
オンプレ→クラウド移行の手順と5つの移行手法を徹底解説
オンプレミス環境からクラウド環境へとスムーズに移行するためには、クラウドに関する基本的な知識をしっかりと理解したうえ、最適な移行方法を選択する必要があります。
この記事では、5種類の移行方法について、それぞれのメリットとデメリット、具体例を解説します。また、クラウド移行の具体的なフェーズを7ステップに分けて分かりやすく解説します。
クラウド移行とは?基本的な知識を確認
はじめに、クラウド移行にあたって必要となる基本的な知識を解説します。
クラウド環境とオンプレミス環境の違い
クラウド環境とは、データやアプリケーション、サービスなどをインターネット経由で利用できるIT基盤のことを指します。
一方でオンプレミス環境とは、企業や組織が自社内にサーバーやストレージ、ネットワークなどのITインフラを設置し、自社で運用・管理を行う形態のことです。
クラウド | オンプレミス | |
初期費用 | 低い サーバー購入不要、必要に応じたリソース利用 | 高い サーバー購入、設置費用、データセンター構築などが必要 |
ランニングコスト | 低い 従量課金制で利用状況に応じたコスト最適化が可能 | 高い ハードウェア保守、電力、冷却設備などの維持費が必要 |
導入スピード | 早い 数日から数週間で導入可能 | 遅い ハードウェア購入・設置・設定に時間がかかる |
スケーラビリティ | 高い 必要に応じたリソースの拡張・縮小が可能 | 限定的 ハードウェアの追加が必要 |
運用管理 | ベンダーが対応 24時間365日監視・管理 | 自社で対応 監視・メンテナンスには専門知識が必要 |
セキュリティ | 高い ベンダーが専門的なセキュリティ対策を提供する | 柔軟 自社でセキュリティ対策を構築し、管理運用する必要がある |
データアクセス | リモートアクセス可能 インターネット接続があれば、どこからでもデータにアクセスできる | 物理的ネットワーク内でのアクセスが基本 社内ネットワークでの制限されたアクセスが基本だが、VPN利用により拡張可能 |
カスタマイズ性 | 一部制約あり ベンダーの仕様に準拠 | 高い 自社ニーズに合わせた自由なカスタマイズが可能 |
災害時の復旧性 | 高い データが複数のデータセンターに分散保存されている場合が多い | 低い 物理サーバーが被災するとデータ復旧が困難 |
主なクラウドサービス3つ(SaaS、PaaS、IaaS)
主なクラウドサービスには、SaaS・PaaS・IaaSがあります。

SaaSは、クラウド上で提供されるアプリケーションを、インターネット経由で利用するサービス形態です。ユーザーはソフトウェアを購入したりインストールしたりする必要がなく、必要な機能をすぐに利用することが可能です。
PaaSは、アプリケーションの開発や運用に必要なプラットフォームをクラウド上で提供するサービス形態です。ユーザーは、サーバー管理やインフラ構築を気にせずに、アプリケーションの開発に集中できます。
IaaSは、クラウド上で仮想サーバーやストレージ、ネットワークといったインフラを提供するサービス形態です。ユーザーはオンプレミスのように柔軟にインフラを構築でき、その管理をクラウド上で行います。
移行の具体例
(1)オンプレのシステムをSaaSとして提供
自社の既存ソフトウェアをSaaSとしてクラウドで提供する(例: オンプレミスERPをSaaSモデルで再構築)。
(2)オンプレのシステムをPaaSに移行
アプリケーション開発環境をPaaS上に再構築し、開発・運用をクラウドに依存させる(例: Kubernetesを活用したクラウド移行)。
(3)オンプレのインフラをIaaSに移行
オンプレミスのインフラ(サーバー、ストレージ)を仮想化し、IaaSプロバイダーのサービス上に再配置する(例: VMware環境をAzureやAWSに移行)。
クラウド移行のメリットと注意点
クラウド移行により得られる主なメリットは、次の通りです。
- 運用負荷とランニングコストを軽減できる
- 多様な働き方に対応できる
- セキュリティを高められる
- BCP対策になる
- 少ない初期費用で始められる
一方で、クラウド環境はカスタマイズ性に制限があり、サービスの運用状況やセキュリティ強度のコントロールをベンダーに依存してしまうというデメリットもあります。
クラウド化に伴うメリットやデメリット、注意点についてはこちらの記事で詳しく解説しています。
クラウド化の種類や方法をわかりやすく解説!メリットを享受しやすいユースケースも紹介
オンプレミス環境からクラウドに移行する5つの方法
クラウド移行の方法には、5つのパターンがあります。以下からは、それぞれの方法の概要やメリット・デメリット、具体例を詳しく解説します。
移行手法 | 概要 |
リバイズ(Revise) | 既存システムの一部をクラウド化 |
リビルド(Rebuild) | システムをゼロからクラウド化 |
リプレイス(Replace) | 既存システムをすべてクラウド化 |
リファクタ(Refactor) | 既存システムを向上させつつクラウド化 |
リホスト/リフト&シフト(Rehost / Lift & Shift) | 既存システムをそのままクラウド化 |
(1)リバイズ(Revise):既存システムの一部をクラウド化
リバイズ(Revise)とは、既存のアプリケーションを部分的に再設計・再構築して、クラウド環境で動作しやすいように最適化する手法です。大掛かりな全面リファクタリング(全面書き換え)ほどの工数はかけず、必要な部分だけ設計を見直してクラウドに対応させます。
<リバイズのメリット>
①工数が比較的少なく、移行コストを抑えられる
システムのすべてを書き換えるわけではないため、大規模なリファクタリングに比べると手間が少なくなります。
②短期間でクラウドメリットを得られる
必要箇所だけを修正してクラウド上に移行するため、早めにスケーラビリティや可用性を確保しやすくなります。
③既存の資産を最大限活かせる
一部を修正するだけで済むので、大半のコードや機能を引き続き利用することができます。
<リバイズのデメリット>
①完全なクラウドネイティブ化には至りにくい
大部分の構造がそのまま残るため、将来的に再度大きな改修が必要になる可能性があります。
②部分的な修正による複雑化
既存コードと修正コードが混在し、全体の設計が複雑になるリスクがあります。
③技術的負債が残る可能性
大掛かりな再アーキテクチャを行わない分、元々の問題点(セキュリティ、拡張性など)を十分に解消できないことがあります。
<リバイズのメリットを享受しやすいユースケース>
①既存コードの大半はそのまま使えるが、一部の機能や設計を修正したい場合
例:オンプレミスで動いていたアプリをクラウド上で安定運用したいが、特定の機能やデータベース構成だけ変更が必要な時。
②大規模な書き換え(Rebuild)や全面的な再アーキテクチャ(Refactor)ほどの時間やコストをかけられない場合
例:短期間でのクラウド移行が求められるが、どうしても修正しなければならない問題点(セキュリティ、パフォーマンス)だけ対処したい時。
③クラウドの基本機能を部分的に活かして、段階的にモダナイゼーションを進めたい場合
例:とりあえずクラウド上で動くようにしてから、今後徐々に機能改善やクラウドネイティブ化を行いたい時。
上記のように、リバイズは「システム全体を一から作り直す余裕はないものの、特定の機能や構造だけは修正してクラウドに対応させたい」という状況で役立つ移行手法です。全面再構築より低コストかつ短期間で進められる一方、将来的な改修が必要になる点には注意しましょう。業務の緊急度や予算・スケジュールを考慮し、最適な手法を選択することが大切です。
(2)リビルド(Rebuild):システムをゼロからクラウド化
リビルド(Rebuild)とは、既存システムを全面的に作り直すことで、クラウド環境に最適化するアプローチです。アプリケーションのコードやアーキテクチャを大幅に変更・再構築し、最新の技術やクラウドネイティブ設計を取り入れます。
<リビルドのメリット>
①クラウドネイティブの利点を最大限に活用できる
スケーラビリティや可用性、開発の効率化など、最新のクラウド技術に合わせた設計が可能になります。
②技術的負債を一掃しやすい
古いコードや不十分な設計を捨て、最新のベストプラクティスでシステムを再構築できます。
③将来の拡張・変更への柔軟性が高い
新しい機能追加や仕様変更のたびに大きく手戻りするリスクが減り、進化しやすい基盤を用意できます。
<リビルドのデメリット>
①開発コストと時間が大きい
既存システムを全面的に作り直すため、大幅なリソース(人件費・期間)が必要になります。
②移行期間中のサービス停止・並行運用への対応が必要
作り直しの間、既存システムと新システムを同時に維持したり、移行計画を慎重に進めたりする必要があります。
③新アーキテクチャや最新技術への知見が不可欠
フルリビルド(既存システムを全面的に作り直すこと)には最新の開発手法やクラウド技術を熟知したエンジニアが必要になるため、人材確保が難しい場合があります。
<リビルドのメリットを享受しやすいユースケース>
①システムが老朽化し、手を加えるより新しく作り直したほうが効率的な場合
例:コードやライブラリが古く、セキュリティリスクやメンテナンス負荷が大きい時。
②将来的な拡張や変更を見据え、柔軟性を最大限高めたい場合
例:ビジネスの成長や機能追加のペースが速く、既存システムが追いつかない時。
③クラウドネイティブ技術(マイクロサービスやコンテナなど)をフルに活用したい場合
例:サーバーレスやコンテナオーケストレーション(Kubernetesなど)を前提とした設計に切り替えたい時。
上記のように、リビルドは「古いシステムを抱えているが今後はクラウドネイティブを最大限活かしたい」と考える場合に、有効なアプローチです。ただし、開発コストや時間が大きくなりがちなため、十分なリソースと計画的な移行戦略を用意することが重要になります。
(3)リプレイス(Replace):既存システムをすべてクラウド化
リプレイス(Replace)とは、既存のシステムやアプリケーションを廃止して、新たにクラウドサービス(特にSaaS)などへ置き換える手法です。自社開発のシステムを残さず、外部のサービスや製品を利用することで、運用負荷やコストを削減します。
<リプレイスのメリット>
①開発・運用コストの大幅削減
自社開発を継続するよりも、外部のSaaSに乗り換えたほうが安い場合が多くあります。
②導入スピードが速い
完成度の高いサービスや製品を利用するため、一から開発する手間を省くことができます。
③運用負荷が軽減される
アップデートや保守作業はサービス提供側に任せられるため、自社のエンジニアリングリソースを他の業務に割り当てることができます。
<リプレイスのデメリット>
①自社独自の要件を満たしづらい
外部サービスが汎用的な機能を提供するため、カスタマイズに制限がある傾向があります。
②サービス依存度が高まる
サービス提供企業の方針変更や価格改定、サービス停止など、自社でコントロールしにくいリスクがあります。
③データ移行や内部フローの変更が必要
新サービスの利用に合わせてデータ形式を変換したり、社内ルールを見直したりする負担が発生します。
<リプレイスのメリットを享受しやすいユースケース>
①自社でシステムを維持・開発するメリットが薄いと判断した場合
例:既存システムの運用コストが高騰しており、外部サービスに切り替えたほうが安価に済む時。
②業務プロセスが標準化されており、市販のSaaSやクラウドサービスで十分対応できる場合
例:会計ソフトや受発注管理など、既製サービスで多くの機能をまかなえる時。
③緊急度が高く、早急にクラウド活用を進めたい場合
例:老朽化したオンプレサーバーを速やかに停止し、既存サービスを利用することで短期間で移行したい時。
上記のように、リプレイスは、既存システムに固執せず、外部サービスを使ったほうが効率的・安価になると判断した場合に有効な方法です。ただし、企業独自の要件やサービス依存リスクなどを十分に検討し、データ移行や運用体制の見直しを含めた計画を立てることが重要です。
(4)リファクタ(Refactor):既存システムを向上させつつクラウド化
リファクタ(Refactor)とは、既存システムのコードや構造を部分的に修正・改善し、よりクラウド環境に適した形へと作り替える手法です。全体を大きく書き換えるわけではありませんが、クラウド特有のサービス(データベースやストレージなど)を活用するようコードを調整し、性能や保守性を高めます。
<リファクタのメリット>
①クラウドの特性を部分的に活かせる
一部を修正するだけで、クラウド上のサービス(マネージドDBやスケーリング機能)を利用でき、性能やコスト効率を向上させることができます。
②開発コストとリスクを抑えやすい
アプリ全体を作り直す(Rebuild)ほど大規模でなく、比較的短期間で導入できます。
③段階的なモダナイゼーションがしやすい
まずは特定箇所をリファクタし、その後に他の領域に広げるなど、移行を徐々に進めることができます。
<リファクタのデメリット>
①既存構造の制約を一部引きずる可能性
全面的な再設計ではないため、オンプレ時代の設計上の制約が部分的に残ることがあります。
②部分的な修正が複雑化を招く可能性
アプリの一部のみ変更すると、新旧コードが混在し、保守性が低下するリスクがあります。
③クラウドメリットを最大化できない場合がある
フルリビルドほどの大幅な最適化は行わないため、クラウドネイティブの利点(マイクロサービス化・サーバーレス化など)が限定的になる可能性があります。
<リファクタのメリットを享受しやすいユースケース>
①オンプレ前提のコードが多く、一部をクラウドに適合させたい場合
例:ファイルの読み書きをローカルストレージからクラウドストレージへ変更するなど、クラウド上での動作をスムーズにしたい時。
②クラウドサービスの利点をある程度活かしたいが、全面再構築までは行えない場合
例:サーバーレスやクラウドDBへの移行で、可用性やコスト最適化を部分的に取り入れたい時。
③アプリケーションの一部コードが老朽化しており、手を加えればパフォーマンス向上が見込める場合
例:負荷の高い処理をクラウドのスケーラブルな仕組みに置き換えるなど、改善効果が大きい領域だけ手を入れたい時
上記のように、リファクタは、「すべてを書き換えるのは無理だが、クラウド最適化をある程度進めたい」時に有効な方法です。大規模な再構築に比べるとリスクとコストを抑えつつ、クラウドの利点をある程度取り入れることができます。ただし、既存の構造上の制約や、部分的修正による保守性の複雑化などに注意しながら、どこを優先してリファクタするか計画的に進めることが重要です。
(5)リホスト/リフト&シフト(Rehost / Lift & Shift):既存システムをそのままクラウド化
リホスト(Rehost)は、リフト&シフト(Lift & Shift)とも呼ばれ、既存のシステムやアプリケーションを大きく構造を変えずに、そのままクラウド環境へ移行する手法です。サーバーやOSの設定などを最小限の変更でクラウド上に再現し、動かすイメージと考えるとわかりやすいでしょう。
<リホスト/リフト&シフトのメリット>
①移行コストと期間を最小限に抑えやすい
大掛かりな再設計やコード修正が不要なため、比較的短期間・低コストでクラウド移行できます。
②既存システムの信頼性を活かせる
現在稼働中のアプリケーションがそのまま使えるため、大きな機能変更によるリスクを減らすことができます。
③段階的なクラウド移行の第一ステップとして活用可能
まずはクラウド上に移行し、後から必要な部分を改善・改修してクラウドネイティブ化を進めることができます。
<リホスト/リフト&シフトのデメリット>
①クラウドのメリットを活かしきれないことがある
アプリケーション構造そのものはオンプレ前提のままのため、スケーラビリティやコスト最適化の面で十分な恩恵を得られない場合があります。
②既存の問題・制約をそのまま引きずる可能性
セキュリティやパフォーマンスに関するオンプレ時代の課題は、クラウド移行後も解消されないため、移行後の対応が必要になります。
③将来的な再設計が必要になる可能性
「まず移行」したあとで、機能追加やクラウド最適化を進める際に、結局コードの大規模見直しが発生する場合があります。
<リホスト/リフト&シフトのメリットを享受しやすいユースケース>
①短期間でクラウドに移行したい場合
例:オンプレサーバーの老朽化や契約更新の期限が迫っており、時間がないがとにかくクラウドに移行したい時。
②アプリケーションに手を加えるリソースが少ない場合
例:開発者が不足していて大幅な再設計やリファクタリングができず、まずは現行システムをそのまま活かしたい時。
③システム全体の動作を一度にクラウドへ持っていき、その後に段階的な最適化を検討したい場合
例:将来的にはクラウドネイティブ化を進めたいが、まずは現行資産を移して運用しながら考えたい時。
上記のように、リホスト/リフト&シフトは、「構造を変える余裕はないが、クラウドに早急に移したい」状況で有効な手法です。短期間・低リスクでクラウド移行することができる一方、クラウド本来の強みを十分に発揮する上では、将来的な最適化プランと合わせて検討することが重要です。
TD SYNNEXのSaaS化支援サービス「ISV Solution Factory」では、既存ソフトウェアにおけるオンプレミス環境のアセスメント・将来的な最適化プランの策定を含めたリフト&シフトの支援を提供しています。
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クラウド移行に必要な7つの手順

ここでは、クラウド移行を実現するための具体的な手順を解説します。
ステップ1:オンプレミス環境のアセスメント・費用算出
はじめに、既存のシステムやアプリケーションの利用状況、パフォーマンス、依存関係を把握し、クラウド移行に伴うリスクや課題を明確にします。
また、初期費用や運用費用を算出し、オンプレミスとクラウドのコスト構造を比較することで、移行計画に必要な予算を見積もります。
ステップ2:クラウドサービスの選定
次に、業務ニーズに最も適したクラウドサービスを選定します。IaaS・PaaS・SaaSのうち、どのモデルが自社の要件に合致しているかを評価しましょう。
また、主要なクラウドプロバイダーの特性やコスト、サービス内容の比較検討も行います。スケーラビリティやサポート体制など、長期的な運用において重要な要素も確認します。
IaaS / PaaS / SaaSの選択基準
<IaaSが選択されるシチュエーション>
- 自社で OSやミドルウェア、アプリケーション構成を自由に管理したい場合
- オンプレミス環境をクラウド上に再現したい、またはリフト&シフトで短期移行したい場合
- 高度なカスタマイズや 大規模なエンタープライズワークロードを扱う場合
<IaaSの選択基準>
- 運用スキルやリソースの有無(サーバー管理やネットワーク設計が必要)
- 柔軟性や自由度の高さを重視するか
- 自社のセキュリティポリシー(OSレベルの制御や専有環境などが必要か)
- コスト(必要なリソースをオンデマンドで割り当て、運用コストを最適化できるか)
<PaaSが選択されるシチュエーション>
- アプリケーション開発に注力し、OSやミドルウェアなどの管理を最小限に抑えたい場合
- 自社開発のアプリケーションを素早くデプロイしたいが、IaaSほどの自由度は不要な場合
- スケーリングやアップデート、インフラ保守を 自動化・簡略化したい場合
<PaaSの選択基準>
- 言語・フレームワークの対応状況(Java, Node.js, Python など)
- 拡張性(利用者が増えたときに自動スケールできるか、サービス上限はないか)
- 提供される開発ツールやサービス(CI/CDパイプライン、モニタリング機能など)
- ランニングコスト(従量課金型が多いため、長期的な負荷の増減を踏まえたコスト計算が必要)
<SaaSが選択されるシチュエーション>
- 完成されたソフトウェアをすぐに利用したい場合
- 独自開発が不要(あるいは最小限)で、業務システムを手軽に導入したい場合
- メールやCRM、会計など 標準化された機能を使いたい場合
<SaaSの選択基準>
- 業務要件との適合度(自社の業務に必要な機能が含まれているか)
- カスタマイズ性の限界(標準機能で足りるか、追加機能や連携機能が十分か)
- 利用者数やデータ量による料金体系(サブスクリプション費用や追加ユーザー料金など)
- セキュリティ・コンプライアンス(SaaS事業者の認証や規格準拠状況の確認)
各クラウドプロバイダーが選択されるシチュエーション
Azure(Microsoft Azure)
● 特徴
- Microsoft製品との親和性が高く、Windows ServerやSQL Serverとの連携に強み。
- Entra ID(旧Azure AD、認証基盤)など、Office 365やTeamsなどのエコシステムと統合しやすい。
● 選択されるシチュエーション
- 社内のWindows環境やActive Directoryとスムーズに連携したい場合
- .NETやC#ベースのアプリケーション開発が主流な企業
- Office 365やDynamics 365など Microsoft製品を既に導入していて、一貫性を保ちたい場合
Google Cloud
● 特徴
- データ解析や機械学習(BigQuery、Vertex AIなど)に強みがあり、先進的な技術も多い。
- Kubernetesの原作者(Google)の提供するサービスで、コンテナ関連のサポートが充実。
● 選択されるシチュエーション
- ビッグデータ処理やAI/MLなど、大規模なデータ分析をクラウドで行いたい場合
- コンテナ・マイクロサービスを活用し、クラウドネイティブ開発を最優先したい場合
- Google Workspace(旧G Suite)との連携など、Google製品との相性を重視する場合
AWS(Amazon Web Services)
● 特徴
- サービス数が豊富で、市場シェアが大きい。ドキュメントや事例も豊富。
- グローバルなデータセンター網を持ち、大規模スケーリングが必要な企業に支持される。
● 選択されるシチュエーション
- 幅広いサービスラインナップを活かした多様なワークロードを抱えている場合
- 事例の多さ・コミュニティの充実度を重視したい場合
- ベストプラクティスやガイドが多数ある環境で安心して開発・運用したい場合
なお、TD SYNNEXでは、Azure、Google Cloud、AWS いずれもご提案が可能です。クラウドの導入をご検討されている際はお気軽にお問い合わせくださいませ。
「どのクラウドが自社に適切か?」とお悩みの場合は、こちらよりお問い合わせいただけましたら、貴社状況をお伺いの上、最適なクラウドサービスをご提案いたします。
ステップ3:システム設計とセキュリティ対策
現行システムの構造や移行の目的、リソースに応じて、どのような移行手法を用いるか決定します。次の表を参考に、最適な手法を選びましょう。
移行手法 | 主なメリット | 主なデメリット |
リバイズ (Revise) | 移行コストが低く、移行後もシステム構成に慣れているため運用が簡単。 | 既存のシステム制約や技術的負債をそのまま引き継ぐ可能性がある。 |
リビルド (Rebuild) | パフォーマンスやスケーラビリティが向上し、クラウド特有のメリットを最大限活用可能。 | 開発コストと時間が大きく、新しいシステムへの適応が必要。 |
リプレイス (Replace) | 開発工数を大幅に削減でき、運用管理の負担が軽減される。 | 業務フローが標準化され、カスタマイズの自由度が低下する。 |
リファクタ(Refactor) | パフォーマンスや運用効率が向上し、クラウド特有の機能を効果的に活用可能。 | 開発工数が多く、技術的なスキルが必要。 |
リホスト(Rehost / Lift & Shift) | 移行が迅速で比較的低コスト。既存のシステムをそのまま利用できるため、移行後の学習コストが少ない。 | クラウド環境を活かしきれず、パフォーマンスやコスト効率が最適化されない可能性がある。 |
次に、選択した手法に基づき、クラウド環境に最適化されたシステムアーキテクチャとセキュリティ対策を設計します。
ステップ4:データとアプリケーションの移行
システム設計が整ったら、既存のデータやアプリケーションをクラウド環境へと段階的に移行します。
レガシーシステムを移行する場合、互換性やパフォーマンスに問題が生じる可能性があるため、事前に移行計画を十分に検討することが重要です。
ステップ5:移行後のテストと検証
移行が完了した後は、クラウド環境でのシステム動作を徹底的にテストし、問題点を洗い出します。アプリケーションの機能や性能が期待通りに動作しているか、またデータの整合性が保たれているかを確認しましょう。
ステップ6:最終移行と最適化
テストでの課題を解決した後、最終移行を実施します。この段階では、クラウド環境のパフォーマンスを最大化するために、システム全体の最適化を行います。
具体的には、リソースの使用状況をモニタリングし、必要に応じてスケーリングやキャパシティプランニングを実施しましょう。
ステップ7:保守と運用
移行後は、システムが計画通りに稼働しているかを継続的に監視し、必要に応じて調整を行うことで、サービスの可用性とパフォーマンスを維持します。ベンダーが提供する監視ツールやダッシュボードを活用し、リソースの使用状況や潜在的な問題をリアルタイムで把握するようにしましょう。
クラウド移行を成功させるコツ

以下からは、クラウド移行を成功させるために注意すべき3つのポイントを解説します。
クラウド移行の目的を明確にする
具体的な移行方法を検討する前に、方向性を明確にし、進捗状況を把握できるようにするため、クラウド移行の目的を明確にすることが重要です。
以下の表を参考に、自社のニーズがクラウド環境に適しているかを確認しましょう。
項目 | クラウドが向いている企業 | オンプレミスが向いている企業 |
予算 | 初期予算が限られている・利用量に応じたコストを重視する | 初期コストと運用コストの最適化よりも独自性や制御性を重視する |
柔軟性 | 事業拡大や変動に対応したい | 固定された業務や安定した運用が求められる |
運用リソース | ITスタッフが少なく、運用を外部に任せたい | IT部門が充実し、自社管理を希望する |
コスト管理 | 初期費用を抑え、変動費で管理したい | 一度の大規模投資が可能である |
セキュリティ | 一般的なクラウドのセキュリティで十分である | 独自の高度なセキュリティ対策が必要である |
災害対策 | 災害時も遠隔で業務を継続したい | データ管理を全て社内で完結させたい |
自社の環境・目的に合ったサービスを選ぶ
自社の環境や目的を把握したら、これらを十分に満たすサービスかどうかを検討しましょう。
このとき、今後のビジネス展開も見据えた長期的な視点をもつことが重要です。
拡張性と柔軟性を確認する
クラウド選定時には拡張性と柔軟性があるかを確認することが重要です。クラウドサービスのスケーラビリティは、ビジネス環境への適合性やコスト最適化にも寄与する要素となります。
また、既存システムとの互換性など、移行フェーズにおける適合性についても確認しましょう。
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まとめ
オンプレミスからクラウドへの移行は、業務効率化やコスト削減、柔軟な働き方の実現に大きく寄与します。
この記事では、移行の具体的手順や5つの移行手法(リバイズ、リビルド、リプレイス、リファクタ、リホスト/リフト&シフト)を解説しました。それぞれの特徴やメリット・デメリットを理解し、自社のニーズに合った方法を選ぶことが成功の鍵です。
移行計画を慎重に立て、移行後の運用や最適化まで見据えた取り組みを行うことで、クラウドの利点を最大限に活用できます。この記事を参考に、自社のIT環境を見直し、より効率的で競争力のある体制を構築しましょう。