新たなビジネスパートナー「AI PC」とは?具体的な活用例も紹介

マイクロソフトがAI活用のために設計された「AI PC」の新ブランド「Copilot(コパイロット)+PC」を発表しました。AIブームが加速する中で、今後は業務PCがAI PCに置き換えられるとの声も聞こえてきます。本コラムでは、AI PCの定義やAI PCに求められるシステム要件、AI PCにできることを解説します。

ビジネス領域を中心に普及が見込まれるAI PC

AI PCの登場は、PC業界において数十年に一度のイノベーションともいわれています。ビジネス領域に浸透し、業務の進め方を大きく変えることが見込まれるAI PCとはどういったものなのか、特長や定義を紹介します。

マイクロソフトが「AI PC」のCopilot+PCを発表

2024年5月20日、マイクロソフトが新世代のPCとして「Copilot+PC」を発表しました。マイクロソフトおよびパートナーであるPCメーカー各社からは、Copilot+PCの要件に合致した製品群が一斉にリリースされています。Windowsエコシステムの中心にいるマイクロソフトがCopilot+PC という象徴的なモデルを発表したことで、これからビジネス領域を中心としてAI PCが本格的に普及していくことが予測されます。

以前からインテルやAMDなど、半導体メーカー各社はAI PCに向けたチップセットの開発を進めており、2024年2月にはインテルとマイクロソフトが共同でAI PCの定義を発表するなど、AI PC周りの動きは活発化していました。Copilot+PCの発表以前にも複数のメーカーから、インテルのCore UltraプロセッサーやAMDのRyzen AIを搭載したAI PCが発売されています。

そのためCopilot+PCは、すでに「第2世代AI PC」と表現されることもあります。ちなみに今回発表されたCopilot+PCには、ArmベースのQualcommの「Snapdragon X Elite/X Plus」やAMDの「Ryzen AI 300」が搭載されており、今後はインテルの次世代チップを搭載したCopilot+PCが登場すると予想されています(2024年8月現在)。Snapdragon X シリーズについて、詳細はこちらをご確認ください。

AI PCの定義と2つの特長

AI PCの定義とはどのようなものでしょうか。

例えば、インテルとマイクロソフトが共同で定義したAI PCの要件は以下の通りです。

  • マイクロソフトのAIエージェント「Copilot」を利用できること
  • キーボードに「Copilot キー」を搭載すること
  • CPUやGPUに加えてNPU(Nural Processing Unit)を搭載すること

一方AMDでは、AI PCを次のように定義しています。

  • CPUとGPUに加えてNPUを搭載すること
  • NPUが10TOPS以上であること

このように各社の立ち位置によって、AI PCに求める要件は異なります。しかし、AI PCには大きく2つの特長があります。1つ目は「NPU」というAI活用に向けて最適化された新しいプロセッサーが搭載されているということです。非Windows陣営のAppleではNPUという呼び方こそしていませんが、最新チップの「M4」に、AI処理を高速化するための「Neural Engine」というプロセッサーを搭載しています。

AI PCの要件を満たさなくてもAIを活用することはもちろん可能ですが、CPUとGPU、NPUを使い分けることでAI処理における無駄なリソースの消費をなくし、消費電力を抑えつつ高いパフォーマンスを出すことができるようになります。ちなみにNPUの処理性能を表すTOPSのOPSとは、FLOPSがCPUやGPUの処理能力を示す指標であるのと同様に、AIや機械学習で活用される整数演算の能力を反映した性能指標のことです。

2つ目は、ローカルPC内で高速にAI処理を行えることです。機械学習をはじめとする従来のAIサービスやAIモデルの学習、ChatGPTに代表される生成AI系サービスは、利用者がPCなどのエッジ端末からリクエストを送って処理はクラウド上で行っています。しかし、AI PCを利用するとローカル側でもさまざまなAI処理を行えるようになり、AI活用の高度化が見込めます。

従来のAI利用における課題を解決するAI PC

これまでのAI活用においては、多くの課題が表出しています。

まず、AIを利用するにあたりユーザーからのクラウドに対するリクエスト数が増加したことで、処理速度の遅れやデータセンターでの消費電力の増加という問題が浮上しています。利用者が今後も増え続ける状況を改善するためには、新しいデータセンターの建設や機器の追加が必要となることは必至です。そのため、今後AIを利用するための料金が高くなることと、環境面でも多大な負荷がかかるという問題が指摘されています。

また、AIをクラウドサービスとして活用するために、特に法人では自社のデータが意図せぬ形でAIサービスを提供する側に渡ってしまう、あるいはAIが学習するための汎用モデルの中に取り込まれてしまうといったセキュリティ面での問題も発生しています。また、日本のさまざまなデータや有識者がITやAIの市場を握る特定の海外ベンダーに流出してしまうというリスクもはらんでいます。

AI PCを利用すると、それらの問題を解決できます。データをクラウドに送らないため、データ流出を心配する必要はありません。データやアプリケーションの処理も手元のPC内で行うためにパフォーマンスが向上します。

さらに、PCの利用を重ねるにつれてAIが利用状況を学習し、PCを個人や企業にとって最適化された形へと成長させていくことができるというメリットもあります。

AI PCが特に活躍する領域

このように現在まさに進化の過程にあるAI PCですが、一体どのような領域での活躍が見込まれているのでしょうか。基本的にPCを使う業務全般にて活用可能ではありますが、特にこれまで処理速度やセキュリティ、コストといった制約のためにAIを使えなかった領域で有効活用されると考えられます。

医療業界

まず考えられるのが、医療分野での活用です。病院をはじめとする医療機関は個人情報を多く取り扱っており、なるべく外部との接続は避けたいという環境にあります。また、大病院でなければ予算も潤沢ではなく、医療機器に対する投資は前向きでも、なかなかシステムへの投資は進まなかったという歴史もあります。

そのような状況で現在、医療現場に向けてMRIなどの画像診断装置にAIを活用して高精細画像を分析し、疾病の発見につなげるためのサービスが登場してきました。それらのアプリケーションが専用のコンピューターではなく、AI PCで安全かつ手ごろな価格で使えるようになれば各病院で導入しやすくなり、医療技術の大幅な向上が期待できます。

また、薬剤開発への活用も見込めます。スーパーコンピューターをはじめとする大規模な計算リソースを使わなくてもAI PCのNPUを活用して効率的なデータ解析がしやすくなるため、新薬の投入スピードや病気の原因究明にかかる時間が短縮されます。

自動車業界

自動車分野では、自動運転や安全の確保、渋滞の解消などの目的で従来からAI活用が進められています。その取り組みの中では「エッジAI」という文脈のもと、車載コンピューターや通信システム、自動運転、先進運転支援システム(ADAS)、ルート予測などの用途でそれぞれ最適なAI活用の方法が模索されている状況です。

AI PCが直接自動車に搭載されるということは考えにくいでしょう。ただし、そういった次世代型の自動車を作っていく中で、かつて自動車におけるコンピューター制御の比率が高まるにつれてPC系のチップやOSが自動車向けに改良されていったように、AI PCで活用したテクノロジーや情報活用の仕組みがいずれ車載システムに実装されていく可能性は高いといえます。実際にインテルは、AI PC向けの技術をベースに自動車(SDV=Software Defined Vehicle)向けSoCの開発を進めていることを明らかにしています。

ビジネスシーン

ビジネスのシーンでは、業務生産性の向上を目的としたAI PCの利用が想定されます。例えばCopilotを活用することで、レポート作成の改善、メールの下書き、スケジュール管理、資料の作成といった業務が自動化または簡素化されます。

また、スムーズなコミュニケーションを取るためにAI PCを活用するケースもあるでしょう。AI PCでは、オンラインミーティングサービスにてすでに提供されているAIを活用した各種効果機能が増強されるため、ミーティング時の生産性が向上します。具体的には、AI PCに搭載されたNPUによって、画面表示や通話時の品質、ビデオとオーディオで利用されるAIワークロードの電力効率が改善されます。また、メッセージの下書きや会議の要約生成などの機能をフルに活用することでも、ビジネスパーソンの生産性向上が期待されます。

そのほかにも、AI PCの活用によってデータ分析を高度化させ、正確な意思決定をしようと試みる組織もあるでしょう。クリエイティブの領域では、画像や動画、広告などのコンテンツを作成する際の作業が、AI PCの高い処理能力によって自動化または効率化されます。

AI PCはマーケティングや営業、行動予測、物流などさまざまな業務領域での活用が見込まれます。

AI PCが浸透するにはアプリケーションの対応が必須

今後はAI PCの出荷台数が劇的に増え、社会に浸透していくと予測されています。

例えばインテルでは、2025年までに同社のSoCを搭載したAI PCが全世界で1億台を超えるとの見通しを示しています。国内でも、MM総研では2028年度には法人向け年間出荷台数の3分の2に相当する525万台規模まで需要が拡大する見通しであるとの予測を発表しています。

ただし、AI PCが普及していくためには、PCの他にも市場でAI PCの要件に合ったアプリケーションが用意される必要があります。もちろんCopilot+PCには複数の対応アプリケーションがバンドルされていますが、特に多岐にわたる業務で利用していくためにはまだまだ十分ではありません。

そのため、インテルをはじめとするチップベンダーやマイクロソフトなどは、AI PCアプリケーション開発者向けの支援プログラムや開発プラットフォームを用意して、AI PC対応のアプリケーション開発を支援しています。ISVやシステムインテグレーターにとっては、新しい市場に進出するチャンスとなるため、今後は多くのアプリケーションが登場することが見込めます。近いうちに、キラーアプリケーションも生まれてくることでしょう。

まとめ

ビジネスパーソンにとって、AI PCとは高度な業務遂行ツールでありつつ、AI時代において業務の高度化を支援してくれる優秀なパートナーであるといえます。わざわざ“AI” PCと呼ばなくなる日もそう遠くはないでしょう。AIは私たちの想像を絶する速さで進化を続けています。企業も様子見をせずに、積極的に導入して生産性向上を図ってみてはいかがでしょうか。

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