GIGAスクール構想とは?目的や取り組み内容、メリットと課題まで解説

GIGAスクール構想とは、文部科学省が推進するICT教育に関する取り組みのことです。

2019年に初めて提言され、推進されてきた施策であり、全ての児童・生徒が最新の情報通信技術(ICT)を活用するための学習環境を整備することを目指す内容となっています。

しかし現状では、設備不足や教員のICTに関するスキル不足など、課題も多く残されています。 この記事では、GIGAスクール構想とは何か、という基本的な内容から、GIGAスクール構想の現状や課題などについて解説していきます。

GIGAスクール構想とは?

GIGAスクール構想とは、「児童生徒向けの一人一台端末と、高速かつ大容量のネットワークを整備する」ことで、「多様な子どもたちを誰一人取り残すことのなく、公正に個別最適化された創造性を育む教育を、全国の学校現場で持続的に実現させる」取り組みです。※

GIGAとは「Global and Innovation Gateway for All」の略で、「全ての児童や生徒にグローバルで革新的な扉を」という意味です。GIGAスクール構想は、GIGAを実現するための具体的な取り組み内容を示したものとなります。

GIGAスクール構想は、文部科学省が中心となって推進されています。GIGAスクール構想によって、教育機関におけるICTを活用した学習を充実させ、深い学びを得ることを目指すものとなっています。

※参照:文部科学省「GIGAスクール構想の実現について

GIGAスクール構想の目的

GIGAスクール構想の目的は、現代の情報化社会に合わせた学習環境を整備し、児童ごとに最適化された教育を提供することです。

昨今ではパソコンやタブレットなどのデジタルデバイスが普及し、ビジネスの場だけでなく、日々の生活においてもITやICTの知識が欠かせません。このような時代の変化に合わせて、ICTの教育環境を整え、ICTを活用していけるようにすることが、GIGAスクール構想の目的です。

GIGAスクール構想が始まった背景

GIGAスクール構想が始まった背景として、日本のICT教育が世界と比較して遅れていたことがあげられます。

GIGAスクール構想が発案された2019年ごろ、日本の学校をはじめとした教育機関におけるICT利活用は世界から大きく後れをとっていました。また、地域間でICT環境の整備状況の格差が大きいことも問題視されていました。

この危機的状況を脱するため、文部科学省は教育機関のICT環境を整備し、ICTを活用した教育を推進していくGIGAスクール構想を策定したのです。

「児童生徒に一人一台の端末」が重要な理由

GIGAスクール構想では、「一人一台の端末」の環境を整えることを重要視しています。

「一人一台の端末」が配備されることで、生徒個人の考えを共有したり、各生徒の反応をみながら進める双方向型の授業が可能となります。また、生徒の学習の進捗状況に合わせた個別学習の実現など、児童ごとに最適化された学習環境を提供することもできるようになります。

さらに、児童が一人一台端末を利用することによって、教員による学習評価の効率化など、教員側の業務負荷の軽減につながることも期待されています。

GIGAスクール構想の具体的な取り組み

GIGAスクール構想では、「一人一台端末の整備」「高速大容量通信ネットワークの整備」「教員のICT活用指導力向上」という3つの取り組みについて指針を設けています。それぞれの具体的な実施内容について説明していきます。

一人一台端末の整備

一人一台端末の整備に向け、文部科学省では国公私立の小学校、中学校、特別支援学校等において、児童生徒が使用するICT端末の配備の際の補助を行いました。

その結果、文部科学省が令和5年に発表した「義務教育段階における一人一台端末の整備状況(令和4年度末時点)」によると、全自治体のうち、99.9%の自治体において一人一台端末の整備が完了しており、残りの0.1%の自治体においても、令和5年度内には整備を完了させる方針となっています。

高速大容量通信ネットワークの整備

GIGAスクール構想の実現のためには、高速かつ大容量のネットワーク整備も不可欠です。文部科学省は、端末と同様に、高速大容量通信ネットワークの導入においても補助を行いました。

令和5年に文部科学省が発表した「校内通信ネットワーク環境整備等に関する調査結果」によると、校内ネットワークの併用を開始した学校の割合は令和4年9月時点で99.9%となっています。また、通信最大速度(理論値)においても直接接続、集約接続、モバイル回線のいずれにおいても100Mbps以上の自治体が8割を超えており、高速大容量通信ネットワークの整備は急速に進められたことが伺えます。

教員のICT活用指導力向上への取り組み

GIGAスクール構想では、教員のICTを活用した指導力向上に関する取り組みも進められています。

ICTを効果的に活用した授業を行うためには、児童に対して端末の操作方法や、各種ツールの活用方法を適切に指導し、児童がICTを使いこなせるように導く力が必要となります。しかし、教員はICTの専門家ではないため、十分な知識やスキルがない場合も多々あります。

このような現状に対し、GIGAスクール構想では、教員への指導・サポート体制として、「ICT活用教育アドバイザー」「GIGAスクールサポーター」「ICT支援員」などの体制を整え、教員のICT活用指導力向上を図るための施策を実施しています。

GIGAスクール構想で期待されるメリット

GIGAスクール構想を実現することによって、児童・先生の双方にメリットがあります。GIGAスクール構想で期待されるメリットについて説明していきます。

GIGAスクール構想で期待されるメリット

児童・生徒のメリット

GIGAスクール構想における児童・生徒側のメリットは、個人に最適化された環境で学習を進めることができる点にあります。

これまで、学校の授業や学習形態といえば、先生が数十名のクラスに対して同じ内容の授業を行う形が中心でした。このような一斉学習の形態では、児童の発言の機会なども少なく、生徒が主体的に授業に参加しにくいという問題点がありました。

GIGAスクール構想では、生徒が一人一台の端末を使って学習を進めることができるため、個人の表現やアイディアを全員に共有したり、自主的に不明点を調べることなどが可能となります。これによって、生徒個人が主体的に授業に参加し、能力を伸ばしながら学習を進めることができるようになります。

先生側のメリット

先生の日々の業務を効率化し、負担を軽減できることも、GIGAスクール構想のメリットであるといえます。

生徒が個々の端末を使用して学習することで、先生は生徒の習熟度に合った授業がしやすくなります。さらに、先生同士で生徒の学習状況のデータを共有したり、授業の取り組みについてコミュニケーションが取りやすくなり、情報共有にかかる時間を削減することができます。

このように、GIGAスクール構想によって、教員の業務を効率化できることで、先生は授業の進行や生徒のフォローに集中することができるようになります。

GIGAスクール構想における課題

GIGAスクール構想は、コロナ禍におけるICT環境整備の必要性などもあり、当初の計画よりも前倒しで進められてきました。その結果、一人一台の端末配備やネットワークの整備などは順調に進みましたが、課題点も残されています。

GIGAスクール構想の課題について、以下に説明していきます。

学校内ネットワークの通信速度

学校内ネットワークについては、高速大容量の通信ネットワーク環境が整備されている学校が大多数を占めるため、理論値上は通信速度に問題はないかのように見受けられます。しかし、実態としては、全校生徒が一斉に端末を使用する際にネットワークがつながりにくくなる、授業開始時のログインに時間がかかる、などの不具合が一定の割合で発生しています。

文部科学省では、この問題を解消するために、各自治体でネットワーク環境のアセスメントを実施することを推奨しています。

自治体・学校ごとに異なったソフトウェアの使用

自治体・学校ごとに異なったソフトウェアが使用されていることも、GIGAスクール構想の問題点のひとつです。GIGAスクール構想で採用されている端末のOSはWindows、ChromeOS、iPadOSの3種類があります。また、授業支援や学習用のツールにおいては、自治体や教育機関ごとに異なったソフトウェアが導入されているのが現状です。

使用されているソフトウェアが異なると、転校や卒業などによって他のソフトウェア環境の学校に変わると、これまでの学習結果を引き継ぐことができない、といった問題が起こります。

ソフトウェアが異なることで、生徒だけでなく先生側にも問題が発生します。例えば、ソフトウェア環境が異なる学校に転勤した際に、これまで身につけた端末操作のスキルを一から身につけ直さなければならなくなります。他にも、以前の環境で授業のために作成した独自教材が使えない、ということも起こりえます。

教員のICT指導力

教員のICT指導力も課題のひとつです。現在の学校の教員は、個人によってICTの知識やスキルに差があるのが実態です。

教員のICTに関するスキルが乏しいと、授業にICTの活用を適切に取り入れることができないという問題が起こります。また、生徒たちもICTに関する正しい知識や使い方を教わることができず、効果的な授業ができません。

教員のICT指導力を向上させるために、教員向けの研修などを定期的に実施し、最新のICTに関する知識を習得する場を設けるなどの対策が急務となっています。

ICT機器の持ち帰り

学校に整備されたICT機器は、セキュリティなどの観点から校内で管理することが基本となります。そのため、ICT機器は校内の学習のみでしか利用できないようにしている学校も少なくありません。

持ち帰りを認めている学校では、紛失や盗難、機密情報の漏洩などを防ぐために保護者も含めた管理が必要となります。端末利用や管理のルールを策定し、意識する必要があるため、教員だけでなく家庭での負担が増えてしまうことも課題となっています。

GIGAスクール構想における実践事例

GIGAスクール構想のもと、各自治体や学校ごとにさまざまな取り組みがされています。ここでは、GIGAスクール構想の実践において、工夫や特色のある自治体の事例を紹介していきます。

茨城県つくば市

茨城県つくば市 では、独自のICT環境づくりや教育プログラムの開発を行っています。
環境づくりにおいては、ネットワークや一人一台端末の整備のほか、クラウド環境を構築することで、クラウド上のアプリの活用や、教育データの共有を行えるようにしています。また、ICT教育プログラム「つくば7C学習」を開発し、協働力や想像力、プログラミング的思考などを伸ばすための取り組みも推進しています。
また、登校したら端末にログインし、授業開始時間にはスタディノートが自動起動するなど、ICTを日々の生活に取り入れた「新しい生活様式」も具体的に示されています。このように、ICTを効果的に取り入れる指針が学校生活全体を通して示されているのがつくば市の特色です。

新潟県新潟市

新潟県新潟市 では、GIGAスクール構想の発表翌年の2020年以降、大学教授をはじめ多くの専門家を招いて、教師向けのICT教育に関する研修を実施してきました。2021年からは、GIGAスクール運営支援センターを立ち上げ、教育現場がテクニカルな部分を中心にICTの専門家に支援を求めることで、先生に過剰な負担をかけずに実践をスムーズに進めるための体制を整えています。
このような支援体制を整えた結果、コロナ禍の期間にも、オンライン授業や不安欠席の児童への授業配信なども当たり前に行われるほどICT活用が進みました。児童たちも、先生に言われて端末を活用するのではなく、必要だと思える場面で自主的に活用しています。新潟市の「デジタルとアナログのベストミックスを見つけ、学びの質を探求していく」というICT活用の考え方が浸透し、実践されています。

大阪府枚方市

大阪府の枚方市 では、さまざまなソフトウェアを使ったユニークなICT教育を行っています。
例えば、ゲームソフトの「Minecraft Education」を利用して、ゲームの世界で街や建造物を作っていく授業では、生徒同士が対話し、計画しながら、一緒にものを作る力を育んでいます。また、日本全国を巡って物件を買い集めるゲーム「桃太郎電鉄 教育版」を全国に先駆けて全小中学校に導入し、楽しみながら日本の地理や特産品を覚えられるよう、独自の授業を行っています。
他にも、留学生や海外の学校の生徒とオンラインで英会話をする機会を設けたり、市をあげてタイピング選手権の開催したりなど、ICT環境を活かして楽しみながら学べる取り組みが推進されています。

GIGAスクール ICT導入企業の選定について

GIGAスクール構想の実現にあたって、端末やシステムなどのICTを提供する企業をどのように選ぶかが重要になります。ここでは、事業者が都道府県や市町村教育委員会に対してプレゼンテーションを行う場である「自治体ピッチ」と、企業に求められる条件について説明していきます。

自治体ピッチとは

自治体ピッチとは、地方自治体が主に教育分野でのデジタル化の促進を目的として、一定の要件を満たした企業が、自社の端末やシステム、アプリケーションなどをプレゼンテーションする場です。
自治体ピッチでは、単なる製品紹介にとどまらず、教育現場の声をヒアリングし、製品を提供する企業と、それを活用する現場が相互に意見交換を行います。それによって、さらなるICT活用の改善を目指す場として、デジタル庁が開催しているイベントです。

事業会社に求められる条件

ICT教育を実践するにあたって、IT導入支援企業の選定は非常に重要になってきます。企業側に求められる条件などについて、以下に紹介していきます。

●機器の供給能力
機器の供給能力は、重要な条件のひとつです。
GIGAスクール構想におけるIT機器の導入は自治体単位などで実施するため、一度に大量の機器を調達し、供給する必要があります。
機器の納入に想定より時間がかかってしまうと、ICT環境の整備が遅れ、GIGAスクール構想の実現もスケジュール通りに進まなくなってしまいます。そのため、企業における機器の供給能力は重要な要素のひとつです。

●教育現場の要望に合った提案ができるか
教育現場の要望に合った提案をしてもらえる企業であるかも条件になります。ICT教育は、IT端末やネットワークなどの環境を整備しただけで終わりではなく、効果的にICTを活用していくことではじめて実現します。
ICT環境を整えるだけでなく、どのような目的をもって端末やソフトウェアを選定し、教育現場に取り入れていくべきかについてあらかじめ指針を定め、要望に合った提案やサポートをしてもらえる企業である必要があります。

●サポート体制
ICT機器の導入や環境の整備にあたって、十分なサポートを受けられるかという点も、条件として求められます。
ICT機器は、実際に運用していく段階で、故障などのトラブルが発生する可能性があります。そのため、導入時のサポートだけでなく、導入後のキッティングや端末管理、トラブル対応などのサポート体制も重要です。

●費用
費用も確認すべき条件のひとつです。多くの企業が、GIGAスクール構想の政府の助成金をベースにして基本のパッケージを提供しています。基本のパッケージに加えて、追加のアプリケーションやサポート費用、トレーニングなどの現場への導入支援のサービスをオプション費用で追加する形が一般的です。
必要なサービスや機能が予算に合致しているかどうか、費用は明解で納得感があるかどうかも重要です。

GIGAスクール構想の展望とNEXT GIGA

GIGAスクール構想は2019年の発表以降、コロナ禍での遠隔授業の需要増加などの影響を受けて、当初の計画よりもスピードをもって推進されてきました。しかし、一人一台端末の整備が始まってから数年が経過したいま、デバイスの劣化や地域間格差の解消など、新たな課題への対応が必要となってきています。
NEXT GIGAとは、こうしたGIGAスクール構想の課題を解決し、一人一台端末を活用したICT教育のさらなる充実を目指す取り組みです。具体的には、ICT端末の更新や活用の促進、地域格差を解消するための方策などが、NEXT GIGAの取り組み内容となります。

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学校におけるICT活用を推進するために

文部科学省によって提唱されたGIGAスクール構想により、全国各地の学校に一人一台端末が配備され、高速大容量のネットワーク環境も整えられました。GIGAスクール構想によって、教育現場におけるICTの活用は急速に進んだといえるでしょう。

しかし、GIGAスクール構想には今後に向けた課題も残されており、自治体や学校などの教育現場においては、NEXT GIGAへの対応をいち早く検討していく必要があります。国内の取り組み事例や、各企業の提供するサービスなどの情報収集を行い、さらなるICTの利活用に向けた取り組みを進めていきましょう。

(著者プロフィール)
羽守ゆき
大学を卒業後、大手IT企業に就職。システム開発、営業を経て、企業のデータ活用を支援するITコンサルタントとして10年超のキャリアを積む。官公庁、金融、メディア、メーカー、小売など携わったプロジェクトは多岐にわたる。現在もITコンサルタントに従事するかたわら、ライターとして活動中。

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