法人で使用するパソコンの買い替えには、業務効率の向上やセキュリティ対策、動作の安定性、メーカーサポートの終了対応など、さまざまな判断要素があります。
ただし、最適な買い替えのタイミングは、業種・業務内容・利用状況によって異なるため、一律に決めることはできません。

本記事では、パソコンの買い替えを検討すべき具体的なタイミングのほか、スペック不足がもたらす影響や法定耐用年数との関係、修理との比較検討ポイントについて詳しく解説します。
さらに、法人における「PCライフサイクル管理(PC-LCM)」の考え方を踏まえ、効率的かつ計画的にパソコンを運用するための方法についてもご紹介します。

パソコンの買い替えを検討する時期はいつ?

まずはどのようなタイミングで買い替えを検討するべきかを解説します。

やりたいことがあるのにスペックが足りない

業務で使用するパソコンが、従来の作業に支障をきたすようになった場合や、新しいソフトウェアの導入が難しいと感じた場合、それはスペック不足の兆候かもしれません。

たとえば以下のような状況が考えられます。

  • Windowsの起動に数分以上かかる
  • ソフトウェアの動作が遅い
  • Webサイトの読み込みが遅延する
  • 負荷の高い作業中にフリーズ

これらの問題は、HDDの劣化やメモリ不足、不要な常駐プログラムの増加などが原因で発生することがあります。

また、新しい業務ニーズに対応するために、高解像度の動画編集や3Dグラフィックスの作成、大規模なデータ解析を行いたいと考えても、既存のパソコンのCPUやGPU、メモリ容量が不足していると、これらの作業をスムーズに行うことは難しいでしょう。
特に、AIを活用した解析や大規模言語モデルの使用には、高性能なハードウェアが求められます。

パソコンの法定耐用年数を超えている

法人で使用するパソコンの法定耐用年数は、国税庁の定めにより「4年」とされています。
これは、パソコンの取得価額を4年間で減価償却することを意味し、会計上の資産価値は4年でゼロになる計算です。

また、パソコンをリース契約で導入する場合、税務上の規定により、リース期間は法定耐用年数の70%以上と定められています。
具体的には、4年×70%=2.8年となり、端数を切り捨てて最低でも2年以上の契約期間が必要です。

参考:主な減価償却資産の耐用年数(器具・備品)

法定耐用年数を超えた古いパソコンを使い続けることで起こり得るリスクとしては、以下のような点が挙げられます。

  • バッテリーやHDD、冷却ファンといった部品の物理的劣化による故障
  • OSやソフトウェアのサポート切れによるセキュリティリスクの増大
  • 起動や操作の遅延による業務効率の低下
  • 新しい業務ツールとの非互換

また、突発的なトラブルは日常的に起こり得るものです。
業務の中心にあるパソコンが突然故障すれば、修理の手配や代替機の調達、データの復元などに多くの時間と労力がかかり、結果として事業活動に支障をきたします。

したがって、パソコンは「壊れるまで使う」のではなく、業務上の影響を最小限に抑えるために「壊れる前に買い替える」ことが合理的な判断といえるでしょう。

不具合が出て修理する必要がある

パソコンに不具合が生じた際、まず頭をよぎるのが「修理するか、それとも買い替えるか」という判断です。
購入から1〜2年程度の比較的新しい端末であれば、修理による延命も選択肢になります。

しかし、使用年数が3年以上経過しているパソコンでは、たとえ一部のパーツを修理しても他の部品が老朽化しており、別の不具合が連鎖的に起こる可能性があります。
たとえば、バッテリーは2〜3年、HDDは4〜5年が寿命とされており、修理後すぐに別のパーツが故障することも珍しくありません。

また、メーカーの修理対応期間が終了していると、部品が入手できず修理不可になる場合もあります。
加えて、修理中は業務が停止する可能性もあるため、法人においてはダウンタイムの損失も無視できません。

買い替えの判断に役立つPC-LCM(PCライフサイクル管理)とは

法人でのパソコン買い替えを検討する際、重要となるのが「PC-LCM(PCライフサイクル管理)」の考え方です。

これは、パソコンの導入から廃棄までを「調達」「導入」「運用・保守」「撤去・廃棄」の4つのフェーズに分けて管理する手法で、効率的な運用とコスト削減を実現します。
各フェーズでの適切な対応により、情報システム部門の負担軽減やセキュリティ強化にもつながります。

PC-LCMを導入することで、パソコンのライフサイクル全体を可視化し、計画的な買い替えや運用が可能となります。
これにより、業務効率の向上やコスト削減、セキュリティ強化など、多くのメリットが得られます。

「調達」フェーズでやるべきこと

調達フェーズでは、業務内容や予算に応じた最適な機器の選定が求められます。
「購入」「リース」「レンタル」の3つの調達方法を比較検討し、自社のニーズに合った選択を行います。

「購入」は、初期費用が高くなるものの、資産として計上でき、長期的なコスト削減が可能です。
カスタマイズの自由度が高く、自社のニーズに合わせた構成が選べます。ただし、保守管理の負担が増える点には注意が必要です。

「リース」は、初期費用を抑えつつ、一定期間使用後に返却する方式です。
資産計上の必要がなく、最新機種への定期的な更新が可能です。
しかし、契約期間中の途中解約が難しく、総コストが購入より高くなる場合もあります。

「レンタル」は、短期間の利用に適しており、急な増員やプロジェクト対応に柔軟です。
保守サービスが含まれることが多く、管理の手間が省けます。ただし、長期利用ではコストが割高になりやすく、機種や仕様の選択肢が限られることがあります。

「導入」フェーズでやるべきこと

導入フェーズでは、調達した機器を業務で即使用可能な状態にするためのキッティング(初期設定)を行います。
OSや業務アプリのインストール、セキュリティ設定、ネットワーク接続などを実施します。

これらは膨大な労力と費用を要しますが、マスターイメージを活用することで省力化することができます。
マスターイメージとは、PCを導入・展開する際にひな形となるディスクイメージのことです。
これを複数のデバイスに適用することで、作業時間の短縮、設定の一貫性確保、人的ミスを減らすことができます。

たとえば、Microsoftが提供する企業向けのWindows自動設定・管理ツールWindows Autopilotは、クラウド経由で展開するため、これまでのように各デバイスに対して行っていたキッティング作業の必要がなくなり、管理者はデバイスにタッチすることなく、自宅からでも設定が可能です。
ユーザー側も簡単な操作だけですぐに提供されたデバイスを使用できます。

自社でキッティング作業を行うのが難しい場合や、大量のキッティング作業が必要な場合には、作業を外部委託することも検討すべきでしょう。

TD SYNNEXでもAutopilotを活用したキッティングサービスの支援が可能です。
詳しくは、以下ページをご覧ください。
クラウド時代の新しいデバイス展開 Windows Autopilot

■キッティングについて、詳しくはこちらの記事もご覧ください。

「運用・保守」フェーズでやるべきこと

パソコンの「運用・保守」フェーズでは、次の3つの業務があります。

  • ソフトウェアの更新
  • ハードウェアの維持
  • データの安全管理

ソフトウェアの更新

企業で使用するソフトウェアは、常に最新の状態に保つことが求められます。
OSやアプリケーションのアップデートを定期的に実施し、セキュリティパッチを適用することで、脆弱性を悪用した攻撃からシステムを守ります。

ハードウェアの維持

パソコンのハードウェアは、定期的な点検とメンテナンスが必要です。
冷却ファンの清掃や内部のホコリの除去、ハードディスクの健康状態のチェックなどを行うことで、予期せぬ故障やパフォーマンスの低下を防ぎます。

データの安全管理

万が一の障害に備え、あらかじめデータのバックアップおよび復旧方針を定めておくことが重要です。
定期的にバックアップを実施し、バックアップデータの整合性を確認することで、トラブル発生時にも迅速かつ確実な復旧が可能になります。

「撤去・廃棄」フェーズでやるべきこと

法人が使用していたパソコンを廃棄する際には、「廃棄物の処理及び清掃に関する法律(廃棄物処理法)」に基づき、適切な方法で処分する必要があります。

各業者の特徴や注意点について解説します。

メーカーに依頼する

多くのパソコンメーカーでは、自社製品の回収・リサイクルサービスを提供しています。
たとえば、富士通やNECなどのメーカーは、使用済みパソコンの回収を行い、適切にリサイクル処理を実施しています。

メーカーに依頼するメリットは、製品の仕様を熟知しているため、適切な処理が期待できる点です。
ただし、他社製品や古いモデルの場合、対応していないこともあるため、事前に確認が必要です。

産業廃棄物処理業者に依頼する

法人がパソコンを廃棄する場合、それは「産業廃棄物」として扱われます。
そのため、産業廃棄物処理業の許可を持つ業者に依頼することが求められます。

業者に依頼する際は、適切な処理が行われたことを証明する「マニフェスト伝票」の発行を受けることが重要です。

リサイクル業者に依頼する

リサイクル業者に依頼する場合、パソコンの再資源化や再利用が行われます。
特に、まだ使用可能な部品がある場合、リユースとして再販されることもあります。

しかし、リサイクル業者を選定する際は、適切なデータ消去が行われているか、法令に基づいた処理がされているかを確認することが重要です。
信頼性のある業者を選ぶことで、情報漏洩のリスクを最小限に抑えることができます。

■IT機器の廃棄処分方法について、詳しくはこちらの記事もご覧ください。

まとめ:法人PCの買い替えとライフサイクル管理

法人におけるパソコンの買い替えは、単なるハードウェアの更新にとどまらず、業務効率やセキュリティ、コスト管理に直結する重要なプロセスです。
特に、PC-LCM(PCライフサイクル管理)の考え方を取り入れることで、調達から廃棄までの各フェーズを体系的に管理し、無駄を省きながら最適な運用が可能となります。

買い替えのタイミングとしては、使用年数が法定耐用年数の4年を超えた場合や、スペック不足による業務効率の低下、不具合の頻発などが挙げられます。
また、法定耐用年数を超えたパソコンの使用は、税務上のリスクや保守コストの増加につながるため、注意が必要です。

各フェーズを計画的に実施することで、法人のパソコン運用はより効率的かつ安全なものとなります。

TD SYNNEXが提供するPC運用サービス

キッティング作業を外部委託することで得られる主なメリットは、作業負荷の軽減、専門的な知識と経験の活用、コスト削減、時間短縮、ミスやトラブルの回避などが挙げられます。
特に、大量のキッティングが求められるケースでは、その効果がより顕著に表れます。

TD SYNNEXでは、環境確認から最適なPCの選定、データ移行支援、キッティング、さらにはPCの適切な処分まで、一貫した移行支援サービスを提供しています。
詳しくは、以下のページをご覧ください。

[筆者プロフィール]
佐々木
テクニカルサポート出身のITライター。Windows Server OS、NAS、UPS、生体認証、証明書管理などの製品サポートを担当。現在は記事制作だけでなく、セキュリティ企業の集客代行を行う。