開発チームは新機能を迅速にリリースしたい一方、運用チームはシステムの安定性を維持したい──こうした非効率に悩んでいませんか?
DevOpsは、開発(Dev)と運用(Ops)を一体化し、効率的かつ安全にソフトウェア開発を進めるための手法です。
本記事では、DevOpsの基本概念、導入メリット、活用可能なツール、具体的な導入ステップまでわかりやすく解説します。
DevOps(デブオプス)とは

DevOps(デブオプス)とは、ソフトウェアの開発と運用を密に連携させ、迅速かつ効率的なソフトウェア開発体制を構築する取り組みです。
DevOpsという言葉自体は「Development(開発)」と「Operations(運用)」を組み合わせた造語であり、多くのプロジェクトで採用されています。
DevOpsは開発・テストした製品をリリースし、運用しながらデータをモニタリング、そのデータを元に新機能の開発にフィードバックする循環型の開発プロセスを繰り返します。
このようにDevOpsでは、フィードバックを受けながら製品を効率的に改善可能です。
DevOpsでは、連続的インテグレーション(Continuous Integration)と連続的デリバリー(Continuous Delivery)という手法を用います。
この手法はそれぞれの頭文字をとって「CI/CD」と呼ばれますが、効率的な開発・運用プロセスを実現する重要なキーワードになるので覚えておきましょう。
DevOpsの歴史と進化
ここで1度DevOpsの歴史について触れておきましょう。
DevOpsの起源は2009年6月に開催された講演にまでさかのぼります。
「オライリー・ベロシティ 09 カンファレンス」においてジョン・オールスポーとポール・ハモンドは「10+ Deploys Per Day: Dev and Ops Cooperation at Flickr」でDevOpsについて触れました。
アジャイル開発は短いスパンで機能開発をしてリリースを繰り返す手法ですが、多くのプロジェクトが開発チームと運用チームの連携に問題を抱えていることを認識していました。
そこで開発チームと運用チームのコミュニケーションを改善するDevOpsが提唱されたのです。
従来の開発プロセスでは、開発チームと運用チームが異なる目的をもって動いていたため、対立が生まれやすくなっていました。
そこでDevOpsでは、両チームの目的を「ユーザーに良い製品を届けること」としています。
開発・運用でDevOpsが重要な理由
DevOpsが重要とされる背景には、ビジネスにおいて「変化に柔軟なシステム開発・運用」求められるようになったことがあります。
日本企業に対してITシステムに求められる重要な機能を調査した結果、「変化に応じて迅速かつ安全にITシステムを更新できる」と回答した割合は39.4%(2021年度調査では30.3%)、「必要な情報を適切なタイミングで取得できる」との回答は39.6%(2021年度調査では34.5%)でした。
これらの結果から、企業が変化への対応をより重視する傾向が高まっていることがわかります。

DevOpsのツールと文化
DevOpsでは、開発チームと運用チームの連携を促進するために、ツールと文化の両方が重要です。
これらを整えることで、製品のデリバリースピードを高め、ヒューマンエラーの防止にもつながります。
それでは、それぞれについて見ていきましょう。
開発と運用をつなぐツール
開発チームと運用チームが共通のツールを活用することで、データやステータスを共有しやすくなります。
インフラの自動化
機能の追加やデータ量の増加に伴い、サーバの増強が必要になることがあります。従来、インフラの拡張は手作業で行われていましたが、Infrastructure as Code(IaC)を活用すれば、このプロセスを自動化できます。インフラの設定をコードとして記述することで、実行するだけで環境の構築や変更を自動的に適用でき、効率的かつ一貫性のある運用が可能です。
<代表的なツール>
- Ansible(構成管理・自動化)
- Terraform(インフラのプロビジョニング)
- AWS CloudFormation(AWS環境の自動構築)
共有バージョン管理
ソフトウェアの開発から運用までのプロセスを効率化するには、ソースコード、テストスクリプト、デプロイスクリプト、インフラやアプリケーションの構成情報、さらに依存するライブラリやパッケージのバージョンを適切に管理することが不可欠です。これらをシステム化することで、開発と運用のバージョン管理を統一し、スムーズなコラボレーションが可能になります。
<代表的なツール>
- Git(分散型バージョン管理システム)
- GitHub(リポジトリ管理・CI/CD統合)
- GitLab(統合開発プラットフォーム)
ワンステップビルド&デプロイ(One step build and deploy)
開発から運用へ移行する際には、コードのコミット、コードのビルド、ビルド後のテストといったプロセスが必要になります。従来これらの作業はすべて手動で行われていましたが、CI/CDを導入することでコミットをトリガーにして一連のプロセスを自動化し、ワンステップでデプロイできるようになります。
<代表的なツール>
- Jenkins(オープンソースのCI/CDツール)
- CircleCI(クラウドベースのCI/CDプラットフォーム)
フィーチャーフラグ
ある機能を有効化または無効化する際、従来はコードの変更とデプロイが必要でした。しかしこの方法では、開発作業の負担が増えるだけでなく、コードの競合(コンフリクト)などの問題が発生することもあります。
そこで便利なのがフィーチャーフラグです。コードを変更せずにフラグを利用して機能のオン/オフを切り替えられるため、柔軟な機能管理が可能となります。また、A/Bテストや段階的なリリース(カナリアリリース)も容易になり、より安全かつ迅速な運用が実現できます。
<代表的なツール>
- Unleash(オープンソースのフィーチャーフラグ管理)
- Flagsmith(クラウド/セルフホスト対応の機能フラグプラットフォーム)
メトリクスの共有
メトリクスとは、システムのパフォーマンスに関するデータのことです。CPUやメモリ、ディスクの使用率、データへのアクセス数、ユーザーのシステム利用状況などが含まれます。システムの状態を把握し、適切な運用やトラブルシューティングで重要な指標となります。メトリクスデータをダッシュボード化することで、開発と運用が同じ情報をリアルタイムで共有し、迅速に対応が可能です。
<代表的なツール>
- AWS CloudWatch(AWS環境のモニタリング・ログ管理)
- Datadog(マルチクラウド対応の監視・分析プラットフォーム)
チャットとボット
ボットとは、特定のタスクや処理を自動化するプログラムです。チャットツールを活用してビルドやデプロイのログ、アラート通知を自動投稿する仕組みを構築することで、チーム全体でリアルタイムに情報を共有できます。このような仕組みはChatOpsと呼ばれ、開発と運用の連携を強化し、迅速な対応や問題解決の効率化につながります。
<代表的なツール>
- ChatOps(チャットツールと自動化を組み合わせた運用手法)
- OpsGenie(アラート管理・インシデント対応)
- VictorOps(リアルタイムのインシデント対応プラットフォーム)
開発と運用をつなぐ文化
ツールを導入しただけでは、必ずしも効果が得られるとは限りません。
特に、開発部門と運用部門のように組織を横断して業務を進めるには、適切な組織文化が欠かせません。
そのため、以下のような組織文化を定着させることが重要です。
1.リスペクト
共に働く仲間を心から思いやり、一人の人間として尊重します。相手の能力や功績を正当に評価し、協力し合う姿勢を大切にします。
2.信頼
周囲の人々が優秀であり、適切な判断ができると信じます。信頼を前提に業務を任せ、相手の能力を最大限に活かせる環境を作ります。
3.失敗への健全な態度
新たな挑戦には失敗がつきものです。ミスを責めるのではなく、学びの機会として捉え、成長につなげる姿勢を持ちましょう。
4.非難しない
相手を非難するのではなく、問題の本質を理解し、再発防止に向けた前向きな議論を行いましょう。
DevOpsのプロセス
DevOpsでは、アジャイル開発と同様に「ライフサイクル」と呼ばれる一連のプロセスを繰り返しながら、製品を作り込んでいきます。
具体的には、以下の7つのプロセスを継続的に回していきます。
- 計画(Plan)
- 実装(Develop)
- ビルド(Build)
- 継続的インテグレーション・継続的デリバリー(CI/CD)
- デプロイ(Deploy)
- 運用(Operation)
- 継続的フィードバック(Continuous Feedback)
計画(Plan)
計画では、製品の価値を最大化するためのバックログを作成します。
バックログはユーザーからのフィードバックや導入事例、関連部署の意見を参考にするのが一般的です。バックログは優先度順に並べられ、スプリント(開発期間の1単位)に組み込まれます。
実装(Develop)
計画に基づいて新規機能や既存機能のバージョンアップをします。実装はプログラミングまたはコーディングとも呼ばれます。
Gitなどのソースコード管理システムを活用すればバージョン管理しながらコードレビューを通して品質を維持しやすいでしょう。
ビルド(Build)
実装されたプログラムコードをビルドし、コンピューターで実行可能な形式に変換します。
近年ではコンテナと呼ばれる仮想化技術でコンテナイメージを作成し、コンテナ実行環境でシステムを実行するのが主流です。
継続的インテグレーション・継続的デリバリー(CI/CD)
開発したコードを頻繁に統合し、自動化されたテストを実行するプロセスです。
開発者は、ソースコード管理システムでマージ(新旧プログラムコードの統合)をすると、コードチェックや自動テスト、ビルドなどの一連の処理が自動的に実行されます。
デプロイ(Deploy)
デプロイでは、アプリケーションをステージング環境または本番環境に展開します。
2つの環境を用意して無停止リリースする「ブルーグリーンデプロイメント」や、一部のユーザーにのみ最新バージョンを提供して影響を計測する「カナリアリリース」などさまざまな戦略が存在します。
運用(Operation)
本番環境でのアプリケーション監視、パフォーマンスを計測します。
ログを収集してパフォーマンスを監視し、必要に応じてインフラをスケーリング、アラートを確認して障害対応をします。
継続的フィードバック(Continuous Feedback)
システムの運用データやユーザーフィードバックを分析し、次の開発計画(スプリント)に活かします。
継続的フィードバックでは、ユーザーの行動データやA/Bテストなどで情報収集することが重要です。
また、定期的にチームの振り返りをすることで、反省点を次に活かせます。
アジャイル開発との違い

アジャイルとDevOpsはしばしば混同されがちですが、実際にはなにが違うのでしょうか。
アジャイルは「機能を小刻みに開発し、ユーザーのフィードバックを得ながら製品を素早く進化させる開発手法」であり、DevOpsは「開発チームと運用チームが協力してリリースや運用プロセスを効率化するためのアプローチ」です。
つまり、アジャイルは素早い製品アップデートを重視しているのに対し、DevOpsでは開発と運用の効率化を重視しています。
アジャイル開発のプロセスや具体的な手法については、以下の記事で詳しく解説しています。ぜひあわせてご覧ください。
CI/CDとの違い
CI/CDとDevOpsの違いについても見ていきましょう。DevOpsは「どう組織を変革し、開発と運用を連携させるか」という大きな考え方であり、CI/CDは「どのように開発フローを自動化・効率化するか」を示すテクニックといえます。戦略と戦術の違いと考えるとわかりやすいかもしれません。
DevOpsは「開発チームと運用チームが協力し、開発から運用までのプロセスを効率的に進めるための考え方・文化・組織的なアプローチ」を指します。一方、CI/CDはDevOps を実現するための具体的なプラクティス(技術的手法)の一つであり、開発からデプロイまでの工程を自動化してソフトウェアのリリースサイクルを高速化し、ミスを減らす仕組みを指します。
CI/CDの仕組みやメリット、CIとCDの違い、導入に役立つツールについては、以下の記事で詳しく解説しています。ぜひあわせてご覧ください。
DevOpsのメリット
DevOpsの主なメリットは、次のとおりです。
- 価値提供スピードの向上
- 生産性の向上
- 信頼性の向上
- 拡張性の向上
それぞれのメリットについて、詳しく見ていきましょう。
価値提供スピードの向上
開発チームと運用チームが連携することでリリースサイクルが短縮され、顧客に価値を届けるスピードが向上します。
これは、CI/CDなどの自動化ツールを活用してコードのビルド・テスト・デプロイを効率化し、リリースサイクルを短縮できるためです。
生産性の向上
人手による繰り返し作業を自動化することで、開発者や運用担当者は付加価値の高い業務に集中できます。
さらに、自動化によってヒューマンエラーを抑制できるほか、データのシームレスな共有といった副次的な効果も期待できます。
信頼性の向上
継続的なテストとモニタリングを実施しながら頻繁にデプロイすることで、問題が早期に発見されやすくなり、重大な障害のリスクが軽減されます。
また、随時フィードバックが得られるため、ユーザーの要望を開発に取り入れやすくなり、その結果、システムの信頼性が向上します。
拡張性の向上
DevOps環境では、インフラ管理やアプリケーション構成をコードとして扱う「IaC(Infrastructure as Code)」のアプローチが推進されます。
これにより、必要に応じて新たなリソースやサービスを容易に追加・削除できるようになります。
また、サービスのスケールや疎結合なアーキテクチャの構築が容易になり、システムの拡張性が高まります。
DevOpsの導入ステップ
DevOpsを導入する場合のステップを確認していきましょう。DevOpsを導入するには、以下のステップが必要です。
- 現状の把握・見直し
- ロードマップを作成する
- 適切なツールを選定する
- プロジェクトを試験的に導入する
現状の把握・見直し
DevOpsを導入するための最初のステップは、今の開発や運用のやり方を見直すことです。
具体的には、今使っているワークフローやツール、チームの連携状況を確認し、問題や課題(ボトルネック)を洗い出します。
現状をしっかり理解することで、どこを改善すべきかがはっきりし、目指すべき具体的なゴールを設定しやすくなります。
ロードマップを作成する
DevOps導入の目標と期間を明確にするため、ロードマップを作成します。
ここでのポイントは、目標と期間は小さく設定することです。長期的な目標は運用が軌道に乗ってからのほうがうまくいきやすいでしょう。
作成したロードマップは開発・運用チームに共有し、メンバー全員が「どこへ」「何のために」向かうのかを意識できるようにします。
適切なツールを選定する
次に、ロードマップに基づき適切なツールを選定・評価します。
前述のとおり、DevOpsでは計画、実装、ビルド、CI/CD、テスト、デプロイ、運用、継続的フィードバックなど多くのフェーズがあります。
各フェーズで適切なツールを活用することが、DevOps成功の重要な要因の一つといえるでしょう。
プロジェクトを試験的に導入する
最後に、Gitレポジトリを作成してプログラムコードを適切にバージョン管理します。
CI/CDツールで基礎的なパイプラインを作成し、自動化のひな形を構築しましょう。
また、チーム内ではGit上のプルリクエスト機能で内部レビューを実施するなど、無理のないレベルで実践していきましょう。
スモールスタートでうまくいったら、徐々にDevOpsの適用範囲を広げていくのがおすすめです。
DevOpsの運用ポイント

それでは、DevOpsを運用する際のポイントを見ていきましょう。
運用のポイントを意識することで、DevOpsの効果をより引き出しやすくなります。
DevOps文化を組織に浸透させる
DevOpsは、ツールを活用してリリースから運用までの工程を自動化します。
しかし、ツールの導入だけではDevOpsは成立しません。
DevOpsの文化を根付かせるためには、組織の再編や運用プロセスの変更をトップダウンで実行できる環境を構築することが重要です。
DevOpsツールを使いこなす
DevOpsでは、CI/CDやIaCなどを駆使して、あらゆる工程の自動化を進めることが求められます。
とはいえ、単一のツールで全てのDevOpsプロセスをカバーできるわけではありません。ツールごとに強みや機能が異なるためです。
そのため、ツールを導入したらKPIや評価指標を設定し、定期的に効果を測定することが大切です。さらに、利用方法を継続的に改善しながら運用していくことが、DevOps成功のポイントとなります。
DevOpsの注意点
DevOpsを導入する際に、注意するべき点もあります。
DevOpsは機能を分割してリリースを繰り返すため、システムによっては向かないケースがあります。
たとえば、以下のようなシステムです。
- 頻繁な変更がほとんど発生しない(必要ない)システム
- リリースに長期間の審査や承認プロセスが必要なシステム
- レガシー環境や技術的負債が大きく、自動化が困難なシステム
DevOpsを導入する際は、事前にシステムの特性を確認し、自社に適しているかどうかを判断して進めることが重要です。
DevOpsの実現におすすめのツール
GitLab
GitLabはレポジトリ管理(Git)だけでなく、Issue管理、コードレビュー、CI/CDパイプライン、コンテナレジストリ、セキュリティスキャンなど、ソフトウェア開発から運用に必要な機能をオールインワンで提供しています。
DevOpsを実践するうえで必要な要素が一通り揃っているため、開発チーム・運用チーム間の連携を強化してリリースまでの流れをスムーズにし、製品を迅速かつ安定的に届けられるでしょう。
GitLabについては、詳しくはこちらをご覧ください。
Azure DevOps
Azure DevOpsは、Microsoftが提供する開発支援ツールの統合サービスです。
DevOpsに必要なサービスを一通り提供しているだけでなく、必要なサービスだけを選んで運用できるため、柔軟な運用ができるのが魅力です。
Google Cloud
Googleが提供するGoogle Cloudでは、Cloud BuildによるCI/CDパイプライン、Cloud Source RepositoriesによるGit管理、Cloud MonitoringやCloud Loggingによる運用監視などを活用できます。
これにより、運用効率を大幅に改善できるでしょう。
Red Hat OpenShift
Red Hat OpenShiftは、Kubernetesをベースにしたコンテナ管理プラットフォームとして有名ですが、DevOpsにも有効です。
CI/CDの統合、オートスケーリング、セキュリティ管理などが強化されており、DevOpsの実践に適した環境を構築できます。
オンプレミス、クラウド、ハイブリッド環境に対応し、柔軟で安定したアプリケーション運用が可能です。
まとめ
DevOpsとは、開発(Dev)と運用(Ops)を一体化し、迅速かつ効率的にソフトウェア開発を進めるための手法です。
CI/CDやIaCなどの技術を活用することで、リリースサイクルの短縮、開発効率の向上、そしてシステムの安定運用が可能になります。
DevOpsを基盤とした開発体制の構築を検討されている方、またはDevOps実現のために導入すべきツールでお悩みの方は、ぜひTD SYNNEXまでご相談ください。
[筆者プロフィール]
Y.Kuroda
MLエンジニア&Web開発者&ITライター。MLエンジニアとして働きながらとSEOの知見を活かした記事を執筆しています。ライター業務を効率化するWebサービス『MOJI-KA』を開発・運用中です。