近年、多くの企業がアプリケーションをモダン化し、クラウドネイティブアーキテクチャに移行することを検討しています。これは、従来の巨大で複雑なモノリシックなアプリケーションでは、昨今のビジネス環境の変化や「DX」といった要請に追随することが難しいためです。そのため、クラウド基盤の活用を前提とした、従来よりも柔軟に変化に対応できる、スケーラブルなアプリケーションが求められるようになっています。
本稿では、クラウドネイティブとは何か、クラウドネイティブの導入がシステム開発にどのような変化をもたらすか、企業のビジネスにどう影響を与えるかに言及し、クラウドネイティブを構成する要素、実現するにあたっての課題とソリューションを紹介します。
クラウドネイティブとは、クラウドコンピューティングの利点を最大限に活用してアプリケーションを構築および運用するアプローチです。
クラウドネイティブでは、オンプレミス環境と比較して、スケーラビリティ、柔軟性、信頼性を高めるように設計されています。そのため、クラウドネイティブの思想に基づきシステム開発をすることで、スケーラビリティや柔軟性の向上、高い可用性と信頼性、開発の迅速化など、さまざまなメリットを享受できるようになります。
また、クラウドネイティブのアプローチは、企業のビジネスにおいても大きな影響を与えます。例えば、従来のモノリシックなアプリケーションからマイクロサービスアーキテクチャへの移行を促進することで、柔軟性と拡張性を向上でき、アプリケーションのモダン化につながります。他にも急速に変化するニーズに迅速に対応し、トラブルによる影響を最小限に抑える堅牢性など、DXに代表されるビジネス変革を推進するためにも有効です。
クラウドネイティブを構成する技術的要素には、コンテナ、オーケストレーション、CI/CD、監視などが挙げられます。昨今ではクラウドネイティブの実現に活用できるツールやテクノロジーも複数提供されており、それらを組み合わせて利用することで、ニーズに応じた柔軟性やスピード感のあるアプリケーションを作り上げることが可能となります。
前述のとおり、クラウドネイティブの手法は、ビジネスを取り巻く急速な変化に柔軟に対応できる、スケーラブルなアプリケーションの構築と運用において有効となります。
ここでは、クラウドネイティブにより実現できる以下の 3点を解説します。
クラウドネイティブを構成する要素の1つであるマイクロサービスアーキテクチャは、アプリケーションが独立した小さなサービスに分割されています。そのため、個々のサービスは他のサービスに影響を与えることなく、必要に応じてスケールアップまたはスケールダウンが可能です。
通常のクラウドの利点である、コンピューティングリソースの動的プロビジョニングによるスケーラビリティと合わせ、企業の成長や需要の増加に伴い発生する、ユーザーやトラフィックの急増にも、コストを節約しながら対応し、アプリケーションのパフォーマンスを維持できます。
従来のモノリシックな構造をもつアプリケーションは、機能の変更時に全体を更新する必要があり、開発速度の低下や柔軟性の欠如など、課題を抱えています。くわえて、個々の機能拡張が困難な点や、使用しているテクノロジーによる制約を受け続ける点も、現代の変化の激しいビジネス環境では問題となります。
クラウドネイティブで用いられるマイクロサービスアーキテクチャは、モノリシックアーキテクチャとは異なり、単一のユニットとして全体を更新する必要がありません。個々のサービスは独立して開発やデプロイ、スケーリングができるため、システム全体の柔軟性が向上します。また、マイクロサービスの分散化により、特定のサービスの障害がサービス全体に波及することを防ぎ、可用性の向上にもつながります。
他にもコンテナを活用すると、障害が発生した場合にアプリケーションを迅速に復旧する可用性の向上に有効となります。クラウドベンダーによる冗長化されたインフラと合わせ、クラウドネイティブのアプローチによって更に可用性の向上が可能となり、ビジネスチャンスや信頼喪失のリスクを減らすことができます。
クラウドネイティブのアプリケーション開発で用いられる CI/CD は、開発者がコードを頻繁に変更し、自動化されたテストとデプロイを行う環境を実現します。この環境での開発は、バグの早期発見と修正、それによる新しい機能の迅速なデプロイとリリースサイクルの短縮化を可能にします。
コンテナ化により、アプリケーションを環境に依存しない形でパッケージ化し、それらをオーケストレーションツールで管理することも、デプロイを迅速かつ容易にします。迅速なデプロイとリリースサイクルの短縮により、顧客に最新の機能とアップデートをより迅速に提供できるため、顧客満足度の向上や企業の競争力の強化につながります。
クラウドネイティブを構成する主要な要素について解説します。
独立して機能する小さなプロセスにタスクを分ける形でアプリケーションを構成するソフトウェア開発の手法です。
機能ごとに独立して開発、デプロイ、スケールすることが可能となり、アプリケーションの保守性や拡張性、可用性が向上します。反面、モノリシックなアプリケーションよりも複雑になり、管理コストが上昇しがちであるという課題もあります。
アプリケーションを独立して実行する環境を、仮想化技術を用いて構築する技術です。具体的なプラットフォームとして Docker がよく知られています。
お互いのコンテナの動作に影響を与えない環境のため、開発・デプロイが容易になり、これまで以上にリソースを効率的に使用できるというメリットが得られます。
コンテナの数が増加してくると、その管理や運用が煩雑になる傾向があります。そのデメリットを解消するために用いられるコンテナオーケストレーションと呼ばれるツールが存在し、デファクトスタンダードの地位にあるツールはKubernetesです。
Kubernetesの能力をクラウドネイティブで最大限に発揮するには、負荷分散、監視、セキュリティ制御などの統合機能が欠かせません。それらを包括的に提供する製品として Red Hat OpenShift などがあります。
DevOps(デブオプス)とは、開発(Development)と運用(Operations)が密に連携して協力しあう開発手法であり、ビジネス価値を迅速かつ継続的に向上させることを目的としています。
クラウドネイティブの特性を活かすには、DevOpsと並んで、開発とデプロイのプロセスを自動化する CI/CD ツールの利用も欠かせません。
CI/CDを含めた統合的なDevOpsプラットフォームとしてGitLabが挙げられます。これらを活用することで、ビルド・テスト・デプロイを自動化でき、迅速かつ柔軟な開発を行うことができます。
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クラウドネイティブにはいくつか課題があり、クラウドネイティブの利点や特性を最適化するためには、以下の課題を解決できるツールを採用することが肝要です。
マイクロサービスの利用によるアプリケーションの複雑化により、マイクロサービスの増加を適切に管理しないと、開発の停滞を招くことになります。また、マイクロサービスごとに、テスト、デプロイ、監視などに関する独自のコストがかかり、管理コストの上昇も起こりえます。
Red Hat OpenShift は、アプリケーションを大規模に構築、モダナイズ、デプロイするための統合プラットフォームであり、開発の停滞や管理コスト上昇の課題解決に役立ちます。
クラウドネイティブ環境では、高頻度のデプロイや自動復旧によってシステム構成が頻繁に変わります。加えてマイクロサービス間の相互通信による通信フローの複雑化が起こり、ツールによる支援がなければ成り立たないほどに運用負荷が増大します。
IBM Instana はAPM(アプリケーションパフォーマンス監視)ソリューションの一つで、システムの構成変化を自動で把握し、適切な監視設定を自律的に適用してくれるため、運用負荷増大の課題に対応できます。
DevOpsを実現するためには、プロジェクト管理や開発・テスト・デプロイといった工程を支える複数のツールを活用する必要があります。それぞれに適したツールを選択することが迅速な開発に繋がりますが、一方では個別に動作する複数のツールが開発の管理面に複雑さをもたらし、開発速度の低下を招くことにもなります。
GitLab は DevOps で必要とされるツールを網羅しており、GitLab を使用することでツール管理のオーバーヘッドに悩まされることがなくなります。
アジャイル開発やCI/CD、自動化、監視・管理の機能を提供し、クラウドネイティブの持つ課題解決に有用であり、ひいてはビジネス課題の解決に役立つ代表的なツールをあらためて紹介します。
スケーラブルで完全に自動化されたマネージドKubernetesサービスです。簡単な操作と高い信頼性を提供し、クラウドネイティブなアプリケーションのデプロイメントと管理の効率化につながります。
特にAutopilotモードでは、コンテナを実行するためのノード管理やリソース調整、セキュリティの設定が不要となり、開発者はアプリケーションの開発に専念できるようになります。
エンタープライズなコンテナの効率的な管理とセキュリティ強化を提供するフルマネージドのKubernetesサービスです。大規模にコンテナ化されたアプリケーションを簡単かつ信頼性の高い方法でデプロイ、管理、スケーリングするための機能を提供し、負荷分散や高度なアクセス制御を実現します。
Azureの提供する、Azure Active DirectoryやAzure Monitor、Azure DevOpsなどのツールやサービスとのシームレスな連携が容易であり、開発者は統合化された開発環境で、効率的に作業を進めることができます。
コンテナ化やオーケストレーション、および自動化を組み合わせることで、アプリケーションの開発、デプロイメント、管理を効率化する統合プラットフォームです。マネージドサービスとして、Microsoft と Red Hat が共同運用するAzure Red Hat OpenShiftや、IBM CloudがRed Hat OpenShift上の全ての管理を担うRed Hat® OpenShift® on IBM Cloud®も提供しています。
Red Hat OpenShift は、他ソリューションと比較して、サポートや蓄積されたナレッジの質と量においても優れており、開発者はビジネス上の価値を提供する機能の開発に注力できるようになります。
クラウドネイティブ環境でのアプリケーション監視、異常な動作やエラーの発見、問題発生時のアラート通知など、運用の簡素化と自動化を行う APMツールです。
システム構成の変化を自動的に把握する自律性、優れたデータ分析と可視化機能、取得したデータから障害の原因を推測する機能などで、運用を強力に支援してくれます。
GitLab はソフトウェア開発を支援するプラットフォームで、DevOpsのライフサイクル全般に対応した課題管理、ソースコード管理、ソースレビュー、CI/CDなどの一連の機能が統合されて提供されています。
必要な機能が統合されていることでツール管理のオーバーヘッドを最小限に抑えることができ、DevOps の可能性を最大限に引き出すことが可能です。
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ここまで、ビジネス課題の解決に有効なアプローチであるクラウドネイティブについて、その採用により実現できること、主要な構成要素や利用における課題などを解説しました。
クラウドネイティブのメリットを最大限に活かすためには、課題解決に役立つ最適な技術やサービス、ソリューションを選択し、活用することが不可欠です。
クラウドネイティブへの移行には、クラウド技術への深い理解や経験が求められます。自社への導入を検討されている方は、まずはTD SYNNEXにお気軽にご相談ください。