マイクロサービスとは?仕組みやメリット、導入の手順や注意点を紹介

マイクロサービス(マイクロサービス・アーキテクチャ)は、システム開発において活用される手法、考え方の一つです。小さなサービスを組み合わせて統合する事で、大規模アプリケーションを構成します。各サービスが独立して動作するため、テクノロジーの多様性への対応や拡張性も高く、システム全体に大きな影響を与えることなく柔軟にアプリケーションの開発が可能になります。これらの事から、マイクロサービスはとても注目され、多くの企業や開発者によって採用されています。

従来、ソフトウェア開発の分野では、全ての機能を統合させた一つの塊としてシステムを設計・開発する「モノリシック・アーキテクチャ」が広く採用されていました。それに対して、「マイクロサービス」は機能を細かく小さなサービスに分割し、各サービスが単独で機能しながらネットワーク(API)経由でお互いを通信し、連携して巨大なシステムを形成しています。

例えばECサイトの場合、モノリシックなアーキテクチャではユーザー管理から商品データベース、決済方法、データ分析まで、各コンポーネントがすべて1つのシステムとして構成されています。一方、マイクロサービスはこれらのコンポーネントが独立したアプリケーションとして存在し、個別に連携することでシステムが構成されています。有名な例として、海外ではAmazonやNetflixなどで多く採用されており、日本でもLINEやクックパッド、Gunosyなどの人気サービスで取り入れられています。この記事では、マイクロサービスの概要から導入手順やメリット、注意点などをご紹介します。

マイクロサービスとは

1.ソフトウェア開発の手法の一つ

マイクロサービスとは企業がアプリケーションを簡単かつ迅速に開発・展開・保守し、より高い適応性を実現するために考案されたソフトウェア開発手法、考え方のことです。モノリシックなシステム(関連する様々な機能が全て入ったアプリケーション)と対比して、より小さなアプリケーションを連携させるシステムが構成されています。

2.機能やサービスごとに開発単位を分割する

マイクロサービスは、大規模で複雑なアプリケーションの開発をチームで管理するのに役立ちます。開発単位を、独立した小規模で個別のサービスに分割する事で組織内の異なるチームまたはグループによって独立して開発および実装ができます。これにより、開発チームはより柔軟に各ユニットを細かくコントロールできるようになります。その結果、チームは他のサービスや機能に悪影響を与えることなく、個々の変更を迅速かつ容易に行うことができます。
また、作業単位が小さいため、デバッグやエラー修正も容易です。問題の特定や特定のサービスに対する変更も、迅速に行うことができます。

3.複数のマイクロサービスを組み合わせて単一のアプリケーションを構築できる

マイクロサービスは、アプリケーション全体を統合して構築する従来のソフトウェア開発とは異なり、アプリケーションの個々のコンポーネントを独立してコード化し、テストしてデプロイする形をとります。そうすることで、アプリケーションの複雑さが軽減されます。より小さな単一なアプリケーションの場合、開発者はより効率的に開発を行えるでしょう。また、マイクロサービスそのものの考え方から、他のアプリケーションとの連携が容易なことも特徴の一つです。さらに、マイクロサービスを異なるハードウェアにデプロイし、互いに独立して変更ができます。そのため、安全な環境のもと拡張性と柔軟性の向上も期待できるでしょう。

4.APIを通じて各サービスを連携できる

マイクロサービスはアプリケーションをより小さくして、お互いが接続・連携することでシステムを構成します。これがマイクロサービスの大きな特徴のひとつであるAPI(Application Programming Interface)を使用するということです。各サービスのデータや機能を共有・利用できるAPIを実装することで、複雑なシステムを迅速かつ効果的に構築でき、管理・保守は単一で巨大なシステムよりもはるかに容易になります。そして、「アジャイル開発」と呼ばれる開発手法でコードとサービスを迅速に修正・開発し、他の関連サービスのデータや機能にも容易にアクセスできるようになります。

モノリシックサービスとの違い

マイクロサービスとは、それぞれの機能が個別のタスクを実行する、小規模で独立した複数のアプリケーションで構成するサービスのことです。拡張性と柔軟性が高く、開発者はシステム全体を混乱させることなく、個々のサービスを独自に更新できます。

これに対してモノリシックサービスは、独立して構築・展開される大規模なアプリケーション(サービス)のことです。一般的に「設計、開発、検証、本番化」の流れは容易ですが、一度決定した内容を後で変更するのはとても大変です。システム全体に影響を与えることなく仕様やアーキテクチャの変更は難しいでしょう。

マイクロサービスとモノリシックサービスの2つは、完全に対立するものではありません。複雑なアプリケーションで高い拡張性と柔軟性が求められる場合はマイクロサービスが好まれ、シンプルなアプリケーションで要求仕様が明確になっている場合はモノリシックサービスが有用となります。

マイクロサービスのメリット

1.システムやアプリ開発の迅速化・期間の短縮

システムやアプリケーションの開発にマイクロサービスを活用する大きなメリットの1つは、開発のスピードアップと開発期間の短縮が可能であることです。なぜなら、マイクロサービスは小さいアプリケーションのため、迅速に開発、テスト、デプロイできるからです。そして、マイクロサービスでは各サービスが独立しているため、既存のアプリケーションの修正や更新が容易になります。そのため、他のサービスに影響を与えることなく、コンポーネントの交換や更新を行うことが可能です。

また、非同期または並行処理の場合、マイクロサービスを追加することで簡単にスケールアップできます。そして通常、マイクロサービスはモノリシックなアプリケーションよりも小さなリソース要件で稼働するため、リソースを効率的に使用できます。

2.各サービスが独立しているため他のサービスの開発や運用に影響を与えない

各サービスが独立しており、他のサービスの開発・運用に影響を与えないことはマイクロサービスの大きな特徴です。そのため、アプリケーション開発のスピードアップ、処理のカスタマイズ、エラーの迅速な特定、システム全体に影響を与えない変更などが容易に行えます。また、他のサービスに影響を与えずにサービスを追加し、スケールアップが可能です。

3.障害の特定が容易になる

マイクロサービスを利用することで、処理が複数のアプリケーションに分かれるため、障害発生の箇所と原因を容易に特定できます。それにより、診断に費やす時間と労力を最小限に抑え、効率を高めて全体のコストを抑えることができます。さらに、マイクロサービスを構成するコンポーネントが小さいため、広範囲な障害のリスクを低減してサービスの信頼性を向上できます。
また、マイクロサービスの1つのコンポーネントに障害が発生しても、サービス全体としては動作を継続できます。マイクロサービス間で発生するトランザクションのデータの競合を防ぐ他に、更新失敗時の回復措置などデータの整合性に関する一貫した信頼性もあり、全体の可用性を確保する事が可能です。

マイクロサービスのデメリット

1.開発単位が細分化してプロジェクトの管理や調整が煩雑化する

マイクロサービスの活用は、独立したユニットによる拡張性という利点がある一方で、プロジェクト管理や調整に関しては、開発活動が複数の小さな単位に分割されるという課題があります。個々のマイクロサービスが独立して開発されるため、最終的に全体の要求事項を各サービスが満たせるように、全体的なコミュニケーション、調整が重要になります。
さらに、複数のマイクロサービスを同時にテストして更新する場合、それぞれのサービスとの調整や管理が複雑になってしまう場合があるでしょう。

2.サービスを的確に分割した設計が難しい

より小さい単位で機能を分割した結果、各コンポーネント間の境界が徐々にあいまいになり、類似機能が乱立してしまう場合があります。そして、最終的にサービスが本来の仕様を満たせなくなってしまう可能性もあるでしょう。マイクロサービスを適切に分割・設計するためには、サービスの境界を明確にし、各コンポーネント間の互換性を確保した計画・指針が必要です。

マイクロサービスの構築手順

1.適切な大きさまたは数にサービスを分割する

まずはサービスをドメイン単位など、適切なサイズや数に分割します。これを成功させるためには、サービスをできるだけ小さく、非連続にすることが重要です。そして、各サービスが疎結合できるよう、十分に検討した設計が求められます。その結果、拡張性や可用性が最大化します。

2.サービスに横断的な機能を特定する

開発効率や障害発生時の対応効率を上げるため、認証設定やログ設定などサービス全体を横断する機能を選定し、仕様を統一する必要があります。安定して稼働するサービスの構築には、各サービスの設計とインターフェース、コード構造などを慎重に検討する必要があります。

3.データの分離

各サービスに関連するすべてのデータは、他のサービスのデータから論理的に分離することが望ましいです。データの分離はマイクロサービスの特徴であり、それにより柔軟にサービスのスケールアップが可能となる他、複数のサービスが同じデータソースにアクセスした際に発生する競合を防ぐことができます。また、各サービスが自己完結する事で予期せぬトラブルが減り、テスト品質の向上につながります。

4.可用性を担保する

サービスの可用性(障害発生時にも動作する設計)はどんなシステムにも不可欠な要素であり、マイクロサービスも例外ではありません。マイクロサービスの特徴である「迅速に拡張できること」は素晴らしいことですが、可用性に関連するリスクを軽減し、サービスの可用性を維持するために適切なシステムアーキテクチャを設計し、自動的にヘルスチェックを実施するなど、モニタリングのためのさまざまな手法やツールを導入する事で可用性を担保する必要があります。

5.リリース後の運用方法を決める

マイクロサービスの実装、リリース後の運用方法を決める必要があります。運用の中にはサービスの登録、管理、テスト、デプロイなど、マイクロサービスのライフサイクルに関わる考慮事項が含まれます。また、組織面でも運用体系を決定する必要があります。例えば開発チームと維持管理チームなど、関係者の間の明確なコミュニケーション経路の作成などが該当します。

6.チーム体制を構築する

マイクロサービスの実装には、それを実現するためのチーム体制が必要です。チーム内のメンバーがマイクロサービス開発のために割り当てられたタスクを処理するための環境づくりと、メンバー間のタスクを調整して管理するリーダーが求められます。

マイクロサービスの導入時の注意点

1.サービスを最適に分割する必要がある

アプリケーションのどのコンポーネントをマイクロサービスに変えるかを、慎重に検討する必要があります。マイクロサービス化が成功した場合、各サービスが疎結合で連携でき、システム全体に大きな変更を加えずに保守と拡張を容易に行えます。
なお、マイクロサービス化を定義するために、モジュール性、統合性、拡張性に重点を置く必要がありますが、前提としてサービス全体の最終目標を念頭に置くことが重要です。

2.管理業務の負荷にも配慮する

サービスが分割することで、関連する管理業務の負荷が増加する場合があります。予防措置としては、自動化によるプロセスの合理化や専用のツール・サービスの利用が想定されるでしょう。ただし、負荷の増大が総合的にコストとしてどれくらいなのか検討する必要があります。マイクロサービスの導入は開発・保守上の多くのメリットがありますが、管理業務の負荷も考慮するべき要素です。

3.最適な技術でサービスを構築する必要がある

採用する開発言語のエコシステムとフレームワークが、マイクロサービスの開発とデプロイをサポートしているかどうかを確認する必要があります。フレームワークやツールが提供する機能(例:サービスディスカバリ、負荷分散、ログ管理)は、開発の容易さとパフォーマンスに大きな影響を与える場合があります。

また、サービスを稼働させる環境の確認、例えば一般的なパブリッククラウド環境を使用する場合には、Amazon Web Services、Microsoft Azure、Google Cloud Platform、IBM Cloudなどで開発、デプロイが可能か考慮する必要があります。そして、拡張性、モジュール性、保守性を考慮して、アプリケーションのアーキテクチャに合った方法によるマイクロサービスの設計が重要になります。

最終的な選択は、プロジェクトの要件、チームのスキル、パフォーマンス、スケーラビリティ、セキュリティなどの要素に基づいて行う必要があります。また、開発言語の選択は柔軟性を持つべきであり、将来の変更や拡張に対応できることも重要です。

4.技術的な制約があるか事前に確認する

マイクロサービス開発において、各サービスを期待通りに動作するための技術的な制約があるかを事前に検討・確認し、設計につなげる事が必要です。従来の全ての機能が統合されたシステム(モノリシックなアーキテクチャ)では発生しないような遅延や予測不能な障害が発生する可能性があることを認識することも重要になります。

5.専門知識が無い場合、導入が難航する

マイクロサービスの開発は比較的新しい技術や知識が必要なため、未知の状態での環境整備や導入は技術的ハードルが高いと言えるでしょう。ただし、開発予定のアプリケーションの必要要件を確認した上で適切な、Amazon Web Services や Google Cloud Platform などのクラウド・プロバイダーを選択すれば、サービス側のフレームワークやインフラストラクチャを有効活用できます。それにより、開発者は個々のサービスの開発や改良に集中できます。

6.導入の必要性を慎重に検討する

マイクロサービスのようなアーキテクチャ導入の重要なポイントとして、その手法で実装する必要性を慎重に検討する必要があります。マイクロサービス化と引き換えに、信頼性や可用性など、複雑さ故の管理負荷の増加といった別の課題も発生するため、総合的に判断する事が求められます。 

まとめ

マイクロサービスは、設計やデプロイの方法がモノリシックなアプリケーションとは大きく異なります。マイクロサービスベースのアプリケーションでは、各サービスはそれぞれが固有の機能を持ち、独立したサービスとして構築・実行されます。正しく実装されれば、サービスは独立してテスト、デバッグ、およびデプロイできるように構成され、開発チームは変化する要件への迅速な対応と、一貫した品質・納期管理と機能・性能向上を図ることができます。さらに、アプリケーションの需要の増加に応じてコンポーネントを拡張でき、より効率的にサービスを提供できるようになります。しかし、マイクロサービスのアプリケーションの開発、テスト、デバッグ、デプロイの実現にはさまざまな課題があるため、マイクロサービス導入を成功させるには、まずは本当に導入が必要なのかを十分に検討する必要があります。

[筆者プロフィール]
おじかの しげ
https://twitter.com/shige_it_coach
東京近郊の中堅SIerに20年勤務する、インフラ系システムエンジニア。インフラ環境構築からOS、ミドル導入、構築、運用。最近はインフラ関係だけではなく、WEBアプリ開発など幅広く業務を経験。

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