80MHz、160MHz)を使用できる機会が増えたためです。混雑の少ない6GHz帯では、高速通信に必要な広い帯域幅を確保しやすくなり、結果として実効速度の向上につながります。
イメージとしては、これまで片側2車線道路だった道が、片側4車線道路になってより多くの車が走れるようになるようなものです。
Wi-Fi 6Eを利用するメリット

Wi-Fi 6Eを利用する主なメリットについて解説します。
高速通信のチャンネル選択肢が増える
先述の通り、Wi-Fi 6Eでは従来の2.4GHz帯、5GHz帯に加えて6GHz帯から通信時のチャネルを選択できます。
チャネルの選択数が増えることにより、既存のWi-Fi規格で生じていたチャネルの重複によるパフォーマンスの低下を抑えることができます。これにより、従来よりも通信速度の改善が期待できます。
無線ネットワークの混雑を回避できる
対応チャネル数が多いことで、チャネル重複による無線ネットワークの混雑を解消できます。
6GHz帯に対応したWi-Fi 6Eは、2.4GHz帯や5GHz帯よりも利用できる周波数帯域が広く、さらに割り当てられるチャネルの数も多いのが特徴です。
チャネル数が多くなると混雑を回避できて電波の干渉が起きにくくなり、多くの機器でWi-Fi接続をしても通信速度が安定します。
通信遅延が少ない
Wi-Fi 6Eでは使える周波数帯が従来よりも拡張されています。
これにより大容量のデータ通信も少ない通信遅延で行うことが可能になり、8K動画やVR映像などの大容量のデータ通信でも、ストレスなく楽しむことができます。
Wi-Fi 6Eを利用する注意点

Wi-Fi 6Eは高速で大容量の通信ができますが、メリットだけではなく使用する際の注意点があります。
まず、Wi-Fi 6Eで使える6GHz帯を利用するためには、専用の対応機器が必要です。アクセスポイントだけでなく、接続するスマートフォンやPC、タブレットなども Wi-Fi 6E対応である必要があります。
次に、6GHz帯の電波は従来の2.4GHzや5GHz帯に比べて、壁や障害物による減衰が大きくなる傾向があります。そのため、見通しの良い環境でないと通信速度が低下する可能性があります。
また、他のWi-Fi規格を利用する時と同様に、適切なセキュリティ対策を行う必要があります。Wi-Fi 6Eでは、最新のセキュリティプロトコルであるWPA3の使用が推奨されています。
Wi-Fi 6Eにデバイスが対応しているか確認する方法
次に自身で利用しているデバイスがWi-Fi 6Eに対応しているかを確認する方法を解説します。
パソコン:Windowsの場合
WindowsはデバイスマネージャーからWi-Fi 6Eに対応したモジュールを搭載しているかを確認できます。
例として、Intel製モジュールが搭載されている場合の確認方法を解説します。Intel以外のメーカーのモジュールが搭載されている場合は各メーカーが公開しているスペックページをご確認ください。
スタートボタンを右クリックして「デバイスマネージャー」を開きます。
ネットワークアダプタを展開して「INTEL(R) Wi-Fi~ AX~」と書かれている部分を確認します。
ここに「Wi-Fi 6E」や「AX210」などの記載があれば、お使いのデバイスはWi-Fi 6Eに対応しています。
パソコン:Macの場合
Macの場合は、対応している機種が公開されていますので、お使いのデバイスが該当するかApple社のHPからご確認ください。
Apple 製デバイスで Wi-Fi 6E ネットワークを利用する
スマホの場合
次にスマートフォンの場合をiPhoneとAndroidに分けて解説します。
■iPhone
iPhone 15 ProまたはPro Maxのみが対応しています(2024年7月現在)。
設定 > 一般 > 情報でモデル名をご確認ください。
■Android
Androidの場合は設定で確認できることがあります。ただし、OSの設定画面で直接確認できない機種もありますので、その場合は、デバイスの製品仕様書やメーカーのウェブサイトでご確認ください。
設定 > 接続 > Wi-Fi > 詳細設定(機種により異なる場合があります)
Wi-Fi規格やWi-Fi情報の項目で、”Wi-Fi 6E”や”6 GHz”の記載があれば対応しています。
Wi-Fi 6Eの今後とWi-Fi 7の登場
Wi-Fi 6Eは、高速で安定した通信を求める現代のニーズに合致しており、広まりつつあります。最新のスマホやノートPC、タブレットなどでWi-Fi 6E対応製品が次々と登場しており、この勢いは当分続きそうです。
Wi-Fi 7について
一方で次世代規格のWi-Fi 7(IEEE 802.11be)もリリースされています。Wi-Fi 7は、Wi-Fi 6Eの性能をさらに押し上げた規格でさらなる高速化、低遅延化、安定性の向上ができる見込みです。
Wi-Fi 6E対応のおすすめアクセスポイント

Wi-Fi 6Eを利用するには、Wi-Fi 6Eに対応した無線ル―ターやデバイスを用意する必要があります。しかし現状、Wi-Fi 6Eに対応していない製品もありますので、検討の際は注意が必要です。
TD SynnexではExtreme Networks、Aruba、BUFFALO、TP-Linkなど、各社の法人向けWi-Fi 6E対応の無線アクセスポイントを取り扱っています。
詳しくは以下リンクをご確認ください。
=====================
TDシネックスの主な取扱メーカーは以下リンクよりご確認が可能です。
商品に関するお問い合わせは以下のリンクよりお願いいたします。
https://www.synnex.co.jp/inquiry
=====================
【ライタープロフィール】
佐々木
テクニカルサポート出身のITライター。Windows Server OS、NAS、UPS、生体認証、証明書管理などの製品サポートを担当。現在は記事制作だけでなく、セキュリティ企業の集客代行を行う。