AI PCに不可欠な「NPU」とは?AI PCの選定ポイントも紹介

マイクロソフトからAI活用に特化した「Copilot(コパイロット)+PC」が発表されました。今後はAI PCがビジネスの現場で普及することが予想されます。AI PCにはCPUとGPUのほかに、AI処理に特化したプロセッサである「NPU」が採用されています。本コラムでは、今後AI PCを活用するために知っておくべきNPUの役割と、AI PCの選定ポイントを紹介します。

スマートフォンに続く新たなゲームチェンジャー「AI PC」

はじめに、AI PCが国内のPC市場にどのような影響を与えるのか解説します。

AI PCが国内のPC市場を拡大する

国内のPC市場は、2019年に文部科学省が進めた「GIGAスクール構想」に伴う文教需要と、2020年のコロナ禍でのリモートワーク対応によるモバイルPC需要という2つの特需以降、低迷が続いています。

ICT領域の調査・コンサルティング会社であるMM総研が発表した「2023年暦年 国内パソコン出荷台数調査」によると、2023年の国内パソコン出荷台数は、前年比3%減となる1093.5万台で、3年連続の減少となりました。

ただし同調査では、2024年のパソコン出荷台数は前年比4.8%増の1145.9万台となり、成長に転ずると予測しています。具体的な要因としては、2025年に予定されるWindows OSの更新需要や、GIGAスクール端末の入れ替え需要が2024年から徐々に発生することに加えて、AI処理を高速化する「AI PC」の存在が挙げられています。

2024年はAI PCの普及元年に

実際に2024年は、インテルやマイクロソフトなどがAI PCの定義を公表し、さらにマイクロソフトが新たなブランドとして「Copilot+PC」を発表してPCメーカー各社が一斉に対応製品を発売するなど、AI PCの普及元年といえます。前述したMM総研の調査が指摘しているOSのサポート終了や制度対応による買い替え需要というのは、数年ごとに定期的に訪れる、いわば「後ろ向き」な動機による需要とも言えます。しかし、AI PCへの注目に関してはデバイス側のイノベーションに端を発するものであり、「前向き」な動機に伴う需要と見ることができます。

同じくMM総研が2023年7月に発表した「AIパソコンの国内法人市場予測」では、今後5年間でAI PCの普及が急速に進み、2028年度には法人向け年間出荷台数の3分の2に相当する525万台規模まで需要が拡大する見通しであるとしています。特に、2025年度には法人向けパソコン市場が成長する見通しです。「Windows10」のサポート終了に伴う更新特需が予想されるためです。加えて、AIがパソコンのインターフェイスとなることで買い替えサイクルが変化し、2026年度以降はOS更新サイクルとは別に安定的に市場全体の需要が拡大していくと予測されています。

このようにAI PCは、かつてスマートフォンが普及したときのように、大きなゲームチェンジをもたらす可能性を秘めているのです。

データ量の増加でクラウド型ではAI処理が追い付かない

AI PCの普及というシナリオは、デジタルデータの爆発的な増加という側面からも必然といえます。日本はこれから、サイバーとフィジカルが高度に融合する「Society 5.0」という社会環境への移行を目指しています。このSociety 5.0を実現するためには、ハード面での技術革新に加えてデータの分析や活用が必須となりますが、そのためにはAIの活用が欠かせません。

ところがAIを活用するためのデータの保存や処理を現状のクラウド型で進めていくことには、こちらのコラムで触れた通り、コストやセキュリティ、レイテンシー、環境問題などさまざまな問題が表出しており、すでに限界が見えています。そこでクラウドを経由せずにローカルやエッジ側でAIを処理する機能が必要となり、その中でAI PCは必要不可欠な存在になるのです。

AI PCに必須の「NPU」とは

AI PCには、CPUやGPUのほかに「NPU」が搭載されています。ここでは、NPUの概要や必要性を解説します。

「CPU」「GPU」「NPU」を採用した処理の仕組み

AI PCではAIを有効活用するために、「CPU(Central Processing Unit)」と「GPU(Graphics Processing Unit)」という従来のプロセッサのほかに、NPU(Nural Processing Unit)と呼ばれるAI関連の処理に最適化されたプロセッサを搭載しています。それによって、ローカルのPCでAIを活用する際の計算能力を向上させているのです。PCの利用時には、求められる処理に応じて3つのプロセッサを使い分けることで、通常のPCよりも効率的なAIの処理を行えます。

CPUやGPUではAI処理を行えないのか、疑問に思った方がいるかもしれません。

従来のPCでは、メインの頭脳としてCPUが存在し、それを補足・強化する形で画像処理や映像出力に特化したGPUが搭載されていました。ただし、AIを活用する際には膨大な計算量を必要とするため、CPUで処理そのものはできても、パフォーマンス不足で処理に時間がかかってしまいます。GPUは多数のコアで並列処理を行うため、機械学習や大量のデータを高速に処理できますが、大量に電力を消費するうえ、高価なためにコアを増やしていく際にはコストもかかります。

つまり、従来のPCの仕組みではAIの処理はできても、それぞれがデメリットを抱えていて、得意分野とはいえなかったのです。

三位一体でのAI処理が必要

NPUは、それらの問題点を解消するために開発された「第3のプロセッサ」と表現できます。演算性能を示す際にも、CPUやGPUが「FLOPS(Floating-point Operations Per Second)」という指標を使うのに対し、NPUでは「OPS(Operations per Second)」という指標を使います。

両者の違いを説明すると、まずFLOPSとは、従来のコンピューターで行われる浮動小数点数演算を1秒間に何回できるかの数値を表したものです。スーパーコンピューターの性能指標として、「PFLOPS(ペタフロップス)」という表現を耳にする機会も多いのではないでしょうか。

一方OPSとは、機械学習で使用される整数演算を1秒間に何回できるかを示す数値であり、AIの動作速度を表すための指標です。例えばCopilot+PCの要件として示されている40TOPS(Tera Operations per Second)は、「1秒間に40兆回の整数演算を実行できる」ことを示します。

ただし、超高性能なNPUさえ用意すればすぐにAIを快適に利用できるというわけではありません。アプリケーション側が処理する際にNPUを使う(推論処理をオフロードさせる)ような設計を施していない限り、NPUは使用できないからです。

つまりAI PCにNPUの搭載は必須ですが、CPUとGPU、NPUという3種類のプロセッサにてAI処理を行うため、それぞれの性能が重要になるというわけです。現時点でのNPUは、ローカルデバイス側でAI処理を高速化させるためのAIアクセラレーターのような位置付けといえるでしょう。

使い方で判断する「AI PC選び」

AI活用を促進するAI PCの利用を検討する場合、どのような観点から選定すべきでしょうか。AI PC選定のポイントを解説します。

Copilot+PCの登場でラインアップが一気に増えたAI PC

現在市場では、国内外のPCメーカーから複数のAI PCが発売されています。特にマイクロソフトからCopilot+PCが発表されてからは製品ラインアップも一気に増え、現在大型家電量販店の店頭でも専用コーナーが設置されている状況です。その中から、どのようなAI PCを選べば良いのでしょうか。

基本的には、従来のPCの選び方と同様である部分が大きく、AI PCの使い方によって判断するという形が妥当な選び方です。例えばデータ処理を主な用途とする場合はCPUの性能とメモリ(RAM)の大きさを重視すべきですし、画像認識を行いたい場合はGPUとSSDの性能を優先する必要があります。テキストデータを処理する場合は、十分なメモリと高速なSSDが必須になるといった具合です。

その中で、例えば生成AIを使いたいというニーズがある場合は、キーボードに機能ボタンが割り振られているCopilot+PCが良いでしょう。複数のメーカーから端末がリリースされているので選択肢も豊富です。Copilot+PCは要件が定義されているため、各社ともスペックにさほど変わりはなく、動作も安定しているという印象です。

また、クリエイター向けに、例えばインテルCore UltraプロセッサにNVIDIAのGPUを搭載したモデルも発売されています。NPUは最新Copilot+PCの40TOPSという数値には至りませんが、処理速度を優先する場合はNPUの数値性能にこだわる必要はないでしょう。

CPU、GPU、NPUの総合的なパフォーマンスで判断するのが適切

これからNPUを活用するアプリケーションが続々と登場し、活用例も含めて市場に普及した段階で答えは変わるかもしれませんが、結局のところはCPUとGPU、NPUの統合的なパフォーマンスで判断するのが現時点での最適解と言えます。

Appleも含めて各社が高速なNPUを搭載したチップをすでに発表しており、今後も性能面はどんどん進化して、多様なAI PCあるいはタブレットが発売されていくことは間違いないでしょう。

また、クラウドAIのデータセンター領域で勝者となっているNVIDIAが、マイクロソフトと連携してNPUの処理をGPU搭載のコアで行えるようにするAI PC向けの仕組みを開発。その仕組みを実装した「RTX AI PC」を2024年度後半に公開するという発表もしており、AI PCの着地点は実はまだ完全には見えてはいない状況です。

いずれにせよ、まずはAIを活用してやりたいことを明確にしておくことがAI PC選びの第一歩になるでしょう。その上で、企業ユーザーであればデジタル部門が先行導入して検証をしたり、情報システム部門であれば、アプリケーション領域までの知見を持った複数のITサービス事業者に意見を求めつつ導入を進めるのが確実といえます。

AI PC向けのアプリケーションを開発するための環境も整った

AI PCそのものの進化と同時に、PC上で動作するアプリケーションの開発が待たれます。AI PCをはじめとするハードウェアは、あくまでAIを動かすための仕組みであって、AIを使って何ができるようになるかは、ソフトウェア次第です。

その中で先般、PCデスクトップ領域のシェアを持つマイクロソフトがCopilot+PCでかなり具体的にAI PCの在り様を定義したことで、デスクトップで動くAI機能を実装したアプリケーション開発がしやすい環境ができました。もちろんマイクロソフトだけでなく、チップセットを開発する各社も開発支援の環境を用意しています。

これからは、かつてのモバイル時代のiOSとAndroidのような形で、AI PCアプリケーション領域でのデファクト競争が発生するかもしれません。いずれにせよAI処理は、現状のクラウド中心の「クラウドAI」から、自社に閉じた「オンプレミスAI」やローカル側の「エッジAI」へと少しずつオフロードされ、ハイブリッドな形でよりAIを使いやすい枠組みが整備されるようになることが期待できます。

まとめ

昨今の生成AIブームの加速状況と同様に、これからAI PC向けのアプリケーションが開発され、利用環境が整備されていくことは間違いありません。日本企業は以前からITやデジタルの活用が遅れていることが指摘されており、実際にこれまで日本企業が保有していた市場が、海外のビッグテックや新興企業に奪われてしまいました。その経験を踏まえて、AIに関しては乗り遅れないようにしたいところです。そのための第一歩として、まずはAI PCに触れてみることをお勧めします。

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