宮城教育大学は、宮城県をはじめとする東北地域における唯一の国立教員養成単科大学として、持続的な発展を目指している。
そうした中で存在感を高めているのが、ICT教育の中核拠点としての役割だ。現在、全国の学校教育にてGIGAスクール構想など「令和の日本型学校教育」が進められており、同学は少子化など社会の変化を捉えつつ、この動きに対応した新たな教育活動を展開。高いITリテラシーを備えた教員を東北地方、さらには全国の小・中学校に送り出している。
そんな同学のキャンパスネットワークを含む情報インフラの導入および運用管理を担っているのが、学術情報課 情報教育推進係である。近年はオンプレミス環境からクラウドへの移行にも取り組み、2021年頃から Microsoft 365 の利用促進を進めてきた。
同係 係長の庄子 裕氏は、この動きを次のように説明する。
「教育分野全体でクラウド活用の機運が高まっていることから、大学の事務業務もDX化を進めなくてはなりません。2021年頃から始まった Microsoft365 の利用促進もその施策の一環です。Office アプリのみならず、ファイルサーバーの Microsoft SharePoint(以下、SharePoint)への移行や、Microsoft Teams(以下、Teams)を活用したリモートでのコミュニケーションの活性化など、職員をオンプレ環境から解放すべく、Microsoft 365 を活用することで、情報インフラの運用コスト低減およびセキュリティの担保を図っています」
そして職員の働き方改革や業務効率化を進め、一人ひとりの生産性をさらに向上していくため、同学は生成AIの活用に踏み出した。
生成AIについては、全国の他大学も導入に向けた動きが広がっており、「宮城教育大学としても乗り遅れるわけにはいかない」という危機感もあった。そうした中、数ある生成AIのツールの中から注目したのが Copilot である。
「前述したとおり、本学では大学事務の情報インフラとしてすでに Microsoft 365 を導入しており、そのライセンスを有効活用できる観点から、Copilot が最有力候補となります。そもそも職員が日常業務で最も利用しているのが Office であり、一連のアプリとの親和性からも Copilot が有利だと判断しました」(庄子氏)
さらに同学 学術情報課 情報教育推進係の大宮 有貴氏が、このように続ける。
「Copilot については Bing Chat として、Webブラウザ(Microsoft Edge)上で利用可能な頃から興味があり、個人的に少しずつ使ってきました。そんな経験からも Copilot を本学全体の業務効率化に役立てたいという思いを持っていました」
とはいえ、Copilot をいきなり全学に展開するわけにはいかない。各機能の有効性をしっかり検証したうえでなければ、導入の可否の判断は不可能だ。そこで同学は2024年6月、まずは学術情報課内のみで Copilot を先行試用することにした。
そして、この取り組みを共に進めていくパートナーとして選定したのが、宮城県仙台市に本社を構えるITソリューションベンダーのSJCである。
SJCソリューション事業部 第四ソリューション部課長補佐の山司 一氏は、「その時期はタイミングが良く、TD SYNNEXがグローバルで Microsoft 365 の既存ユーザーに対する Copilot の検証を支援するため、お試し用のライセンスを無償で貸与するという施策を展開していました。TD SYNNEXとタッグを組み、Microsoft365 を活用できる Copilot の導入サポートを、宮城教育大学様に提案することができました」と語る。
そしてパートナー選定における決め手となったのが、セキュリティ担保に関するSJCの豊富な経験と技術力である。
「Copilot を SharePoint と紐づけて利用することを想定する以上、情報漏えい防止の条件を満たしたセキュアな環境を構築しなければなりません。そこで必要となる各種設定などについて、的確なアドバイスや支援を実施してほしいという私たちの思いに、SJCはしっかり応えてくれました」(庄子氏)
上記のような経緯を通じて、SJCおよびその後方に控えるTD SYNNEXと共に Copilot の試用を開始した宮城教育大学は、大きな手応えを掴むことができた。
「Copilot のユーザーインターフェースに関しては他の生成AIツールと大きく異なる点はありませんが、Word や PowerPoint など Microsoft 365 の各アプリに組み込まれ、直接操作できる点は、非常に使い勝手が良いと感じています」(大宮氏)
なかでも絶大な効果を実感したのが、議事録作成の工数削減である。
「学術情報課内ではWeb会議を活用し、毎週3回程度、1回あたり90~120分の会議や打合せを行っていますが、従来その議事録作成に大変な手間をかけていました。会議内容を所定のフォーマットにまとめるまでに、担当者がほぼ半日を費やしてしていたのが実情です。しかし、Teams に組み込まれた Copilot を会議と同時に起動することで、この一連の作業が自動化されるようになりました。肌感覚ではありますが、議事録作成に費やす工数は、少なくとも70~80%は削減されたと感じています。また削減より生まれた時間を別の校務に充てるなど、付加価値の高い業務にリソースを割り当てられるようになりました」(大宮氏)
このように Copilot の試用を通じて様々な成果を生み出している情報教育推進係であるが、階層的な意思決定プロセスを有する大学組織の中で予算承認を得るうえでは、役員など上層部に対して生成AIの価値を見出してもらえるよう「自分事化」させることが何より重要となる。そこで、情報推進係を中心に様々な用途で生成AI活用を検証して事例集を作成し、その中で特に価値を訴求しやすい「議事録作成の効率向上」を上層部にプレゼンすることで正式な予算承認につなげた。
「議事録作成における劇的な工数削減効果は、予算要求に際して大学上層部に報告しており、上層部からも期待されております。一方で、2026年度以降に全学への Copilot 展開を目指していることから、2025年度こそが Copilot 試用の本番だと考えています。どこまでの実績を示せるかどうかが全学展開の命運を左右する重要な1年といっても過言ではないでしょう」と庄子氏は改めて意を示す。
また、生成AI活用の文脈ではよくセキュリティや情報漏えいに対する懸念が話題に挙げられるが、情報教育推進係では、Copilot 利用に際しては多要素認証を導入することでセキュリティを強化し、効果的な検証を進めているとのこと。
「試用過程にある現時点では職員全員に Copilot ライセンスを付与できないことから、先導的な役割が期待される各課・室のICTリーダーを主な対象としたノートPCを準備し、SJCのサポートを受けながら安全かつ柔軟に Copilot を活用できる環境づくり進めています」(庄子氏)
さらに、現状では議事録作成を中心に Copilot を活用しているが、今後は幅広い業務での利用推進を目指しているという。
「Copilot により、例えばメール文章の生成や添削をしたり、Copilot のチャット機能を利用して業務内容の質問や改善点を相談したり、若手職員でもすぐに企画書を作成できるようテンプレートを生成したりと、様々な場面で業務効率の改善が期待できます。また、これまでは多様な活用方法を探索することに焦点を当てて取り組んできましたが、今後は定量的な効果測定をしっかり行うことも重要な課題となります」(大宮氏)
加えて、今後の学内での Copilot 本格展開に向けて、現在、SJCやTD SYNNEXの支援のもと、職員向けの Copilot 活用の研修会を実施している。
「検証だけでなく Copilot に関する具体的な操作方法や効率的な利用についての研修会も開催しています。普段の研修会では限られたメンバーしか参加していませんでしたが、Copilot をテーマにした途端、全職員の約80%が参加希望を出すなど、多くの職員が生成AIに期待していることが分かりました。今後も研修会を通して、各部署や職員のスキルに応じて実践的な活用事例を共有していきたいと考えています」(庄子氏)
生成AIの導入効果を最大化するためには、具体的な活用シーンや目的を明確にすることが不可欠であり、それらは部署や業務環境によって大きく異なる。各担当者が生成AIに対してどのような価値を見出すかという“気づき”のプロセスこそが重要と言える。そのためにも生成AIの使い方が分からないことを理由に活用が停滞することのないよう、今後も継続的な研修の実施と環境整備に今後も取り組んでいくとしている。