ニューラルネットワークとは?基本概念や仕組み、種類、活用例をわかりやすく解説
人工知能(AI)技術を支えるニューラルネットワーク。2024年のノーベル物理学賞が「人工ニューラルネットワークによる機械学習を可能にした基礎的発見と発明に対する業績」により、ジョン・ホップフィールド教授とジェフリー・ヒントン教授に授与されたことも話題となりました。本記事では、ニューラルネットワークの基本概念から最新の応用例などを解説します。
ニューラルネットワークとは?
「ニューラルネットワーク」は人工知能(AI)の基礎技術です。簡潔に言えば、人間の脳の仕組みを真似た計算方法のことです。
私たちの脳には、何十億もの神経細胞(ニューロン)があります。これらの細胞が複雑に結びつき、情報をやりとりしています。ニューラルネットワークは、この仕組みをコンピュータ上で再現しようとするものです。
ニューラルネットワークと機械学習との違い
ニューラルネットワークと機械学習、よく混同されがちな2つの概念ですが、ニューラルネットワークは機械学習の一種で、人間の脳の仕組みを模倣した特殊な学習方法です。多層構造を持ち、複雑なパターンの認識に優れています。
具体的な仕組みについては後述します。
ニューラルネットワークとディープラーニング(深層学習)との違い
ディープラーニングはニューラルネットワークの発展形と言えます。通常のニューラルネットワークは、入力層、隠れ層、出力層の3層構造で、隠れ層は1層のみが一般的です。これに対し、ディープラーニングは「深い」という名の通り、隠れ層を何層も重ねた構造を持ちます。
この多層構造により、ディープラーニングはより複雑なパターンや抽象的な特徴を学習できます。例えば、画像認識の場合、通常のニューラルネットワークでは単純な形状の識別に留まりますが、ディープラーニングでは人間の顔や動物の種類まで識別できるようになります。
「機械学習」についてはこちらの記事もご覧ください。
ニューラルネットワークの仕組み
次にニューラルネットワークの仕組みについて解説します。
入力層、隠れ層、出力層で構成されている
ニューラルネットワークは、主に3つの層で構成されています。
- 入力層
- 隠れ層
- 出力層
まず、入力層で情報を受け取ります。例えば「画像」の場合であれば、入力層の各要素(ノード)が1ピクセルごとに分割された情報を確認して、その画像がどのような画像であるかを判断し、その結果を隠れ層へ渡します。
次に隠れ層では、受け取ったデータを元に複雑な計算処理を行い、データの特徴を抽出します。隠れ層は少なくとも一つあり、三つ以上あるものをディープラーニングと呼びます。
最後に出力層にデータが渡され、最終的な結果が出力されます。例えば、犬か猫かの画像を判別する場合、「犬である確率」と「猫である確率」が出力されます。
ノード結合箇所の「重み」で調整して結果を出力する
各層は「ノード」と呼ばれる計算ユニットで構成されており、これらのノードは層と層の間で相互に接続されています。この接続には「重み」という概念があります。
重みは、各接続がどれだけ重要かを示す数値です。学習が進むにつれて、この重みが適切に調整されていきます。例えば、ある特徴が結果に大きく影響する場合、その特徴に関連する接続の重みは大きくなります。
出力結果を使って入力と出力の反復学習をする
ニューラルネットワークは以下のような流れで反復学習を行い、重みの最適化などを行います。
- データ入力
- 順伝播
- 誤差計算
- 逆伝播
- 繰り返し
この反復学習により、ネットワークは徐々に精度を向上させていきます。最終的には、新しいデータに対しても適切な予測や分類ができるようになります。
ニューラルネットワークの種類
ニューラルネットワークにはさまざまな種類があります。ここでは、代表的な5つのモデルについて詳しく見ていきましょう。
ディープニューラルネットワーク(DNN)
ディープニューラルネットワーク(DNN)は、紹介する中で一般的に使われているモデルです。ニューラルネットワークでは入力層、隠れ層、出力層が各1層のものが多いですが、DNNは隠れ層が2層以上となっている深層学習モデルです。
畳み込みニューラルネットワーク(CNN)
畳み込みニューラルネットワーク(CNN)は、主に画像処理のために設計されたモデルで、「畳み込み層」があることがCNNの特徴です。
CNNでは画像の特徴部分を抜き出し、抽象化、パターン認識などをします。その結果、画像の特徴を解析して文章にできます。また、感情分析やチャットボットの開発などにも使われています。
再帰型ニューラルネットワーク(RNN)
再帰型ニューラルネットワーク(RNN)は、時間や順序に関連するデータの扱いが得意なモデルです。RNNの特徴は、過去の情報を「記憶」し、それを次の判断に活用できる点にあります。そのため、文章や音声の意味を理解する際に使われます。
敵対的生成ネットワーク(GAN)
敵対的生成ネットワーク(GAN)は、元となるデータに近いデータを作ることができるモデルです。Generator元となるデータに似たデータを生成し、Discriminatorにはそのデータの真贋を判断するという役割があります。
Discriminatorが生成されたデータを本物と判断するかどうかを繰り返すたびに、Generatorは学習していき、本物と見間違えるほどのデータを生成するようになります。そのため、画像や音声の生成AIなどで活用されています。
オートエンコーダ(自己符号化器)
オートエンコーダは、入力データを圧縮する「エンコーダ」と、圧縮されたデータを元に戻す「デコーダ」の2つの部分から成り立っています。
オートエンコーダの特徴は、教師なし学習が可能な点です。教師なし学習とは、正解ラベルのないデータを用いて学習を行う手法です。例えば、りんごの画像をニューラルネットワークに入力し、出力として出てきたものがりんごかどうか判断します。このときのりんごの画像が教師です。このプロセスを通じて、オートエンコーダは正解ラベルがないデータからでも、そのデータの本質的な特徴を学習することができます。
ニューラルネットワークの学習手法
Dropout法
Dropout法は、過学習を防ぐために、ランダムにノードを無効化する手法です。「過学習」とは、モデルが訓練データに対して過剰に適応してしまい、新しいデータに対する汎用性が失われてしまう問題のことです。
確率的勾配降下法(SGD)
確率的勾配降下法(SGD)は、ニューラルネットワークの重みを調整する方法です。この手法はデータの一部をランダムに選んで学習を進めます。
例えば、山登りなら目標は山頂(最適解)に到達することですが、すべての道を調べるのは非効率です。そこで、ランダムに選んだいくつかの道を試しながら、少しずつ頂上に近づいていくのです。
誤差逆伝播法
誤差逆伝播法は、ニューラルネットワークから出力されたデータと正解データを比較したときの誤差をノードごとの重みに反映させる学習方法です。
ニューラルネットワークの用途
次にニューラルネットワークがどのような用途で使われているかを解説します。
音声認識
スマートフォンの音声アシスタントや、スマートスピーカーなどに使われている音声認識技術にはニューラルネットワークが使われています。
ニューラルネットワークを駆使した音声認識システムは、方言やなまり、さらには周囲の雑音にも柔軟に対応し、高い精度で音声を文字に変換できるようになりました。
自然言語処理(NLP)
自然言語処理(NLP)は、コンピュータに人間の言語を理解・生成させる技術です。NLPによって、チャットボットや機械翻訳、感情分析の高度化が進みました。
コンピュータビジョン
コンピュータビジョンは、画像や動画から情報を取得する技術です。ニューラルネットワーク、特に畳み込みニューラルネットワーク(CNN)の登場により、画像認識の精度は人間のレベルに迫るほど向上しました。
ニューラルネットワークの活用事例
ニューラルネットワークの活用事例を紹介します。
Google翻訳
Google翻訳は2016年にニューラルネットワークを活用した「Googleニューラル機械翻訳システム(GNMT; Google Neural Machine Translation system」と呼ばれる機械翻訳技術を導入しました。
GNMTの導入により自然な翻訳ができるようになりました。さらに従来のシステムと比べて翻訳エラーが大幅に減少し、特に長文や複雑な表現の翻訳精度が向上しました。
自動運転
自動運転技術の発展にニューラルネットワークは不可欠です。例えば、テスラの「Model S」に搭載されている運転支援AIは、周囲の状況をリアルタイムで分析し、適切な判断を下します。ただし、人間の監視が必要となるレベルに留まります。
Pepper
ソフトバンクロボティクスの人型ロボット「Pepper」には、ニューラルネットワークを用いた「感情生成エンジン」が搭載されています。感情生成エンジンには。2種類のニューラルネットワークが使用されています。
一つは内分泌ホルモンの挙動をシミュレーションし、もう一つは感情を生成します。これにより、Pepperは人間らしい反応を示すことができ、より自然なコミュニケーションが可能になっています。
ニコニコ動画
ニコニコ動画では、ニューラルネットワークを活用して画期的なコメント管理システムを実装しています。同社ではニコニコ動画特有のコメントのことを「超」自然言語と呼び、独特の言い回しや絵文字を含む複雑なコメントを解析し、監視の必要性を自動的に判断します。
その結果、元々は人の目視によって不適切なコメントを監視していたところ、全体の約75%のコメントに目視が不要になりました。
みずほ証券
みずほ証券では、東証での株式取引の約70%にニューラルネットワークを活用しています。このシステムは、株価の上昇・下落を予測するために2つのニューラルネットワークを使用しています。
一つは「予測時刻」を、もう一つは「予測時間」を担当します。このシステムの導入により、従来の手法と比べて平均2.48%も予測精度が向上しました。
生成AI
最近注目を集めている生成AIも、ニューラルネットワークの一種である大規模言語モデルを基盤としています。例えば、OpenAIのGPT-3やGoogle Bardなどは、膨大なテキストデータを学習することで、人間のような自然な文章を生成できます。
ニューラルネットワークの将来性と課題
ニューラルネットワークやディープラーニングについて、東京工業大学名誉教授の古井貞熙氏の見解に触れながら、将来性と課題について解説します。
将来性
古井氏によると、ディープニューラルネットワークによって、音声認識、画像認識、自動翻訳、医療診断、将棋・囲碁などでデータを1つ1つ人間が与えなくてはいけなかったものが、入力と出力目標を与えるだけで自動的に理解し、適切に判断するようになったといいます。
そのため、ニューラルネットワークの応用範囲は今後さらに拡大すると予想されています。特に注目すべきは、人間の能力を超える可能性です。例えば、囲碁や将棋でAIがトッププレイヤーに勝利したことは、その潜在能力の高さを示しています。
課題
ニューラルネットワーク技術の発展には、いくつかの重要な課題が存在します。最も顕著なのは、現在のシステムが「ブラックボックス」的な性質を持ち、結果の説明が困難なことです。
また、AIの進歩には膨大な量の学習データが不可欠ですが、その収集と準備には多大なコストがかかります。さらに、人間が持つ常識や俯瞰力をAIに実装することも大きな課題となっています。
環境面での課題もあります。ディープラーニングは大規模なデータセットと高度な計算能力を必要とするため、エネルギー消費が膨大になります。この環境負荷をいかに抑えるかが課題です。
これからのAI時代に欠かせないニューラルネットワーク
ニューラルネットワークは、翻訳サービスや自動運転、医療診断など、その応用範囲は日々拡大しており、私たちの生活に深く浸透しつつあります。
しかし、この技術にはまだ多くの課題が残されています。ブラックボックス化や予期せぬ誤作動などが挙げられます。
それでも、ニューラルネットワークの将来性が明るいことは間違いありません。だからこそ、その仕組みや可能性、限界を正しく理解することが重要です。
[筆者プロフィール]
佐々木
テクニカルサポート出身のITライター。Windows Server OS、NAS、UPS、生体認証、証明書管理などの製品サポートを担当。現在は記事制作だけでなく、セキュリティ企業の集客代行を行う。