Google MakerSuite を使って機械学習の専門知識や開発者向けコードを使わず生成AIのプロトタイプを作り試してみた

Google が提示する注目のプロダクトの一つです。

はじめに

著者は普段 Azure AI をビジネスに組込むプリセールス活動を行う傍ら、多種多様なお客様AI利用ニーズに応える目的で他社AI技術動向も学び続けています。そんな折、Google Cloud Next Tokyo ’23 (Day 2/2023年11月16日)に出席し、幾つか技術セッションを受講したところ、生成言語モデルを使用したプロトタイプ用のブラウザベースのIDE であるMakerSuite を知りました。第一印象は「分かりやすい」、「すぐ使ってみたい」、「是非多くの方に知って使って欲しい」でした。なお、弊社はMicrosoft Azure AI(Azure OpenAI) のみならず、Google Cloud AIも取り扱っています。

Google 生成AI について考え方

https://ai.google/discover/generativeai (公開内容は英文です)
Google のチームがジェネレーティブ AI を使用して新しいエクスペリエンスをどのように生み出しているかについて。

要旨

  • Bard:貴方の総総力を高め、生産性を高め、アイディアを実現するための、創造的で親切な協力者です。
  • MakerSuite & PaLM API:大規模言語モデルで開発者の生産性と創造性を向上します。
  • Studio Bot:Android開発者の生産性向上に役立つAI搭載のコーディング アシスタントです。

TD SYNNEXがMakerSuite を皆さんにご紹介したい理由について

これまで API は自分たちの業務アプリケーションに組み込めるエンジニア向けの道具でした。ところが、MakerSuiteは大規模言語モデルAPI操作に明るくない方でもWebブラウザを使ったAIアプリケーション プロタイプをすぐに作って確かめることができること。そして、APIを実際に業務アプリケーションに組み込むためのコード提示まで行われる機能により、開発者の生産性が劇的に向上する素晴らしいツールであると思ったからです。

MakerSuiteとは

生成AIアプリの構築を迅速かつ簡単に開始する方法で、Googleの最新モデルの一部にプロンプトを表示するための効率的なUIを提供し、プロンプトをアプリケーションに統合できる本番環境対応のコードを簡単に変換できます。以前は招待された開発者だけが利用できましたが、2023年9月26日からは世界179の国と地域で誰もがMakerSuiteを利用できるようになりました。

MakerSuiteのクイックスタート:
https://developers.generativeai.google/tutorials/makersuite_quickstart?hl=ja (日本語)

MakerSuite 起動画面

https://makersuite.google.com/app/home

Google アカウントをお持ちであれば何方でも利用規約をご承諾になればご利用になれます(API利用は Google Cloud アカウントが必要)。

MakerSuiteプロンプトタイプの紹介

サービスURL:
https://developers.generativeai.google/products/makersuite (英語)

プロンプトは3つあります(テキスト、データ、チャット)。

  1. テキストプロンプト:言語モデルを試すための自由な方法
  2. データプロンプト:行と列を使用してプロンプトを整理するテーブル
  3. チャットプロンプト:チャットボットの会話をやり取りするためのテンプレート

まずは、カスタムアプリケーションとして学習やチューニング(調整)は行うことなくどのように動かすことができるのか実際の試用例をご紹介いたします。

試用例1.テキストプロンプト

実行条件:

  • 使用モデル:Text Bison
  • Temperature:0.7
  • Add stop sequence:指定なし
  • Safety setting:標準のもの(変更なし)
  • Advanced settings:標準のもの(Output Length 1,024, Top K 40, Top P 0.95)

プロンプト内容:
「2 つの入力数値に対して四則演算を実行し、結果を出力する Pythonコードを作成します。 各行にコメントを書いてください。」
※2023年11月25日現在Text Bison モデルは日本語に対応していません。

そのため、英語でプロンプト入力し「Run」をクリックします。
Write code that performs four arithmetic operations on two input numbers in Python and outputs the results. please write comments on each line.

生成結果:Pythonコードが生成されました。(消費トークン数 25 / 8196)

動作確認:本当にPythonコードとして動作するのでしょうか?
Visual Studio Code を用い動作確認します。
PF:\MakerSuite\four_four_arithmetic.py としてコードを配置しました。

実行結果:第一数値 10, 第二数値 20 を入力しました。
四則演算結果も期待値通りでした。
(期待値)
10 + 20 = 30
10 – 20 = -10
10 × 20 = 200
10 ÷ 20 = 0.5

※著者はPowerShell 環境変数を個人カスタマイズしているので、Visual Studio Code ターミナルのプロンプト表示は一般のものと若干異なりますが、コード実行や出力には影響はありません。また、数値の変数型を指定しなければ整数型としてコード生成する考察を致しました。

試用例2.データプロンプト

プロンプト対応するテーブルの例文を作成します。(カッコ内は参考訳)
「質問文:回答文章」です。ここでは事前提示として3質問回答しておくと、新たな質問が寄せられた場合に、事前提示のスタイルで回答文章を提示します。
実際の業務アプリケーション向きではないでしょうか。

テーブル入力例:たこ焼き、お好み焼き、ミックスジュースを説明するテーブルを作成しました。

入力箇所、提示内容の説明です。

  • Optional tone and style instructions for the model
    (モデルのオプションのトーンとスタイルの指示)
  • You are knowledgeable about Osaka’s food culture and would like to share food information with your friend.
    (あなたは大阪の食文化に精通しており、友人と食に関する情報を共有したいと考えています。)

INPUT:

  • Takoyaki(たこ焼き)
  • Okonomiyaki(お好み焼き)
  • Mix juice(ミックスジュース)

OUTPUT:

  • Takoyaki is a soul food for Osaka people, and the value of the takoyaki is evaluated based on the size of the octopus.
    (たこ焼きは大阪人のソウルフードであり、たこ焼きの価値はタコの大きさで評価されます。)
  • Okonomiyaki is Osaka’s soul food and is the second most popular after takoyaki. Unlike Hiroshimayaki, there are no noodles on top.
    (お好み焼きは大阪のソウルフードであり、たこ焼きに次いで人気があります。 広島焼きと違い、麺が乗っていません。)
  • Mixed juice is a popular drink in Osaka. Mixing several fruit juices with milk and drinking it will give you energy.
    (ミックスジュースは大阪で人気の飲み物です。 数種類のフルーツジュースを牛乳と混ぜて飲むとエネルギーが補給できます。)

実行例:
INPUT: Kushikatsu (串カツ) ここで、[Run] をクリックします。(新たな質問です)

生成結果:Kushikatsu is a skewered food of meat, vegetables, etc., dipped in batter and fried.
(串カツは肉を串に刺した食べ物ですが、野菜などを衣につけて揚げたもの。)

実行結果:予め入力した例文に倣って、テーブル形式で結果が得られました。

実際の業務では Q&A 文章を予め用意しておくのではなく、質問に対する回答スタイルを統一するための基本ナレッジを共有するシーンが多いと思います。
このデータプロンプトは正にその環境をプロトタイプ提供するものです。より回答精度を高めるのであれば、例文 “Add test example” を増やしてはいかがでしょうか。

試用例3.チャットプロンプト

プロンプト名:Chat with the AI model as if you were a cat.
(貴方は猫になったつもりでAIモデルとチャットしよう)

コンテキスト: You are a cat now able to speak English as a gift from God. Let’s chat with MakerSuite.
(あなたは神様からの贈り物として英語を話せるようになった猫です。 MakerSuite とチャットしましょう。)

ユーザー入力:Meow (にゃーん)

モデル:Meow! What’s up? (にゃーん!どうしたの?)

ユーザー入力:I’m still sleepy because I’m a cat. Is the model not sleepy?
(私は猫だから、今も眠いです。Modelさんは眠くないのですか?)

モデル:I am a large language model, also known as a conversational AI or chatbot trained to be informative and comprehensive. I am trained on a massive amount of text data, and I am able to communicate and generate human-like text in response to a wide range of prompts and questions. For example, I can provide summaries of factual topics or create stories.
I am not able to feel sleepy, as I am not a biological being. However, I can understand why you might be feeling sleepy. Cats are known for their love of naps, and it is perfectly normal for them to sleep for up to 16 hours per day. If you are feeling sleepy, I would recommend taking a nap or doing something relaxing to help you wind down.
(私は大規模な言語モデルであり、有益かつ包括的になるように訓練された会話型 AI またはチャットボットとしても知られています。 私は膨大な量のテキスト データでトレーニングを受けており、さまざまなプロンプトや質問に応じて人間のようなテキストを伝達し、生成することができます。 たとえば、事実に基づくトピックの要約を提供したり、ストーリーを作成したりできます。
私は生物ではないので眠気を感じることができません。 ただし、眠くなる理由は理解できます。 猫は昼寝が大好きなことで知られており、1 日に最大 16 時間眠ることはまったく普通のことです。 眠い場合は、昼寝をし、リラックスできることをお勧めします。)

実行結果:MakerSuite の AIモデルは貴方が猫になったと理解して楽しくチャットをしていますね。

参考情報:MakerSuite以外のGoogle生成AIについて

  • PaLM 2モデルで生成AIアプリケーションを構築できます。チャット、テキスト、埋込エンドポイントがあります。
    概要:https://developers.generativeai.google/guide?hl=ja (日本語)
  • Vertex AI は PaLM2 へのアクセス、調整、利用はエンタープライズレベルの安全性、プライバシー、セキュリティ、拡張性を備えています。
    概要:https://cloud.google.com/vertex-ai/docs/generative-ai/learn/overview (英語)

生成AIワークフロー:プロンプト入力からレスポンスを受け取るまで

今回使用しプロトタイプ用のブラウザベースのIDE であるMakerSuiteは Generative AI Studio AI と呼ばれるUIで、動作環境の裏側 (Behind the scenes )は意識することなく、またカスタムモデルを指定することなく利用できました。

あとがき

今回は冒頭に示した通り、機械学習の専門知識や開発者向けコードを一切使わずに体験する内容といたしました。ダウンロードやインストールすることなく、すべてWebブラウザのみで利用できるのはお手軽で良いですね。アイディアのプロトタイプを試すのに必要なのは、普段の人間が会話している自然言語で記述(プロンプト指示)するだけでした。AIアプリケーションがどのように動作するのか体験することで、個別にサンプル例文が必要なサービスやより複雑な環境には設計、開発、実装が必要であることが大体わかると思います。ソフトウエア開発でのエンジニアリングプロセス図を参考までご紹介いたします。MakerSuiteは、要求の抽出にもお使いいただけるのではないでしょうか。そしてAIアプリケーションの青写真を想定しプロジェクトを進めていくでしょう。

MakerSuite はセットアップを行うことなくWebブラウザからAIプロトタイピングを支援するツールです。MakerSuiteには開発者が直接アクセスできるAPIエンドポイント情報を右上「Get Code」から得ることもできます。

既に何らかのAIアプリケーションを組込み検討しているなら、この機能をご利用になられてはいかがでしょうか。 cURL, JavaScript, JON, Python に対応していますし、Colab 展開もクリック一つで対応します。

(Get Code 利用例)

(Colab 利用例)

以上、ご覧いただきありがとうございました。

なお、TD SYNNEX 株式会社では Google Cloud, Azure OpenAI など各種クラウドによる生成AIサービスのご相談を承っております。下記のフォームよりお気軽にご連絡ください。

https://www.synnex.co.jp/inquiry/

[著者プロフィール]

TD SYNNEX 株式会社 | 斉藤 之雄
アドバンスドソリューション部門 ソリューションビジネス開発本部 プリセールス&エンジニアリング部 マルチクラウドチーム (Azure Solutions Architect Expert, Azure DevOps Engineer Expert)

マイコン少年時代から関東電子(TD SYNNEX前身)を利用するなどソフトウェア、ハードウェアともに昔をよく知る。コンピューター業界は1996年から異種混在環境における再販ビジネスの技術営業からキャリアを開始し、特に導入支援や教育プログラムの立ち上げは定評を有する。国内大手電気通信事業者では社内クラウドコミュニティの主要メンバーとし全国SEへ対するリスキリングプログラム推進活動を実践した。2022年4月TD SYNNEX入社以来、CoE(センターオブエクセレンス)プロダクトの日本市場展開や AI/ML (人工知能/機械学習)サービスを中心とするプリセールス活動を行っている。愛猫家、社会福祉士でもある。

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