ハイブリッドクラウドとは?メリット・デメリットから導入事例までわかりやすく解説
自社にとって最適な環境を構築し運用を行うハイブリッドクラウド。どのような時にハイブリッドは活用できるのかなど、本記事ではハイブリッドクラウドとはから、仕組みやメリット・デメリットまでを解説しています。
ハイブリッドクラウドとは?そのメリット・デメリットについて
ハイブリッドクラウドとは
アメリカ国立標準技術研究所の「NISTによるクラウドコンピューティングの定義」によれば、ハイブリッドクラウドは以下のように定義されています。
「クラウドのインフラストラクチャは2つ以上の異なるクラウドインフラストラクチャ(プライベート、コミュニティまたはパブリック)の組み合わせである。各クラウドは独立の存在であるが、標準化された、あるいは固有の技術で結合され、データとアプリケーションの移動可能性を実現している」
難しい言葉に聞こえますが、ハイブリッドとは「異なるものの組み合わせ」という意味です。そのため、ハイブリッドクラウドは「ひとつの環境ではなく、複数の環境を組み合わせ、それらを統合させて単一の環境として運用を行っていくこと」を指しています。ハイブリッドクラウドで扱うサーバーとは、パブリッククラウド、プライベートクラウド、物理サーバーなどのこと。これらのサーバーを、自社の目的に合わせて組み合わせ運用していきます。
昨今のIT化やDX化の波によって、企業におけるデータの管理や活用はより重要視されてきました。なぜなら多くの個人情報や機密性の高い情報を扱う、データの高度な処理が必要になってきたからです。また、高度なデータ処理や活用を行うことに付随して、セキュリティの強化も必要になってきました。
パブリッククラウド、プライベートクラウド、物理サーバーには運用に際して、それぞれメリットやデメリットがあります。そのため、ひとつのサーバーでデータを管理すると、どのサーバーを利用してもどうしても弱い部分が出てきてしまいます。こうした弱い部分を補完し合いながら運用するために考えられた方法が、ハイブリッドクラウドです。
ハイブリッドクラウドと似た言葉として「マルチクラウド」があります。両者は混合されがちですが、大きな違いがあるので注意してください。その違いとは、「単一のシステムとして扱っているかどうか」です。
先述したように、ハイブリッドクラウドはパブリッククラウドやプライベートクラウドなどを組み合わせ、それらを統合させてひとつのシステムとして運用します。一方でマルチクラウドは、複数のクラウド環境を扱う点はハイブリッドクラウドと同じですが、それらは統合されず個々に独立して運用する方法です。そのため、マルチクラウドは各環境を「併用」で運用しています。複数のシステムを利用して統合し、単一のシステムとして扱っているかどうかが見分けるポイントです。
▼参考:NISTによるクラウドコンピューティングの定義
https://www.ipa.go.jp/files/000025366.pdf
ハイブリッドクラウドの仕組み
先述したようにハイブリッドクラウドの仕組みは、複数のクラウド環境などを組み合わせて単一のシステムとして運用するものです。そのため、自社の運用目的に合わせて構築していきます。例えば2つ、組み合わせの例を挙げてみましょう。
・パブリッククラウド×プライベートクラウド
それぞれ、クラウド環境の良いところを組み合わせた仕組みです。パブリッククラウドとプライベートクラウドの詳細については、のちほどご説明します。パブリッククラウドは低コストで自由度が高いため、フロントサーバーの役割に最適です。一方、プライベートクラウドはセキュリティレベルが高いため、データ保管になどに向いています。そのため「パブリッククラウド×プライベートクラウド」の組み合わせは、低コストで自由度の高い運用を、きちんとセキュリティを保ちながら行えるでしょう。
・パブリッククラウド×オンプレミスサーバー
IP-VPNや閉域網を利用して接続し、運用する仕組みです。パブリッククラウドは前述したように、低コストで自由度が高いクラウドです。一方、オンプレミスサーバーは自社内に設置することも多く、機密性に優れています。両者をIP-VPNなどで接続して運用することで、セキュリティ面とコスト面に優れた運用を行えるでしょう。
ハイブリッドクラウド活用例
ハイブリッドクラウドの主な活用例について、詳しくご説明しましょう。
・BCP対策としての活用
BCP対策として、ハイブリッドクラウドは大いに利用されています。BCPとは「Business Continuity Plan」の頭文字を取ったもので、日本語訳は「事業継続計画」です。内閣府の「事業継続ガイドライン-あらゆる危機的事象を乗り越えるための戦略と対応-」では、BCPを以下のように定義しています。
「大地震等の自然災害、感染症のまん延、テロ等の事件、大事故、サプライチェーン(供給 網)の途絶、突発的な経営環境の変化など不測の事態が発生しても、重要な事業を中断させ ない、または中断しても可能な限り短い期間で復旧させるための方針、体制、手順等を示し た計画のことを事業継続計画(Business Continuity Plan、BCP)と呼ぶ。」
ご存じのように、日本は災害大国として知られています。地震や津波、台風、豪雨災害などのニュースは、毎年のように全国各地を賑わせているのが実情です。また、昨今の新型コロナウイルス感染症拡大によって、通常業務に影響を受けた企業もあるでしょう。こうした災害が自社へ降りかかった場合、通常業務が行えず事業を中断しなければならない事態も想定されます。そのため、通常業務に支障をきたすような災害が起こったとしても、「重要な事業を中断させない」「事業を中断した際は速やかに復旧を目指す」のがBCP対策です。
こうしたBCP対策に、ハイブリッドクラウドは有効と言えます。なぜならデータを一ヶ所ではなく、物理的に離れた場所にバックアップしておくことができるからです。データが離れた場所にバックアップできていれば、緊急時にも即時に対応ができ、早期に通常業務への復旧を目指せるでしょう。
▼参考:事業継続ガイドライン-あらゆる危機的事象を乗り越えるための戦略と対応-(平成25年8月改定)
http://www.bousai.go.jp/kyoiku/kigyou/pdf/guideline03.pdf
・負荷分散としての活用
負荷分散としても、ハイブリッドクラウドは多く利用されています。負荷分散とはその名の通り、膨大な外部からのアクセスがあった際にアクセス先を分散させる方法です。オンプレミスサーバーなどで一ヶ所運用をしてしまうと、アクセス負荷に耐えられず業務が停止してしまう事態も想定できます。また、常に最もアクセスが多い時を想定して、サーバーやネットワークを組んでしまうと維持費用などのコストは大きな負担です。
そのため、リソースの増減に対応ができるパブリッククラウドを活用することで、アクセスの増大があった際は負荷を分散させて業務対応を継続させます。また、パブリッククラウドは低コストでの運用も可能なため、コスト面での負荷軽減にもつながるでしょう。
パブリッククラウドについて
パブリッククラウドとは、事業者やITベンダーなどのプロバイダがインターネットを介して、サーバーやソフトウェアなどを提供するサービスのこと。パブリックとはその名の通り「公共の」「公開された」という意味で、開かれた環境のことを指します。そのため、パブリッククラウドは複数のユーザーで共有して利用するのが特徴です。
パブリッククラウドの代表例としては「Amazon Web Services (AWS)」「Google Cloud Platform™ (GCP)」などが挙げられます。日本でもパブリッククラウドの活用は広がってきており、IT専門調査会社 IDC Japan 株式会社が発表した「国内パブリッククラウドサービス市場予測」によれば、2020年の日本国内の市場規模は1兆654億円になったとのこと。また、パブリッククラウド市場は加速度的に成長しており、2025年には2兆5,866億円まで拡大すると予想しています。なお、パブリッククラウドのメリットとデメリットは下記の通りです。
◎メリット
- コストの抑制
- システム管理者の負担軽減
- 優れた拡張性
◎デメリット
- クラウド基盤が止まってしまうと業務が止まってしまう恐れ
- セキュリティ面での不安
先述した通り、パブリッククラウドは複数のユーザーで共有して利用するものです。そのため、自社のみでサーバーなどを運用するよりも、コストを抑えての運用に優れています。また、クラウド環境を利用していますが、クラウド基盤の保守を行うのはサービスを提供しているプロバイダ側です。そのため、自社のシステム担当者や管理者の業務負担が軽減されるでしょう。これに加えて拡張性に優れているため、必要な時にリソースを即座に追加などができるのも大きなメリットです。
一方で、クラウド環境の保守はプロバイダ側です。そのため、環境そのものに障害が発生した場合は利用している側では対応ができず、業務そのものが止まってしまう恐れがあります。また、パブリッククラウドは閉鎖された環境ではないため、セキュリティ面での不安があることも確かです。
▼参考:IDC「「国内パブリッククラウドサービス市場予測」
https://www.idc.com/getdoc.jsp?containerId=prJPJ47502321
プライベートクラウドについて
プライベートクラウドとは、自社のみで構築・利用するクラウド環境のこと。パブリッククラウドとは異なり、自社で占有できるため自由なカスタマイズが行えるなどが特徴です。プライベートクラウド市場もパブリッククラウドと同様に拡大傾向にあり、IT専門調査会社 IDC Japan 株式会社が発表した「国内プライベートクラウド市場予測」によれば、2020年の国内プライベートクラウド市場規模は8,747億円とのこと。また、2024年の市場規模は2兆5,658億円まで拡大すると予測されています。なお、プライベートクラウドのメリットとデメリットは下記の通りです。
◎メリット
- クラウド環境からネットワーク回線まで占有
- セキュリティ面での安心
◎デメリット
- コスト面の増大
- リソース増減対応への難しさ
プライベートクラウドは自社のみでの占有になるため、業務に合わせて自由にカスタマイズができる点が最大のメリットです。また、自社内での運用管理のため、緊急時のなどの対応も即座にできるのも嬉しい点と言えるでしょう。これに合わせて、セキュリティ面で安心なことも魅力です。プライベートクラウドは自社のみでの占有なので、利用するユーザーに外部の者がおらず限定したユーザーのみになるからです。
一方、利用する環境はイチから構築するため、初期費用などのコスト面は増大します。また、環境構築後のランニングコストも忘れてはなりません。環境構築には高額な費用がかかってしまうのがデメリットです。そして自由にカスタマイズできる反面、リソース増減への対応が難しい点もデメリットとなるでしょう。負荷が想定を超えてしまえば対応に苦慮してしまいます。
▼参考:IDC「国内パブリッククラウドサービス市場予測」
https://www.idc.com/getdoc.jsp?containerId=prJPJ47502321
ハイブリッドクラウド導入のメリット・デメリットについて
ハイブリッドクラウドのメリットは以下の通りです。
- コストを最適化させての運用
- セキュリティの確保
- 負荷分散
- リスク管理(BCP対応)
まずはメリットに挙げられるのがコスト面。ハイブリッドクラウドはパブリッククラウドやプライベートクラウドなどを組み合わせて利用するため、必要な場所に必要なリソースを割り当てられます。そのため無駄なコストを削減でき、最適化させて運用可能です。また、機密性の高い情報はプライベートクラウドで利用するなど、セキュリティ確保の面でも貢献できるでしょう。その他にも先述した負荷分散やリスク管理など、組み合わせることで多くのメリットが発生します。
これに対して、ハイブリッドクラウドのデメリットには以下の2点が挙げられます。
- システム構成が複雑
- システム管理者の負荷
ハイブリッドクラウドはパブリッククラウドやプライベートクラウド、物理サーバーなど自社の業務内容や考えに応じて環境を構築していくことから、システム構成が複雑になってきます。そのため、見切り発車ではなくシステム構築の人材やリソースがどれくらいかかるかなど、検討しながら進めることが大切です。また、ハイブリッドクラウドを継続して運用していくためには、システム管理者が仕組みを理解し稼働させなくてはいけません。システム管理者には、高い知識や非常時の対応などの負荷がかかります。
ハイブリッドクラウドの導入事例・効果
ハイブリッドクラウドの導入事例に、ヤマハ発動機株式会社が挙げられます。世界180カ国以上で製品を提供しているヤマハ発動機は、売上の9割近くが海外というグローバル企業です。そのため、セキュリティレベルの向上やDX化の推進に全社を挙げて取り組んでいます。
ヤマハ発動機は長年のデータがオンプレミス上に残っていました。そのためパブリッククラウドを構築する際は、オンプレミスシステムをなるべくそのままの状態を保ってシフト。また、内部用の他部門連携を行い効率化に務めています。
まとめ
さまざまな環境を組み合わせて運用するハイブリッドクラウドには、コストの最適化やリスク管理、負荷分散など多くのメリットがあります。DX化の波はさらに加速していくことが予想され、企業にとってデータの保管や活用などは大きなテーマと言えるでしょう。ハイブリッドクラウドは自社に合った運用が行えるので、ビジネスを一歩前に前進させることにつながるはずです。ハイブリッドクラウド導入のきっかけとして、ここで解説した内容をぜひ参考にしてください。
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▼参考
https://www.ibm.com/blogs/solutions/jp-ja/what-is-hybrid-cloud/
https://altus.gmocloud.com/suggest/hybridcloud/
https://directcloud.jp/contents/hybrid_cloud/#list-06
https://frontier-eyes.online/hybrid-cloud/
[著者プロフィール]
長野俊和
フリーランスシステムエンジニア。都内ソフトウェアハウスにてバックエンドエンジニアを9年経験後、独立。フリーランス同士でチームを組み、システム開発やディレクションを主軸事業として実施。また、IT技術を活用した業務改善、コンサルティング、提案などの活動を行っている。Comfortable Noise(コンフォータブルノイズ)代表。