【事例付き】製造業のテレワーク化における検討事項と推進方法を解説
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新型コロナウイルスの感染拡大を受けてすべての企業でテレワークが加速しました。製造業界でもその流れを受け、営業やバックオフィス業務の部門はテレワークに移行している会社が増えています。
一方、設計開発部門などの研究開発部門はテレワークが進められておらず、どの会社もテレワーク化に対して試行錯誤している段階です。
本記事では製造業における設計開発部門など、クリエイティブ業務に携わる部門のテレワークを推進するために検討が必要な事項と推進する上での課題を事例とともに解説します。
製造業のテレワーク推進における3つの課題
製造業における設計開発部門などのクリエイティブワーカーのテレワークが進んでいないのには大きく3つの課題があるためです。
1つ目はテレワークを実施する際のガバナンス・セキュリティの課題。
2つ目はテレワークを実現するためのソリューションを導入する際の部門間での調整に関する課題。
3つ目はソリューション自体の課題です。
ガバナンス、セキュリティの課題
新製品の設計開発を行う製造業の生産部門は機密性の高い情報を取り扱います。
テレワークを実施した際に万が一パソコンの盗難や紛失が起きた場合でも情報漏洩が起きないようなセキュリティが構築されていなければテレワークの実施は困難です。
また、テレワークは物理的に監視の目が届かなくなるため内部不正への危機管理方法も見つけなければなりません。
情報セキュリティの観点以外にもFace to Faceのコミュニケーションが取れなくなるので部門内のコミュニケーション方法、部下を監督し生産性を下げない工夫も合わせて検討しなければなりません。
製造業に限りませんが、これらのガバナンスの構築・セキュリティの構築に苦戦しているという企業も少なくありません。
社内調整の課題
多くの企業でテレワークを実現するためのソリューションを決める役割はIT部門・情報システム部門が担っています。
一方、テレワークの当事者となるのは製造業の設計開発部門です。
テレワークの推進を命じられている担当部門とテレワークになる部門の間で起こる摩擦が製造業のテレワーク化が遅れる一つの要因となっています。代表的な課題をふたつご紹介します。
慣れた作業環境を変えたくない生産部門の意見との対立
製造業の設計開発部門をテレワーク可能にさせるための要件の一つである「開発中の商品情報が漏洩しないための情報セキュリティ」を解決するソリューションのひとつが次章で詳しく解説するVDI(仮想デスクトップ基盤)です。
VDIへの移行にはPC端末の変更や通信速の低下などさまざまな変更や変化が起こります。
VDIを利用すれば、セキュリティを担保しながら社外からのデータ接続が可能になりますが、設計開発部門からすると慣れている今の作業環境を変えたくないという力が作用します。
製造業界では設計開発など生産部門の力が強い傾向があり、IT部門・情報システム部門は彼らの要望をなるべく叶えるようにソリューションを検討します。
IT資産の管理工数の削減と情報セキュリティの強化と、使い慣れたPC端末の操作環境が変わってしまうことを嫌う生産部門の意見の対立によってテレワークを実現するソリューションの導入が進まないことも少なくありません。
部門間での設備投資に対する予算調整の問題
もう一つ両部門間で問題になる事案の一つが、テレワークを実現するために必要なIT投資予算をどちらの部門が持つかということです。
多くの会社ではPC端末などの購入費用は製造部門、設計部門が自部門の予算から費用を出します。
一方、 VDIのようなソリューションはシステム費用として計上されるため、部門が負担する費用なのか、会社全体で負担する費用なのか、会社として予算配分の方針を決める必要があります。
複数の部門間で予算調整をする必要がある場合はステークホルダーも多くなりますし、予算調整に時間を要します。
システム導入を推進する担当者からすると少し腰が引ける事案であるのは想像に難くありません。
社内調整の煩雑さからソリューション導入が進まないことも少なくないのが実態です。
ソリューションに対する課題
ソリューションを導入するための社内調整に時間を要す以外に、ソリューション自体の問題でテレワーク化が進まないこともあります。
専用ソフトの処理情報が重すぎて自宅のPCで操作できない
一つ目は業務に対する生産性に関する課題です。
製造業の生産部門で扱うアプリケーションの多くは処理情報が多く、市販のパソコンでは業務に対応できない可能性があります。
この問題は使用するパソコンの性能だけではなく、テレワーク時のインターネット回線によって処理速度が遅くなることもあります。
そのため、生産部門のテレワークを実現するには、自宅で作業をする時でもパソコンの動作が遅くなり生産性が下がってしまわないためのハイスペックなPC端末の用意や通信速度が遅くならないためのソリューションが必要になります。
ソリューションの選択ができない
もう一つの課題は、テレワーク実施に向けたソリューションの選択が社内でできないという課題です。
機密性の高い情報を取り扱う製造業の生産部門のテレワークを実現するために必要な検討要件を把握しつつ、最適なソリューションを理解し、運用するための社内調整を進めるのは大変負荷のかかるプロジェクトです。
必要とされる専門知識も多いため、外部の専門家の知識を借りずに全ての判断を自社で完結するのは難しいでしょう。
また、IT部門・情報システム部門の担当者は自分たちが選択したソリューションが生産部門の課題解決につながるのか判断できないことも多く、ソリューションに対する知識だけでなく、生産部門の現場知識も必要になってきます。
これらの要件をまとめつつソリューションを選定すること自体が難易度の高いため、ソリューションの選定が進まないことがあります。
製造業のテレワークを進めるため検討しなければならない要件
製造業における設計開発部門などクリエイティブワーカーのテレワークを可能にするには
- 開発中の商品情報が漏洩しないための情報セキュリティ
- 生産性を低下させないための十分なスペックを持ったPC端末を用意する
- 生産性を低下させないための通信環境の整備
の3つが必要要件になります。
この章ではそれぞれの要件を解決するソリューションについて紹介します。
情報漏洩を起こさないための情報セキュリティの構築: VDI(Virtual Desktop Infrastructure)
テレワークに向けてソリューション検討する際、一番初めに考えるのは情報セキュリティの問題です。
製造業の生産部門は機密性の高い情報を取り扱うので、万が一PCが紛失・流出しても情報は漏れることがないような情報セキュリティを構築する必要があります。
それを実現するソリューションの一つがデスクトップ仮想化技術の一つであるVDI(Virtual Desktop Infrastructure)です。
VDIは全てのスタッフに支給されるPC端末のデータ・情報をサーバー上で管理するため、端末一台ごとに環境設定をする必要がなく、また、各部門で使われているソフトウェアの情報も一元管理できます。
加えて、各PC端末にデータが保存されないので情報漏洩のリスクが軽減されます。
デスクトップ仮想化技術には VDIの他にSBC(Server Based Computing)、HDI(Hosted Desktop Infrastructure)、DaaS(Device as a Service)という方式もあります。
それぞれの方式の詳細はVDI(Virtual Desktop Infrastructure)とは で解説しますが、簡単に解説します。
SBCは単一のOSとアプリケーションをサーバーにインストールし、それを複数のPC端末で利用する方式です。
例えると、一つのパソコンを複数人がシェアするイメージです。
パソコンに入っているWordやPowerPointなどのアプリケーションは共通ですし、保存されるデータも同じパソコンに保存されます。
HDIはパソコン一台一台に専用のサーバーを用意する方式です。手元のパソコンにはデータは保存されず、各サーバー上に各人のデータが保存されます。
例えると、一人一台のパソコンと外付けハードディスクがある状態のイメージです。データは全てハードディスクに保存されるため、手元のパソコンにはデータは保存されません。
VDIはサーバー上に各PC端末用の仮想マシン(仮想のパソコン)を作成し、OS、アプリケーションをそれぞれインストールします。各PC端末からはそれぞれの仮想マシンにアクセスし遠隔で操作する方式です。
例えると、一つのパソコンに複数のアカウントが存在し、アカウントごとにOSやアプリケーションが異なり、利用者は自分のアカウントにログインして利用するイメージです。
最後のDaaSというのは、 VDIの環境があらかじめ用意されたクラウドサービスを利用する方式です。
※DaaSの解説記事はこちら
各方式にメリットデメリットがあるので、自社の状況にあったデスクトップ仮想化方式を選択する必要があります。
生産性が損なわれない通信環境の整備:SD-WAN
前章でも解説しましたが、生産部門が業務で利用するアプリケーションは処理情報が大きいため家庭で利用するPC端末、ネット回線ではパソコンの動作が遅くなり業務に支障が出る場合があります。
この問題の解決方法は
- 高性能PCを持ち運ぶ
- 社内の構成のPCに遠隔からアクセスする
- VDIを利用し、どのPC端末からでもスペックの高い仮想マシンにアクセスする
のいずれかの方法を取る必要があります。
PC端末のスペックについては上記いずれかの方法で解決されますが、もう一つ検討しなければならない事項があります。
CADなどの設計開発で使用する専用アプリケーションを使いながら、Teamsやクラウドアプリケーションを利用する際、通信回線が重くなり各アプリケーションの動作が遅くなる可能性があります。
これは、PC端末のスペックではなく、通信回線のスペックがボトルネックとなり動作スピードが遅くなる現象です。
この課題を解決するソリューションがSD-WANです。
SD-WANとは使用するアプリケーションによってインターネット接続する際のネット回線を本社プロキシサーバーを経由するか、プロキシサーバーを経由せずに個々のPCからインターネットに直接接続させるかを分岐させる技術です。
この技術を使うことで、全てのアプリケーションを本部のプロキシサーバーを経由せずに済むため、機密性が高いアプリケーションはプロキシサーバー経由で社内サーバーへアクセスし、そうでないアプリケーションはPC端末から直接インターネットへアクセスしアプリケーションを利用することができます。
プロキシサーバーへの負荷を軽減することで、通信回線がボトルネックとなり動作スピードが遅くなる現象を防ぐことができます。
製造業でテレワークを実現した事例
ここからは製造業でテレワークを実現させた企業の事例をご紹介します。
テレワークで設計・開発業務を可能にした三菱航空機
三菱航空機株式会社では、VDIで使われるソフトウェアの一つであるCitrix Virtual Apps and DesktopsとNVIDIAグラフィックボードを活用し3D CADアプリケーションの仮想デスクトップシステムを構築しました。
ネットワーク高遅延環境であっても、ワークステーションと同様のパフォーマンスと品質を実現し、これにより全社横断的かつ国の枠を超えた作業が可能に。
グローバル規模 / 24 時間体制で設計・開発できる環境を構築することができ、開発・設計スケジュールの短縮や生産性の向上が可能となりました。
海外からの3D CADアプリケーションの使用環境を構築した日産自動車
日産自動車株式会社ではグローバルR&D拠点のCAD/PDM生産性向上を目標に、Citrix Xen DesktopとCitrix Xen Server、NVIDIA GRID K2による3D CADアプリケーションの仮想デスクトップシステムを構築しました。
すべての国から統合化されたデータベースにアクセスしても、業務効率を落とさないシステムを構築する方法を検討する中でVDIの手法を採用。
XenDesktop により、CAD/PDM のデータベースを日本で一元管理できるようになったことで運用コストを低減させただけではなく、セキュリティ面も一層強化されました。
参照:
XenDesktopとXenServerにより3D CADアプリケーションの仮想 デスクトップシステムを構築し、海外拠点から高速データアクセスを実現
製造業におけるテレワーク推進でお悩みのご担当者さまへ
製造業のテレワーク化は情報セキュリティ、PC端末、通信環境の整備など推進するために検討しなければならない項目が多く難易度の高いプロジェクトです。
テレワークを実現するために何から検討していけばいいのかわからないという場合、具体的な検討事項を御社の状況に合わせてご提案いたします。
お気軽にご相談くださいませ。