マルチクラウドとは?メリット・デメリットから導入事例までわかりやすく解説

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システムの柔軟性や災害、障害発生時のリスク対策としても評価が高い「マルチクラウド」。今やすべての企業にとって、情報管理の徹底や仕事のスピーディーさなどは不可欠なものとなりました。本記事では、それらの実現に力を発揮するマルチクラウドの内容から、ハイブリッドクラウドとの違いまでをご紹介します。

マルチクラウドとは?

マルチクラウドとは複数のクラウドサービスを組み合わせて、自社の業務に最適な環境を構築すること。ITの運用基盤として「クラウドファースト」という言葉がある通り、クラウドはすでに一般に広く浸透しています。

総務省が発表した「令和2年 情報通信白書のポイント」によれば、クラウドサービスを利用していると回答した企業は64.7%に上っています。加えて、クラウドサービスの効果を実感していると回答した企業は85.5%にまで上っており、このことから多くの企業がクラウドサービスを利用していることが分かるでしょう。

参照:令和2年 情報通信白書のポイント
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r02/html/nb000000.html

クラウドには「サービスモデル」と「実装モデル」の2種類のモデルがあります。サービスモデルとは「IaaS(イアース)」「PaaS(パース)」「SaaS(サース)」のようなものです。具体的に言えば、IaaS(イアース)やPaaS(パース)はアマゾン ウェブサービス(AWS)やMicrosoft Azureが代表例と言えるでしょう。これらは、クラウドのプラットフォームを提供しています。一方で、SaaS(サース)の代表的なものはGmailです。インターネットを通じて電子メールなどを行うソフトウェアを提供しており、ウェブブラウザや専用のアプリケーションを利用するのがSaaS(サース)になります。

これに対して実装モデルとは、「プライベートクラウド」「パブリッククラウド」「ハイブリッドクラウド」など。これらは、クラウド環境の基盤をどのように実現しているかどうかです。

マルチクラウドはこうした「サービスモデル」と「実装モデル」を、自社の業務に合わせて組み合わせ運用していくことを指しています。例えば自社の機密情報の管理にはA社のプライベートクラウドを利用、自社で持っているデータの利活用にはB社のパブリッククラウドを利用、メールサービスにはC社を利用するなど。それぞれのメリットや特性を活かして、自社の業務の最大限効率化を目指すのがマルチクラウドの目的です。

パブリッククラウドとハイブリッドクラウドについて

マルチクラウドでの運用を考えた際に、避けては通れないのが「パブリッククラウド」と「ハイブリッドクラウド」です。先述した通り、クラウドモデルの中の「実装モデル」の種類になります。本項では、それぞれについて簡単に詳しくご説明しましょう。

・パブリッククラウド

パブリッククラウドとは、事業者やITベンダーなどのプロバイダがインターネットを介し、サーバーやソフトウェアなどを提供するサービスのこと。パブリックとは「公開された」という意味なので、プロバイダが公開したクラウド環境を利用するという意味になります。公開されたクラウド環境を、複数のユーザーで共有して利用するのがパブリッククラウドの特徴です。先述した「Amazon Web Services (AWS)」などもパブリッククラウドであり、Amazon社が提供するクラウドサービスという意味になります。

パブリッククラウドは複数のユーザーで共有して利用するので、開発や運用コストを抑えて利用できるのがメリットです。また、企業によっては特定の時期にアクセスが集中するなどすることで、リソースの追加などが必要になる場合もあるでしょう。パブリッククラウドは拡張性に優れているため、こうしたリソースの追加が必要な場合は即座に対応できるのも嬉しい点です。

一方、パブリッククラウドの環境の保守を行っているのはプロバイダ側です。そのため、利用しているクラウド環境に障害が発生してしまうと、業務が停止してしまう恐れがあります。またセキュリティ面でも「公開された」環境のため、閉鎖環境を利用するよりも不安があるでしょう。そのため、運用方法や自社のセキュリティーポリシーをきちんと精査した上で、利用していくのがいいでしょう。

・ハイブリッドクラウド

ハイブリッドクラウドとは、「ひとつの環境ではなく、複数の環境を組み合わせ、それらを統合させて単一の環境として運用を行っていく」こと。先述したパブリッククラウドをはじめ、プライベートクラウドや物理サーバーなどを自社の業務の中で、どの運用が適しているかを考え当てはめていきます。例えばECサイトを運用している会社であれば、収集した個人情報はセキュリティの高いプライベートクラウドで管理し、運営するECサイトはコストの低いパブリッククラウドで管理するなどです。

ハイブリッドクラウドの考え方は「いいところ取り」です。どれかひとつのクラウド環境に依存するのではなく、複数の環境を利用し、各環境のメリットとデメリットを補完しあうことで効率的な運用を目指していきます。

ハイブリッドクラウドの利用は、各リソースに適切な環境を割り当てるのでコストの最適化のつながることが大きなメリットです。また、BCP対策としてのリスク管理や負荷分散などにも貢献しています。一方で、ハイブリッドクラウドはシステム構築が複雑になってしまう、システム管理者はより専門的な知識やスキルが必要になってくるため、負担がかかってしまうなどの点も覚えておくといいでしょう。

マルチクラウドとハイブリッドクラウドとの違い

マルチクラウドとハイブリッドクラウドを同じものと考えてしまう人もいますが、考え方は大きく違います。

・マルチクラウド

複数のクラウドサービスを組み合わせて、自社の業務に最適な環境を構築すること。

・ハイブリッドクラウド

複数のクラウドサービスを組み合わせて、それらを統合させて単一の環境として運用を行っていくこと。

大きな違いは「統合しているかどうか」です。マルチクラウドの場合は、複数のクラウドサービスを併用しながら進めていきます。例えば人事労務システムはA社の環境、会計システムはB社の環境など、それぞれの業務に置いて最適な環境を構築していくのが目的です。一方でハイブリッドクラウドは、複数のクラウドサービスをひとつのものとして統合します。それぞれの構築したシステムを相互連携させて、横断的に使えるようにするのです。ひとつのシステムとして統合しているかどうかが、マルチクラウドとハイブリッドクラウドの大きな違いとなります。

マルチクラウドのメリット・デメリットについて

日本でもマルチクラウドを利用している企業は増加していますが、システムにはメリットとデメリットが必ずあります。マルチクラウドを導入する際はメリットとデメリットをきちんと押さえたうえで、自社にとって最適かどうかを検討しましょう。本項では、マルチクラウドのメリットとデメリットについて解説します。

マルチクラウドのメリットについて

  • 複数のクラウドサービスを利用するため、自社に適切な環境を構築しやすい
  • ベンダーへの依存度がなくなり、システムの柔軟性を保ちやすい
  • バックアップなどのリスク分散を行いやすい

マルチクラウドの最大のメリットは、自社に適切な環境を構築しやすいこと。なぜなら、複数のクラウド環境の利点を組み合わせて運用するからです。機能やサービスなどがどの業務に適切かを判断して構築し、運用していくので独自性の高いクラウド環境で業務の効率化ができます。

また繰り返しになりますが、クラウド環境を複数組み合わせて運用していくのがマルチクラウドのため、ひとつに絞る必要がありません。各ベンダーが提供する環境を併用しながら運用していくので、ベンダーへの依存性がなくなります。そのため、特定のベンダーに依存してシステムの柔軟性が失われてしまう「ベンダーロックイン」の心配もありません。

加えて複数のベンダーを利用することで、リスク分散にもつながります。なぜなら、バックアップやリカバリーなどが容易になるから。自社のビジネスを災害などの万が一のときでも継続できることは、リスクを分散できることは大きなメリットです。

マルチクラウドのデメリット(課題)について

  • 運用が煩雑になりやすい
  • 運用コストが高くなってしまうこともある
  • セキュリティの強度が統一されない

マルチクラウドは複数のクラウド環境を構築し、併用して運用を行います。そのため、管理が多様化してしまうのが大きなデメリットです。運用が煩雑になってしまい、システム担当者の負荷が増加してしまう恐れがあります。運用が煩雑になってしまっては、マルチクラウドのメリットは下がってしまうでしょう。そのため、複数のクラウド環境を一元化して管理できる体制を整えるといった方法があります。

また、複数のクラウド環境を利用することは、個々に運用するコストがかさんでしまう可能性もあります。業務によってもっとも適したクラウド環境を整えても、コストが割高になってしまっては自社に大きな影響が出てしまうでしょう。そのため、導入後の効果とコストのバランスを精査して選択することが大事です。

さらに、セキュリティ強度を統一できない点もデメリットして挙げられます。複数の環境を利用するため、ベンダーによるセキュリティ基準がバラバラの可能性があるからです。そのため、より強固なセキュリティを築く体制を考えなければなりません。

マルチクラウドの導入事例・効果

株式会社ZOZOテクノロジーズは、ファッション通販サイト「ZOZOTOWN」を運営する株式会社ZOZOの子会社。「ZOZOTOWN」の開発から運営を行っており、現在は「ZOZOTOWN」のシステム基盤をマルチクラウドベースで運用していくプロジェクトを推進中です。従来の「ZOZOTOWN」のインフラ基盤は、オンプレミスをベースとして構築していました。しかし通販サイトの規模が大きくなるに連れて、下記の課題が明確になってきました。

<課題>

  • ビジネスの拡大に伴い、インフラの拡張性が必要
  • インフラ構築および人的コストの負担

ZOZOテクノロジーズでは上記の課題を解決するために、マルチクラウドを利用したインフラ環境の刷新をスタート。刷新の中で手をつけた部分が、参照系機能のAPI化です。フロントエンドと統合DBの構造からリクエストが要求されるところを、クラウドから提供しています。 クラウドのプラットフォームに選択したのは「Microsoft Azure」です。選択した理由について、担当者の川崎氏は「『ZOZOWOWN』と相性の良いデータベースマネージドサービスが存在していること」と述べています。そして特定のクラウドサービスに依存しすぎないため、「Amazon Web Services(AWS)」を合わせて導入し、より安定的にサービスを提供し続ける基盤を整えているのです。

また、ZOZOテクノロジーズが環境を構築する際に重視したものは、『堅牢性より回復性(Design for Resiliency)』です。川崎氏は「落ちないシステムをつくるのではなく、落ちることを前提として回復しやすいシステムを設計する」としています。24時間稼働し続けている「ZOZOTOWN」では、数時間の機能停止が大きな損失となってしまうからです。そのため、停止したとしても時間を最小限に留めていく方針としています。

「ZOZOTOWN」では過去にセールがあった際に、十分な準備をしたにも関わらず想定を超えるアクセスなどによって、想定通りの結果が得られなかった苦い経験がありました。そのため川崎氏は、「問題が発生してもサービスを継続できるように備えておくことが大切」と語っています。

<セキュリティと運用について>

マルチクラウドでは、セキュリティの管理と運用が大きな課題となります。なぜなら各クラウド環境には、それぞれルールやプロダクトが異なるからです。そのため、各クラウドの監視運用やアラート運用、インシデント対応に至るまで共通の運用設計を行わなくてはいけません。具体的な内容まで詰めるとなりますと、システム担当者には大きな負担となるでしょう。また、複数プロダクトのセキュリティ管理をアウトソーシングする手段もありますが、こちらも費用がかかってしまいます。

このようにマルチクラウドのセキュリティ運用では、システム担当者に大きな負担がかかります。そのため、自社では運用においてどこまでセキュリティを整備するのかを、きちんと検討することが必要です。

まとめ

マルチクラウドは導入している企業も多く、広く一般化されてきています。しかし大事なことは、マルチクラウドを導入することではなく、マルチクラウドを導入して自社の何を解決したいのか。システムの柔軟性などがある分、できることは多大にあると言えるでしょう。マルチクラウド導入でお悩みの方は、ここで取り上げた内容を参考にご検討ください。

[著者プロフィール]
長野俊和
フリーランスシステムエンジニア。都内ソフトウェアハウスにてバックエンドエンジニアを9年経験後、独立。フリーランス同士でチームを組み、システム開発やディレクションを主軸事業として実施。また、IT技術を活用した業務改善、コンサルティング、提案などの活動を行っている。Comfortable Noise(コンフォータブルノイズ)代表。

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