ローコード・ノーコードとは?メリット、デメリットやおすすめのツールをご紹介
「ローコード・ノーコード」という言葉は「ローコード」と「ノーコード」の2つに分けることができ、いずれもアプリケーション開発方法です。プログラミング言語を用いてすべての処理内容を記述したソースコードを作成する従来の開発方法(スクラッチ開発)と対比するもので、さまざまなツール・プラットフォームが存在します。
それらのツールは、GUIを用いてあらかじめ用意された処理を部品として組み合わせることで、アプリケーションを開発できます。「ノーコード」は、用意された部品だけを使用して作成する方法です。一方、「ローコード」は基本的に用意された部品を使用しますが、特定の処理に独自の処理を付け加えて開発する方法のとなります。
「ローコード・ノーコード」は開発時間や開発コストの削減、非エンジニアでも開発に取り組むことができる点から注目を集め、企業だけではなく官公庁や自治体でも利用が拡大しつつあります。本記事では「ローコード・ノーコード」について、導入によるメリットやデメリット、開発に役立つツール、ツールを利用する際のポイントをご紹介しましょう。
ローコード・ノーコードとは?
通常のアプリケーション開発では、すべての処理をプログラミング言語で記述する必要があります。記述した一連のテキストをソースコードと言いますが、「ローコード・ノーコード」ではGUIを用いてあらかじめ用意された処理を組み合わせ、アプリケーション開発をすることが可能です。
IDC Japanによる「国内のローコード/ノーコードプラットフォームの動向に関する調査結果」(※)によると、ローコード/ノーコードプラットフォームを導入している企業は37.7%、導入に向けて実装/検証を行っている」企業は12.8%、「1年後、1年後以降に導入する計画がある」企業は8.2%でした。これらの回答の合計は58.7%となり、6割近くの企業において「ローコード・ノーコード」が導入・検討されていることから、注目度が高い開発方法であることがわかります。
参考:国内企業におけるローコード/ノーコードプラットフォームの導入状況に関する最新調査結果を発表(2021年11月:https://www.idc.com/getdoc.jsp?containerId=prJPJ48371421)
ローコードとノーコードの違い
ローコードは、ソースコードの記述を最小限にした開発方法です。よく使用する汎用的な処理はすべて事前に用意されたものを使用し、独自要件により汎用的ではない処理の部分のみをプログラミングすることで、さまざまなアプリケーションの開発に柔軟に対応できます。すべてを記述する開発よりも、圧倒的に早く開発することができるでしょう。
一方、ノーコードはソースコードを作成しません。用意された部品のみを使用してアプリケーション開発を行います。シンプルな機能で構成されるアプリケーションは汎用的な処理の組み合わせで開発できることが多く、ローコードより短期間での開発が可能です。
ローコードとノーコードの違い
ローコード | ノーコード | |
ソースコードの記述 | 必要に応じて記述する | 記述しない |
開発スピード | 早い | ローコードよりも更に早い |
機能の拡張性 | 自由度が高い | 自由度が低い |
今、ローコード・ノーコードが求められている背景
経済産業省が発表した『DXレポート』(※)の中で、日本国内の企業がDX(デジタル・トランスフォーメーション)を実現できない場合、2025年以降、最大で年間12兆円の経済損失が生じる可能性があると指摘しています。DXレポートの中で、DXとは「新たなデジタル技術を活用して新たなビジネス・モデルを創出・柔軟に改変する」ものとされています。多くの経営者が必要性は理解しているものの、「システムの複雑化・ブラックボックス化」や「個別構築されたシステム間の連携ができず、全社的なデータ活用ができない」などの課題があり、DX実現の大きな壁となっています。
こうした課題を放置した場合、以下のシナリオが考えられることをDXレポートでは警告しています。そして、このような課題がDXの足かせになっている状態(戦略的なIT投資に資金・人材を振り向けられていない)が多数見られるとも指摘されているのです。
- データを活用しきれず、DXを実現できないため、市場の変化に対応してビジネス・モデルを柔軟・迅速に変更できずデジタル競争の敗者になる。
- システムの維持管理費が高額化し、IT予算の9割以上になる。これを「技術的負債(Technical debt)」と言い、短期的な観点でシステムを開発し、結果として長期的に保守費や運用費が高騰している状態を示す。
- 保守運用の担い手不在で、サイバーセキュリティや事故・災害によるシステムトラブルやデータ滅失等のリスクが高まる。
※参考:DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/digital_transformation/20180907_report.html
このような課題を克服するためには、既存システムの技術的負債を解消し、市場の変化に柔軟・迅速に対応することができるシステムが求められます。しかし、そのためにはより高度な専門性の高いスキルを持ち、さらには業務に精通した人材の育成・確保が必要となり、DX推進の大きな壁となるのが現状です。
そこで、注目されるのが「ローコード・ノーコード」です。プログラミングをほとんどしない(ローコード)、またはまったくしない(ノーコード)ため、ユーザ部門の非エンジニアでも主体的に開発を行うことが可能となります。外注するよりもユーザ部門のニーズを直接開発につなげることができるため、業務要件にあったアプリケーションを迅速に開発することが可能です。
また、ユーザ部門自らが開発可能となることで、IT化を実現できる人材を増やすことができ、結果としてシステム専門の担当を育成するコストを抑えられます。経営者視点で考えても、非常に効果的にDXを進めることができるのです。
そして、DXでは市場の変化に合わせて、柔軟・迅速にシステムを変更することが求められます。そのため「ローコード・ノーコード」は、より変化に対応しやすくユーザの業務要件を反映しやすいアジャイル開発(計画→設計→実装→テストを短い期間で繰り返す)との相性が良いのです。
ローコード・ノーコードのメリット
従来の開発方法であるスクラッチ開発(すべてをプログラミングする方法)と比べた、ローコード・ノーコードのメリットを3つ挙げて解説します。
非エンジニアが開発に携わる事ができる
「ローコード・ノーコード」では画面操作をメインにアプリケーション開発を行うため、高度なプログラミングスキルがなくてもアプリケーション開発をすることが可能です。
開発期間、費用の削減
スクラッチ開発では、外部もしくは社内の専門部門が開発チームとなり、業務要件の確認などをユーザ部門と行います。その際に上手く内容が伝わらず、後続の工程で不具合や手戻りが発生し、開発期間が長くなるケースが少なくありません。それに比べて、「ローコード・ノーコード」の場合はユーザ部門が開発することができるため、手戻りが発生する可能性が低くなります。また、「ローコード・ノーコード」では直感的な操作で開発が可能となるため、結果として開発期間・費用を抑えることができます。
エラー、バグが少ない
「ローコード・ノーコード」では、あらかじめ用意された機能を部品として組み立てていくため、プログラムの記述ミスによるエラーやバグが少ないことが特徴です。スクラッチ開発では「コードレビュー」「単体テスト」「結合テスト」「システムテスト」等に時間をかけて品質を向上させますが、そういった時間を大幅に短縮できます。
ローコード・ノーコードのデメリット
「ローコード・ノーコード」の導入にはデメリットもありますので、ここで代表的なものを5つ挙げてご紹介します。
機能の実装、拡張を自由に行えない可能性がある
イチからすべて開発するのではなく、あらかじめ用意した機能を使用して開発します。そのため、使用するツールやプラットフォームで準備されていない機能をアプリケーションに組み込むことは難しく、実装したい機能を実現できない可能性があるでしょう。ローコードのように一部実装することで実現できるのであれば良いですが、そうでない場合は仕様を変更しなければいけません。
開発したアプリの実行速度が遅くなる可能性がある
「ローコード・ノーコード」ではソースコードを意識しません。実際にどのようなソースコードが生成・実行されているかわからないため、あらかじめ用意された機能は汎用的に作成されています。アプリケーションによっては不要なコードが含まれている可能性が高く、そうした場合、実行速度はスクラッチ開発したアプリケーションより遅くなるでしょう。
複雑な構築が伴う大規模開発には不向き
大規模開発では複雑な機能(独自機能)が必要となるケースが多いため、「ローコード・ノーコード」ではそれらが実装できないケースも多いでしょう。また、スクラッチ開発では標準的に行われている、チームで開発する際のソース管理ができないなど、仕組みとしてまだ不足している部分があります。そのため、大規模開発には向いていません。
日本語の情報が少ない(対応したツールが少ない)
IT技術の多くは海外から日本に順番に広まっていきますが、「ローコード・ノーコード」は、まだ新しいため、例えばJavaやWeb開発の情報と比較して多くの情報がありません。まだ普及・発展途上の方法であり、今後情報が増えていくことが想定されます。
開発環境がプラットフォームに依存する
スクラッチ開発では実行されるソースコードが手元に残るため、環境が変わっても移植することで実行可能になります。しかし、「ローコード・ノーコード」の場合は用意された機能を組み合わせて開発するため、プラットフォームがなくなってしまうとアプリケーション自体が使えなくなる可能性があります。
ローコード・ノーコード開発に役立つツール紹介
「ローコード・ノーコード」開発のプラットフォームは「OutSystems」「kintone」「Canbus」など数多くありますが、その中でも「ローコードプラットフォーム」の代表的なものとして「Microsoft Power Platform」をご紹介します。
Microsoft Power Platformは、「Power Apps」と「Power Automate」「Power BI」「Power Virtual Agents」の4つのソリューションにより構成されています。これらのソリューションにより、アプリケーションの開発からワークフロー、業務プロセスの自動化、そしてデータの分析が可能となり、さらにAIチャットボットまでコーディング不要で実装することが可能です。さらに、Microsoftのクラウドサービス(Azure)やMicrosoft365、Dynamics 365との連携を前提にされているため、さまざまな要件にあわせて開発できます。
▼参考
https://www.synnex.co.jp/vendor/microsoft/power-platform/
ローコード・ノーコード向けツールを利用する際のポイント
専門的な知識がなくてもアプリケーションを開発できる「ローコード・ノーコード」ですが、使用するツールの選定には注意が必要です。例えば幅広い用途に使用できるものの、機能が汎用的すぎて実装に使えない場合もあります。ここで、ツールの選定に必要なポイントや知識、注意点をご説明しましょう。
選定に必要なポイント
・利用目的
Webサイトやデータ解析、業務アプリケーションや、ワークフローなど、何を目的としてツールを使用するかで選定候補がまったく違うものになります。現時点で必要な機能と、将来的に必要な機能を見極めることが必要です。
・料金プラン
使用可能なサービス・機能と使用状況によって料金が変動する場合は、何をどれくらい使用したら料金が変動するかなど、実現したい業務を想定して料金プランを検討しましょう。もし無料プランやトライアル期間があれば、最初に使用感を確認することをお勧めします。本格的に導入後に使いづらいことがわかり、社内での利用が広がらないのではもったいないので注意が必要です。
・対応デバイスとサポート
ツールで作成したアプリケーションの使用シーンを確認し、ツールが対象とするデバイスがその使用シーンに合うか確認することも重要なポイントです。社外からの使用を想定するのであれば、タブレットやスマートフォンの利用を前提にアプリケーションを開発する必要があります。
導入時に必要な知識は?
「ローコード・ノーコード」については、プログラミングスキルがなくても開発は可能です。しかし、前述のとおり、「利用目的」を見極めて、それに合ったツールを選定する必要があります。各サービスやツールのさまざまな事例を収集し、導入時のイメージを膨らませておくことが大切です。
利用時の注意点
ツール導入によりさまざまなメリットがありますが、利用を誤ると大きなトラブルにつながる可能性があります。以下のような点に注意してください。
・自由に開発しない
開発技術が無くてもアプリケーション開発をできることがメリットの一つでしたが、各自が好き勝手に作成してしまうと類似機能のアプリケーションが乱立してしまったり、あまりに局所的な開発のため他業務に活用できなくなったりしかねません。手軽に開発ができるからといってアプリケーション開発の対象とする業務の選定基準が、曖昧にならないように注意が必要です。
・設計情報を残す
業務に精通したユーザがアプリケーション開発をした場合、効率的に開発ができる反面、その設計情報はそのユーザの頭の中にあり、ブラックボックス化してしまう可能性が高いでしょう。もしその開発者がいなくなれば、誰も内容を把握していないアプリケーションだけ残ることになり、そのまま放置するとトラブルが発生する可能性が高くなります。それを防ぐために、開発したアプリケーションの設計情報は必ず残すようにしましょう。
まとめ
「ローコード・ノーコード」開発はGUIを用いるため、専門知識のない非エンジニアでも開発可能です。また、業務に精通したユーザが開発した場合には、開発期間やコストの大きな削減が期待できます。経産省が発表した「DXレポート」に記載されているDX推進への課題に対して、これらのツールを使用すればビジネス環境の変化に柔軟に迅速に対応でき、企業のデジタル化や業務効率化、そして新たな企業価値の創造につなげることができるでしょう。
TDシネックスでは、ローコード開発の代表的なツール「Microsoft Power Platform」の情報提供とお勧めポイント、導入に関するご相談を承っております。お気軽にお問い合わせください。
Microsoft Power Platformの詳細はこちら:
https://www.synnex.co.jp/vendor/microsoft/power-platform/