クラウドサービスの活用が進む一方で、業種や拠点の特性、セキュリティ要件などから、すべてをクラウドに移行するのが難しいという声も少なくありません。
そうしたニーズに応える形で、Microsoftが提供するハイブリッドな仮想基盤「Azure Local」が注目を集めています。

本記事では、「Azure Localとは何か?」という基本から、従来のWindows ServerベースのHCIとの違い、さらにはAzure Stack HCIとの関係、今後の展開や具体的な活用シーンまで、最新情報を交えてわかりやすくご紹介します。

オンプレミス環境でもAzureの柔軟性を最大限に活用したい方、今後のインフラの検討を進めている方はぜひ最後までご覧ください。

Azure Localとは?

Azure Localとは、Microsoftが提供するハイブリッド仮想基盤「HCI(ハイパーコンバージド・インフラストラクチャ)」の一種です。
「MicrosoftのHCIといえば、Windows Server Based HCIのことでは?」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、Azure Localはそれとは異なるアプローチのソリューションです。

Windows Server Based HCIは、Windows Server Datacenter(DC)エディションの拡張機能として構成されるのに対し、Azure Localは専用のOSを用いてHCIを構成します。
また、Azure Localはクラウド版のAzureと同じアーキテクチャを採用しており、すべてではありませんが、Azureの一部機能をオンプレミス環境でも利用できるという特徴があります。

Azure Stack HCIとの関係は?

ここまでお読みいただき、「Azure Stack HCIのことでは?」とお感じになった方もいらっしゃるかもしれません。
Azure Stack HCIは現在「Azure Local」という名称に変わり、今後は他のAzure Stackポートフォリオである「Edge」や「Hub」の機能も段階的に統合・提供されていく予定です。

もちろん、単なる名称変更というわけではありません。
これまでのAzure Stack HCIは、ある程度高いハードウェアスペックやRDMA(Remote Direct Memory Access)対応のネットワーク速度が求められており、導入のハードルが高い側面もありました。
しかし、現在プライベートプレビュー段階ではあるものの、Edge向けの用途として、より低スペック・低コストなハードウェアで動作可能になってきています。

また、Active Directory(AD)が必須ではなくなるケースも出てきており(要件によります)、さらにインターネットに接続しない「Disconnect環境」でも利用可能になるなど、利用シーンは確実に広がりを見せています。

なお、現時点ではAzure Stack HubおよびAzure Stack Edgeは名称変更の対象ではなく、Azure Localとは別のスタンドアロン製品として引き続き提供されています。

対応ハードウェアについては、Microsoftが提供する「Azure Local Solutions Catalog」から確認できます。
コンパクトなタワー型モデルも登場しており、今後のラインナップ拡充にも期待が高まります。

ちなみに、「Disconnect環境(Azureに接続しない構成)」とは、AzureポータルがVM上で動作するコントロールプレーンとして提供されるような構成を指します。
ADレスという選択肢もありますが、複数ノードの統合管理を行うには、やはりADがあると便利だと感じる場面も多いでしょう。

どのようなシーンで活用できるのか?

クラウドへ移行しない選択肢としても、Azure Localは柔軟な選択肢を提供します。

まず、AVD(Azure Virtual Desktop)をオンプレミス環境で利用できるのは、現時点でAzure Localだけです。
マルチセッションを許可する唯一の製品であり、データをオンプレミスに保持したままAVDを利用できる点が大きな特徴です。

また、他のHCIからの移行先としても注目されています。
特に最近、VMware環境からのマイグレーション機能が発表されており(こちらもプライベートプレビュー)、移行がよりスムーズになる見込みです。

VMware環境からの移行先として

Microsoftはクラウドへの移行には「Azure VMware Solution」を推奨していますが、オンプレミス環境でVMwareからの移行を考えている場合もサポートしています。
特に、多くの拠点を持つエッジ環境では、「Azure Migrate」を使ってオンプレミス同士で仮想マシンをAzure Localへ移すことが可能です。

Azure Arc配下の仮想マシンとして管理できる点も大きなメリットです。もちろん、対応するバックアップソリューションを用いた従来通りの移行も可能です。

AI機能も充実

Local AI SearchやAzure ML Catalog(いずれもプライベートプレビュー)により、ローカルのデータ検索やクラウドから取得したAIモデルをローカル環境で動作させることが可能になります。
クラウドへデータをアップロードできない、あるいはアップロードしたくない場合でも、データ活用の幅が広がるのは、Azureと同じアーキテクチャを採用しているためです。

なお、Microsoft Copilot in Azure(英語版)を利用すれば、オンプレHCI環境の運用支援も可能です。
例えば「HCIクラスタの状況報告」を依頼すると、概要やステータス、アラートが即座に表示され、「アラートの詳細を教えて」と追加で要望すれば、特定リソースのアラート概要や重大度が確認できます。

さらに深堀して「リソースの異常を調査して」と依頼すれば、リソースやアラートを解析し、何が起こっているかの詳細レポートと推奨手順を提示してくれます。これにより、運用担当者の負担軽減が期待できます。

最終的な判断は人が行う必要がありますが、このような活用が進んでいます。

コストを抑えるOEMライセンスの登場

Azure Localの導入にあたって気になるのがコストです。
これまでHCI仮想基盤のホストOS(Azure Local専用OS)や、その上で稼働するWindows仮想サーバー、コンテナは従量課金(サブスクリプション)制で、為替の影響を受けやすく予算管理が難しい面がありました。

これに対し、ハードウェアと合わせて一括購入できるOEMライセンスが販売開始されており、ライセンス費用は従来の半額以下になると言われています。予算計画の負担軽減に期待できるでしょう。

※ただし、他のAzure有償サービスや通信費用は別途必要です。

アダプティブクラウドとAzure Local

クラウドとオンプレミスを組み合わせて、より柔軟で最適なシステム環境を実現したい——そんなニーズに応えるキーワードとして、最近「アダプティブクラウド」という言葉をよく耳にするようになりました。
「アダプティブクラウド」とは、複数の組織や拠点、システムを集中管理し最適化するMicrosoftのアプローチです。

その中核を担うのが「Azure Arc」です。Azure Arcを活用することで、オンプレミスのサーバーもAzure上で管理可能になります。
全ての機能ではありませんが、Azureの管理ツールやセキュリティ、アプリケーション、AIも利用できます。

クラウドとオンプレミスを融合したハイブリッドソリューションであるAzure Localも、もちろんAzure Arcとの連携も可能です。
これにより、Azure Portalからの統合的な管理が可能になるほか、他の代表的なサービスであるAzure Backupによるバックアップ、Azure Site Recoveryよる災害やシステム障害発生時の迅速な復旧と業務再開を支援するDR対応、Azure Monitorでの監視、Update ManagementやSecurity Centerとの連携も実現します。

今後のインフラ戦略にAzure Localを

Azure Localは、Azureのアジリティをオンプレミス環境にもたらす、次世代のハイブリッドインフラソリューションです。
クラウドとオンプレミスの垣根を越えた柔軟な構成が可能となり、さまざまな要件に対応できます。
今後の社内インフラの構成や運用戦略を検討される際には、Azure Localを選択肢の一つとして、ぜひご検討ください。

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[著者プロフィール]
TD SYNNEX株式会社 | 角田賢一
アドバンスドソリューション部門 ハイブリッドマルチクラウドSE部
Microsoft Certified: Azure Solutions Architect Expert, DevOps Engineer Expert, Cybersecurity Architect Expert
VMware Certified Professional – Data Center Virtualization

外資系コンピュータメーカーでシステムインフラのイロハ(設計・構築・運用・管理・更改)を学び、データセンター移転は大変だったけど今では良い思い出。オンプレ機器だけではなく、Microsoftソリューションのセミナーにも数多く登壇。TD SYNNEX入社後はマルチベンダー、マルチソリューション、の強みを活かし、オンプレ・ハイブリッド・クラウドの最適な提案を担当。うまい棒とエビフライが大好物。