AIを導入する手段の一つとして、クラウド上でAIを利用することができる「クラウドAI」の人気が高まっています。
クラウドAIは、AI技術の活用を加速させる手段として、ビジネスの現場でもさまざまな分野で導入が進んでいます。

本記事では、クラウドAIのメリット・デメリット、活用事例、エッジAIとの違いなど、クラウドAIに関する情報を詳しく解説していきます。

クラウドAIとは

まずは、「クラウドAI」とは何か、クラウドAIでできること、なぜ今クラウドAIが注目されているのかについて、それぞれ解説していきます。

クラウドAIの定義

クラウドAIとは、クラウド環境上で利用できるAIサービス全般のことを指します。
インターネット経由でクラウド環境にアクセスすることで、クラウドサービスプロバイダーの提供する最新のAI機能を活用できる点が特徴です。

クラウドAIは、クラウドコンピューティングの「必要な時に必要なだけ」リソースを使えるという利点と、AIの「大量のデータから学習し、高精度な予測や判断を行う」という利点が組み合わさったサービスです。

クラウドAIでできること

クラウドAIでできることは多岐にわたります。代表的なものとして、画像認識、音声認識、自然言語処理、予測分析などがあげられます。
クラウドAIの機能を活用して、顧客対応の自動化、製品開発の効率化、リスク管理強化など、さまざまなビジネス課題の解決に役立てることができます。

また、AIの活用は業務効率化やコスト削減だけでなく、新たなビジネスモデルを創出し、企業の競争優位性を確立していくことにもつながります。

なぜクラウドAIが注目されているのか

従来、AIシステム構築には高額なコストと高度な専門知識を持つ人材が必要であり、導入のハードルが高いことが課題でした。

クラウドAIは、クラウドベンダーのリソースやアルゴリズムを利用することができるため、ゼロからAIシステムを構築する必要がありません。
そのため、AI導入に多額の投資が難しい中小企業などでも、AI技術を導入しやすくなったことが、クラウドAIが注目される理由です。

また、各クラウドベンダーから多様なAIサービスが提供されているため、自社のニーズに合わせて最適なサービスを選択できることも、クラウドAIの人気の背景であるといえるでしょう。

クラウドAIとエッジAI、オンプレミスの違い

AIの利用方法は、クラウドAI、エッジAI、オンプレミスの3つに大別できます。それぞれ特徴が異なるため、AIの活用目的に合わせて最適な方法を選ぶ必要があります。
ここでは、エッジAI、オンプレミスとクラウドAIの違いについて説明していきます。

クラウドAIとエッジAIの違い

エッジAIとクラウドAIの主な違いは、AI処理を行う場所です。

クラウドAIは、ネットワークを介してデータをクラウド上のサーバーに送信し、クラウド上でAI処理を行います。
それに対して、エッジAIは端末側(エッジデバイス)にAIを搭載し、端末側でAIの処理を行います。エッジAIはクラウドへのデータ通信を最小限に抑えるため、データの即時処理が可能となるのが最大の特徴です。

このことから、例えば車の自動運転のようにリアルタイム性の高い処理が必要である場合は、クラウドAIよりもエッジAIの方が適しているといえます。

・エッジAIについては、以下の記事をご覧ください。
期待高まる「エッジAI」、業界別の活用シーン例を解説

クラウドAIとオンプレミスの違い

クラウドAIとオンプレミスの違いは、AIシステムの構築・運用場所にあります。
クラウドAIはクラウドベンダーの環境を利用するため、インフラの構築・運用は基本的にベンダーが行います。

一方で、オンプレミスは自社でインフラ環境を構築・運用する方式です。そのため、初期コストがクラウドAIと比較して高額になるだけでなく、システムの維持管理コストも必要となります。
オンプレミスは、データの管理とAI処理をすべて自社環境で行うため、金融機関や医療機関など高度なセキュリティが求められる場合に適しています。

クラウドAI・エッジAI・オンプレミスの特徴を比較

クラウド・エッジAI・オンプレミスの特徴について、処理速度、セキュリティ、コストなどの観点で比較すると以下のようになります。

クラウドAIエッジAIオンプレミス
処理速度ネットワークの通信速度に依存高速(ネットワーク環境に依存しない)高速(ネットワーク環境に依存しない)
リアルタイム性ネットワーク通信遅延により、遅延が起きる可能性があるリアルタイム性が高いリアルタイム性が高い
セキュリティクラウドベンダーの対策に依存端末内で処理が完結するため、リスクが低い自社環境で処理が完結するため、リスクが低い
コスト初期費用は低い
運用費は従量課金制が基本
端末の費用によりコストが変動する初期費用・保守運用コストが高い
主な用途大規模データ分析、レコメンデーション、チャットボット自動運転、ロボット制御、産業用IoT、スマートファクトリー金融・医療システム、基幹業務システム

クラウドAIのメリット

クラウドAIには、多くのメリットがあります。クラウドAI導入の利点を4つのポイントから解説していきます。

低コストで導入できる

クラウドAIの最大のメリットとして、導入コストの低さがあげられます。
従来のオンプレミス型のAIシステムでは、高価なサーバーなどのハードウェア、AIモデルを開発・運用するためのソフトウェア、それらを構築・管理するための専門的な人材が必要でした。
しかし、クラウドAIでは、これらのインフラ構築にかかる費用や人材を自社で用意する必要がありません。

クラウドベンダーが提供するリソースとAI機能をすぐに使うことができるため、初期投資を大幅に抑えることができます。
そのため、スモールスタートでAIを導入し、ビジネスの成長に合わせて利用範囲を拡大していく、といった柔軟な運用ができるという利点があります。

拡張性が高い

クラウドAIは、処理するデータ量の増加に合わせて、柔軟にリソースを拡張できるというメリットがあります。

例えば、ECサイトでクラウドAIを活用したレコメンデーションシステムを運用している場合、セール期間中などアクセスが集中する時期には、一時的にサーバーの処理能力を増強することができます。
逆に、アクセスが少ない時期には、サーバーの処理能力を縮小することで、コストを最適化することができます。

オンプレミス型のAIシステムでは、このような柔軟なリソースの増減は困難です。
クラウドAIであれば、事前の予測や準備なしに、常に最適なリソースを確保することができます。

高度な計算・処理が可能

クラウドAIは、端末側で処理を行うエッジAIと比較して、より高度な計算や処理が可能となります。
なぜなら、クラウドAIはAI処理のリソースを柔軟に拡張できるため、大量のリソースを使用する高度な計算にも対応できるからです。

また、クラウドAIでは、複数のAIモデルを組み合わせて、より複雑な処理を行うこともできます。
例えば、画像認識と自然言語処理を組み合わせることで、画像に写っている物体を認識し、その物体に関する説明文を生成する、といったアプリケーションを開発することも可能です。

学習済みのAIやサンプルデータを利用できる

多くのクラウドAIプロバイダーは、学習済みのAIモデルや、学習用のサンプルデータを提供しています。
学習済みのAIモデルとは、画像認識などの特定のタスクを実行するために、あらかじめ大量のデータで学習させたAIモデルのことです。

これらの学習済みAIモデルを利用することで、利用者は自社でAIモデルを開発・学習させる手間を省き、すぐにAIの機能を活用することができます。
また、クラウドAIプロバイダーが提供する学習用データを利用することで、AIモデルの学習に必要なデータを準備する手間を省くことができます。

クラウドAIのデメリット

クラウドAIには多くのメリットがある一方で、デメリットも存在します。
ここでは、クラウドAIの導入前に知っておくべきデメリットを3つ解説します。

インターネットに接続できることが前提

クラウドAIは、インターネット経由でクラウド上にデータを転送するため、インターネット接続が必須となります。
そのため、ネットワーク障害が発生した場合や、インターネットに接続できない環境では、クラウドAIを利用することができません。
また、インターネット接続の速度や安定性も、クラウドAIのパフォーマンスに影響を与えます。

リアルタイム処理で遅延が発生する可能性がある

ネットワーク経由でデータの送受信を行うクラウドAIは、リアルタイム処理において遅延が発生する可能性があります。
特に、データ量が多い場合や、ネットワーク帯域が狭い場合には、データの送受信に時間がかかり、遅延が発生する可能性が高まります。
そのため、リアルタイム性が求められるアプリケーションには、クラウドAIは不向きであると考えておきましょう。

セキュリティリスクへの考慮が必要

クラウドAIでは、データをクラウド上に保存するため、情報漏洩、データ改ざんなどのセキュリティリスクが存在します。
これらのリスクを軽減するためには、信頼できるプロバイダーを選び、適切なセキュリティ対策を講じる必要があります。
データ暗号化、アクセス制御、ログ監視などの基本的な対策に加えて、クラウドAIプロバイダーが提供するセキュリティサービスの活用も検討しましょう。

クラウドAIの活用事例

クラウドAIは、実際にどのような場面で活用されているのでしょうか。代表的な活用事例を4つ紹介します。

画像認識

画像認識は、画像や動画に写っている物体、人物、シーンなどを識別する技術で、クラウドAIの代表的な活用事例の一つです。
具体的には、製品の不良品検出、店舗カメラによる顧客行動分析、医療における画像診断支援など、幅広い分野でクラウドAIが活用されています。

自然言語処理

人間が使う自然言語の意味を理解し、処理する自然言語処理技術も、クラウドAIの主要な活用分野の一つであるといえるでしょう。
例として、カスタマーサポートなどにおけるチャットボットによる自動応答、テキストデータの感情分析、機械翻訳などで活用されています。
自然言語処理は、近年AI分野の中でも技術の進化がめざましい分野であるため、今後も多岐にわたるビジネスの課題解決に利用されていくことが期待されます。

レコメンデーション

レコメンデーションは、ユーザーの好みや行動履歴に基づいて、商品やサービスをレコメンドする技術です。
ECサイトなどのWEBサービス上で、顧客の興味のありそうな商品やコンテンツを紹介するために広く活用されています。
クラウドAIを活用することで、ユーザーの過去の行動履歴や属性データを分析し、ユーザーの興味や関心に合わせた商品やコンテンツを提示することができます。

需要予測

需要予測は、データに基づいて、未来の需要を予測する技術です。
クラウドAIを活用することで、過去の販売データや天候データ、経済指標などのさまざまなデータをもとに、将来の需要を予測することができます。
需要予測によって、商品の欠品や過剰在庫を防止し、売上機会の損失を最小限に抑えることができます。また、製造業では、部品の調達計画や生産スケジュールの最適化にも役立てられています。

主要なクラウドAIサービスプロバイダー

クラウドAIサービスは、多くのサービスプロバイダーから提供されています。
ここでは、主要なプロバイダーと、それぞれのサービスの特徴を紹介していきます。

AWS

Amazonが提供するAWS (Amazon Web Services)は、機械学習、深層学習、自然言語処理など、幅広いAIサービスを提供しています。
具体的には、機械学習モデルの構築・トレーニング・デプロイを行うAmazon SageMakerや 医療データ向けの自然言語処理サービスのAmazon Comprehend Medical、さまざまな業界に特化したソリューションがあります。

Google Cloud

Googleが提供するGoogle Cloudは、Googleの最先端のAI技術を活用した、高性能なAIサービスを提供しています。
開発者は、機械学習モデルの構築、トレーニング、デプロイを行うための統合プラットフォームであるVertex AIを使って、独自のAIアプリケーションを開発することができます。

また、AIアシスタントのDuet AIを活用することで、Google Cloud上の作業を効率的に進めることができます。

Microsoft Azure

マイクロソフトが提供するクラウドサービスMicrosoft Azureは、企業向けの業務効率化やDXを支援するクラウドAIサービスが充実しています。
Azureの最大の特徴は、Microsoft Office製品やDynamics 365との連携が容易であり、既存サービスとの統合がスムーズに行える点にあります。

また、Azure OpenAI Serviceにより、OpenAIの言語モデルを活用した最新の生成AIをビジネスに導入できます。その他、Azure Machine LearningやCognitive Servicesなどもあります。

IBM watsonx

IBMが提供する「watsonx」はAI学習・生成・チューニングを「watsonx.ai」、学習データ管理行う「watsonx.data」、ライフサイクル管理を行うの「watsonx.governance」の3つの機能で構成されています。
企業は「watsonx」の活用で幅広い業務でさまざまな形でAIを活用できます。

クラウドAIの将来の展望

クラウドAIは、今後もさまざまな分野で活用されていくことが期待されます。クラウドAIの発展と、普及にともなう課題点について解説していきます。

クラウドAIの発展

クラウドAIは、その利便性の高さから急速に普及が進んでいます。AI技術の進化にともない、今後もますますクラウドAIで提供される機能も高度化・多様化していくでしょう。
AIモデルの構築を支援するツールやプラットフォームも充実してきているため、将来的にはさらにAI導入のハードルが下がり、あらゆる規模の企業でAIの活用が進んでいくことが予想されます。

クラウドAIの普及にともなう課題

クラウドAIの普及が進む一方で、セキュリティリスク・プライバシー保護などの課題点もあります。
クラウドAIプロバイダーはセキュリティ対策強化、法規制遵守をこれまで以上に徹底していく必要があり、それに合わせて利用者側もセキュリティ意識の向上が必要です。

また、クラウドAIの技術が高度化するにつれて、AIを使いこなせる企業とそうでない企業との間で、技術格差が生まれる可能性があります。このような格差の解消に向けた取り組みも求められていくでしょう。

(まとめ)クラウドAIの活用でビジネスを効率的に

この記事では、クラウドAIのメリット・デメリット、活用事例などについて解説してきました。

クラウドAIは、従来のAI導入における課題を解決し、あらゆる規模の企業がAIを活用できる可能性を広げたといえるでしょう。
クラウドAIは今後も発展を続け、業務の変革や効率化にさらに役立てられていくことが期待されます

クラウドAIのメリット・デメリットを理解し、自社ビジネスにどう活用できるかを検討することで、AIの導入を成功に導くことができるでしょう。

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[著者プロフィール]
羽守ゆき
大学を卒業後、大手IT企業に就職。システム開発、営業を経て、企業のデータ活用を支援するITコンサルタントとして10年超のキャリアを積む。官公庁、金融、メディア、メーカー、小売など携わったプロジェクトは多岐にわたる。現在もITコンサルタントに従事するかたわら、ライターとして活動中。