愛媛県松山市に本店を置き、四国四県を中心に岡山県、広島県、大分県、大阪府、東京都の各拠点で金融サービスを展開する愛媛銀行。同行は2020年1月、山口県、広島県、北九州市を地盤とする山口フィナンシャルグループと「西瀬戸パートナーシップ協定」を結び、お互いの強みやノウハウを有効活用する取り組みをスタートさせます。
そこで重要な役割を果たしているのが、コミュニケーションやコラボレーションのためのツールです。愛媛銀行 事務システム部 真鍋宏樹氏は次のように話します。「異なるシステムやツールを使っていると、コミュニケーションに遅れやズレが発生することが増えてきます。当行では20数年にわたってグループウェアを自社運営してきましたが、老朽化の観点から2022年3月までに基盤を刷新する必要がありました。次期コラボレーション基盤をどうするか悩んでいたとき、山口フィナンシャルグループさんも当行と同じ悩みを抱え乗り越えた経験があることを知ります。導入のノウハウを共有できる強みを活かせることから、Microsoft 365 の全社導入に踏み切ったのです」
このグループウェア移行を実現するためには、3つのハードルを乗り越える必要がありました。1つめは金融機関に求められる厳しいセキュリティ要件をクリアすること。2つめはカスタマイズした機能の移行でした。お客様サービス部 デジタル戦略室 西村拓朗氏はこう話します。「旧グループウェアはパッケージ製品でしたが、20年にわたって運用するなかでさまざまな機能を独自に作り込み、業務にあわせて使いやすく拡張してきた経緯があります。それらをどう新しい基盤に移行していくかは大きな課題でした。1つ1つの機能は当行にとって必要なもので、日々使っているものでもあり、使い勝手や品質が大きく変わることは避けたいという事情がありました。一方で、使われない機能や属人化しやすい機能などを減らしていく必要もありました」
そして3つめは、DXの取り組みを推進することです。DXではデジタル技術の活用が重要ですが、旧グループウェアではユーザーやお客様のニーズを受けて新しい機能や仕組みを取り入れようとしても、すばやく対応することが困難でした。こうした課題を解消できるソリューションが、Microsoft 365 でした。
Microsoft 365 を導入するにあたり大きな力となったのが、山口フィナンシャルグループの経験とノウハウでした。山口フィナンシャルグループ DX戦略部 栗原智史氏は次のように説明します。「2019年1月に Microsoft 365 を導入し、その後、Microsoft Azure を活用したデータ分析基盤を構築するなど、クラウドサービスを積極的に活用してきました。今は、システムアーキテクチャを組み換え、社内変革とDXを加速させようとしているところです。Microsoft 365 の導入では、われわれも愛媛銀行さんと同じような課題に直面しました。その後、課題を乗り越えた経験とノウハウを外部に提供できるよう整備を進めてきました。西瀬戸パートナーシップのなかで、そうした経験とノウハウを提供することで、スムーズに課題が解決することを目指しました」
また今回のプロジェクトでは、山口フィナンシャルグループの一員としてグループや地域のDX推進を支援するデータ・キュービックがシステムの設計・構築作業の支援にあたりました。同社社員は山口フィナンシャルグループの Microsoft 365 支援プロジェクトにも深く関わっていましたが、その際にオンプレミス環境で長年運用されてきたグループウェアを Microsoft 365 に移行する際に直面した課題とその解決策を、各種テンプレートやリファレンスモデルとしてまとめており、これを愛媛銀行の移行作業でも活用したといいます。なおデータ・キュービックでは山口フィナンシャルグループや愛媛銀行以外にも、地域の企業に対して広く Microsoft 365 を展開する事業を手掛けており、そのために Microsoft 365 のライセンスをTD SYNNEXから購入しています。
「TD SYNNEXさんには、Microsoft 365 の地域展開事業を立ち上げる際に、弊社の技術担当者や営業担当者に Microsoft 365 のハンズオン研修を提供いただき、プロジェクト立ち上げから短時間で自走できるよう支援いただきました。またエンドユーザーに対するサポート窓口も提供していただき、大変助かっています。」(多賀本氏)
愛媛銀行の Microsoft 365 導入プロジェクトでは、まず Microsoft Teams を使った週一回の定例ミーティングで課題を整理しながら、スケジュールを策定していきました。旧グループウェアの機能のうち、旧環境からの移行を行わず新規に構築したシステムの1つがメールです。Microsoft 365 の Outlook を新たに採用し、旧グループウェアのメールのうち必要なものについては、行員が個別に移行するための作業手順を配布して対応しました。
このほか、掲示板機能と一部ファイルサーバ機能については SharePoint と OneDrive に移行し、Web会議やコラボレーション機能については Teams に移行しました。
懸案のセキュリティについては、特に情報漏えいリスクとインターネットの接続リスクの2点を考慮したといいます。「情報漏えいリスクについては、デバイス管理の Microsoft Intune と、アカウント管理の Microsoft Entra ID(旧称:Azure Active Direcrory)の条件付きアクセス機能を用いて、限られた端末やユーザーだけが Microsoft 365 に接続できるようにすることで解消しました。また、インターネット接続リスクについては、閉域網接続の Azure Express Route と、フィルタリングサービスを利用してインターネット分離環境を実現することで対応しました。加えてマイクロソフトのデータセンターが外部監査に対応しているなど、強固な物理セキュリティを備えていることもポイントでした。また、こうした対応策を講じるうえでも山口フィナンシャルグループさんのノウハウを活用させていただきました」(真鍋氏)
Microsoft 365 を導入した効果は、早々に表れたといいます。まず、いつでもどこでもさまざまなデバイスから業務システムに安全にアクセスできる環境が実現できました。また、Microsoft Azure の環境に Microsoft Entra Connect(旧称:Azure AD Connect)サーバーを構築し、オンプレミス環境のアカウント情報を Microsoft Entra ID(旧称:Azure Active Direcrory)に同期することで、効率的なアカウント管理を実現しました。
さらには、それぞれの行員の気づきや行動が部署内にひろがり、他の部署へ横展開していく事例も増えているといいます。例えば、 Teams を通じてこれまで多く交流できなかった各部署の担当者がリモート研修の機会を通じて一堂に会し、さまざまなコラボレーションを行うようになっています。「新しい技術を活用して、社内DXを推進する文化も形成されつつあります」と西村氏は話します。
最後に多賀本氏は、TD SYNNEXに対する期待を次のように述べます。「今回の愛媛銀行さんのプロジェクトではTD SYNNEXさんに開発パートナー企業を紹介いただいたほか、Microsoft 365 の地域展開サービスでもお客様の要望に応えるために Microsoft 365 以外のソリューションも提供いただいています。特に、日々のライセンスの管理や発注は、TD SYNNEXさんのリセラー向けポータルサービス『StreamOne Stellr』を通じて簡単に行えるのでお客様の要望にも迅速に応えられています。今後も引き続きディストリビュータとリセラーの関係を超えたパートナーとして、ともにお客様に高い価値を届けていければと考えています。」