サイロ化とは?意味や組織にとってのデメリットをわかりやすく解説
企業がDXを実現する上で課題となる要素はいくつかありますが、その一つが「サイロ化」です。経済産業省は「DXレポート〜ITシステム「2025年の壁」の克服とDXの本格的な展開〜」において、既存システムが事業部門ごとに構築されており、全社横断的なデータ活用ができない点を課題として指摘しています。その課題がまさしく「サイロ化」であり、DXを実現しようとする企業の多くが直面している状況です。この記事では、企業のDXを妨げる「サイロ化」の意味や問題点、解消する方法などを解説します。
サイロ化とは
サイロ化とは、企業の内部で部門・システム・データなどが独立して存在しており、連携が取りづらくなっている状態を指します。サイロというのは農作物や牧草などを貯蔵しておく倉庫のことで、多くの場合密集して建てられますが、内部のモノが混ざり合わないように各サイロが独立しているのが特徴です。一つの企業であるにも関わらずうまく連携が取れていない様子はまさしくサイロのようであり、いつしかビジネス用語として使われるようになりました。
サイロ化してしまった企業では情報共有やコミュニケーションが十分に行えなくなり、さまざまな問題が発生します。日本企業の多くがサイロ化していると言われていますが、サイロ化の中身は大きく二つに分けることができます。
組織のサイロ化
一つ目は組織のサイロ化です。これは企業内の部門や部署間で連携ができていない状態を指します。組織のサイロ化が進んだ企業では、ほかの部門でどのような業務を行っているかを正確に把握できず、次のような問題が発生しやすくなります。
- 複数の部門が同じような業務を独自に行っている
- ほかの部門での成功事例・失敗事例を把握できず、同じ失敗を繰り返してしまう
- 異なる部門間でのコミュニケーションが少なく、共同して業務を遂行できない
システムのサイロ化
二つ目はシステムのサイロ化です。これは各部門や部署が独自にシステムやアプリを構築して業務を遂行してきた結果、データの連携ができていない状態を指します。システムのサイロ化が進んだ企業では次のような問題が発生しやすくなり、DXを推進するのに不可欠なデータ活用ができない状況に陥ります。
- システムやアプリごとにデータ形式が異なり、容易に連携できない
- 各部門が独自にデータを管理しており、自部門のデータしか把握できない
- 自部門にとって最適な形でカスタマイズを繰り返した結果、複雑化・ブラックボックス化している
サイロ化が起こる原因
では、なぜ企業の中でサイロ化が起こってしまうのでしょうか。その主な原因は、多くの企業が採用している「縦割りの組織構造」にあります。
縦割り組織には、部門や部署ごとの業務内容が明確になり、目標を達成しやすいというメリットがあります。その反面、独自の業務プロセスや管理手法が発生しやすいというデメリットもあり、それが組織のサイロ化につながってしまうのです。
さらに、そのような状況下で各部門や部署が自部門にとって最適なシステムやアプリを導入・構築していくと、システムのサイロ化も発生してしまいます。各部門が個別に業務を遂行していく上では最適だったとしても、ほかの部門との連携ができなければ企業全体の効率は下がってしまうため、全体最適とはいえません。
サイロ化の問題点
昨今では多くの企業がデジタル技術やデータを活用したDXを推進していますが、サイロ化がその妨げとなっている可能性があります。ここでは、サイロ化の何が問題になるのかを解説します。
データを十分に活用できなくなる
企業内の各部門や部署が独自のシステムを使ってデータを蓄積していると、企業全体でのデータ統合や一元管理が困難になります。AIのようなデジタル技術を最大限に活用するには企業内に蓄積されたビッグデータを分析する必要がありますが、サイロ化した状態では有効なビッグデータを得られません。そのままにしていると、各部門が蓄積した貴重なデータが十分に活用されず、宝の持ち腐れになってしまうでしょう。
また、サイロ化した状態で有効なビッグデータを得るためには、各部門が蓄積したデータを手作業で収集したり、分析しやすい形に加工したりする手間も発生します。貴重なデータを手間なく最大限に活用していくために、サイロ化を解消すべきです。
意思決定が遅れる
変化の激しいこれからの時代では、企業の経営陣がデータに基づいた意思決定をリアルタイムに行うことがより重要になっていきます。しかし、サイロ化した企業では各部門や部署に散らばったデータを集めてきたり、分析したりする手間が発生するため、意思決定が遅れる可能性が高いです。
意思決定が遅れてしまうと、社会情勢の変化や顧客のニーズに素早く対応することができず、ビジネスチャンスを逃す恐れがあります。また、既存の業務プロセスを刷新したり、新しいデジタル技術を導入したりするのにも時間がかかってしまうため、競合他社との競争に敗れてしまうかもしれません。
運用コストの増加
サイロ化した企業では、部門や部署ごとに個別最適化されたシステムを運用するため、さまざまなコストが増加します。企業全体で一つのシステムを運用している場合には発生しないムダなライセンス費用やメンテナンス費用がかかっている状態であり、いつの間にか財務状況が悪化している可能性もあるでしょう。
ほかにも、データを収集・加工・分析するのにかかる作業コストや、不要な会議・メールなどによるコミュニケーションコストなど、企業内のあらゆる部分でサイロ化が原因のコストが発生しているのです。
作業効率の悪化により、生産性が低下する
企業内には、顧客情報や製品情報のように複数の部門が共通で使用するデータが多数存在しています。サイロ化した企業では、複数の部門が同じデータを別々のシステムに登録するといった重複作業が発生している可能性が高いです。また、ほかの部門が管理しているデータを活用して業務を遂行する場合に、自部門が使っているシステムに転記する作業が発生することもあります。
さらに、部門ごとに把握している情報が違うと、共同でプロジェクトを進める場合にスムーズに意思疎通ができず、余計なコミュニケーションコストが発生する恐れがあります。このように、サイロ化は企業全体の生産性を低下させてしまうため、解消すべきです。
サービスの質が低下する
顧客に対して営業活動やカスタマーサポートを行っている場合に、その顧客の情報や製品・サービスの最新情報が適切に共有されていなければ、不適切な対応をしてしまって顧客満足度が低下する恐れがあります。また、顧客からの要望を営業部門やカスタマーサポート部門しか把握しておらず、商品開発部門やマーケティング部門に共有できていなければ、顧客のニーズに合った製品・サービスを提供できなくなるでしょう。このように、サイロ化した企業では顧客へのサービスの質が低下している可能性があります。
サイロ化解消のメリット
サイロ化は簡単に解消できるものではありませんが、根気強く取り組むことで上述した問題点がなくなっていき、さまざまなメリットを企業にもたらすようになります。ここでは、サイロ化を解消するメリットについて解説します。
業務効率が改善され、サービスの質が向上する
サイロ化を解消すると、従来はやむを得ず行っていたムダな業務を削減できます。同じデータの二重入力や転記作業、不要な会議やメールといった情報共有不足に起因するムダが削減されることで、業務効率を大きく改善できるでしょう。
また、ムダな業務が削減されることで、より重要性の高い業務に工数を割けるようになります。定型的な業務はデジタル技術を活用して自動化していき、従業員は顧客対応や新商品・サービスの開発などの重要な業務に集中することで、サービスの質の向上が期待できます。
データ活用をしやすくなる
サイロ化が解消されれば、各部門や部署が個別に蓄積していたデータを一元管理できるようになります。散在した状態では十分に価値を発揮できていなかったデータを活用しやすくなり、業務効率化などに役立つでしょう。
たとえば、顧客データや販売データなどのさまざまなデータをビッグデータとして統合した上でAIによる分析を行えば、従来は気づかなかった顧客のニーズが見えてきたり、需要予測の精度が向上したりして、効果的な施策を立案できます。
意思決定のスピードがあがる
サイロ化が解消されて自社の状況や市場の変化に関するデータをリアルタイムに収集・分析できるようになれば、経営陣が意思決定を行うスピードがあがります。社会情勢や顧客のニーズの変化に対してデータに基づいた適切な判断を素早く行えるようになるため、ビジネスチャンスを多くつかむことができるでしょう。
また、部門長や担当者であっても、自部門だけでなく他部門の持つデータも踏まえながら素早くアクションプランを立てて行動できるようになるため、企業全体のスピード感が高まると考えられます。
DXを推進できるようになる
サイロ化を解消して企業内でシステムを統一すると、最新のデジタル技術を積極的に導入してDXを推進できるようになります。データの構造や設計思想が異なるシステムが多数存在している状態では、新しいデジタル技術を導入しようとしても一部のシステムでデータ連携ができないといった課題に直面しがちですが、システムが統一されていればそのような心配はありません。
また、新しいデジタル技術の使い方などを従業員に教育する際にも共通のマニュアルを用意するだけでよいので、企業内で定着しやすくなります。より多くの従業員がデジタル技術を使いこなすようになれば、DXの実現に大きく近づくでしょう。
サイロ化を解消する方法
ここまでに、サイロ化の問題点やサイロ化を解消するメリットについて紹介しました。では、実際に企業がサイロ化した状態を解消するにはどのような方法が考えられるのでしょうか。組織のサイロ化を解消する方法と、システムのサイロ化を解消する方法の二つに分けて解説していきます。
組織のサイロ化の解消方法
組織のサイロ化を解消するには、従来の「縦割りの組織構造」を見直していく必要があります。縦割り組織自体は悪いものではなくメリットも数多くありますが、各部門や部署が内向きで業務に取り組んでしまう傾向にあることは間違いありません。そのため、異なる部門同士が気軽にコミュニケーションしたり、連携しながら業務に取り組んだりするような工夫が求められます。具体的には、次のような内容です。
- 各部門からメンバーを募り、部門を横断したプロジェクトチームで業務を遂行する
- ジョブローテーション制度を導入して、ほかの部門の業務を知る機会を増やす
- 社内イベントや社内SNSツールなどで、部門の垣根を越えたコミュニケーションを活発化させる
また、企業の目標や方針が明確になっていれば、縦割りの組織であっても同じ方向を向いて業務を遂行できます。経営陣が従業員に対してしっかりと自社の目標・方針を共有したり、各部門の責任者が全体最適を意識した行動をしたりすることで、組織のサイロ化は防げるようになるでしょう。
システムのサイロ化の解消方法
システムのサイロ化を解消するには、自社内に散らばったデータを統合的に管理できる新たなシステムを導入する必要があります。たとえば、ERP(統合基幹業務システム)のように販売・財務・人事・在庫・生産管理といった企業が行うさまざまな業務を統合的に管理できるシステムを導入し、そこにデータを集約していくとよいでしょう。いきなりすべてのシステムを置き換えるのは現実的ではありませんが、多くのERPにはデータ連携機能が備わっているため、既存のシステムを使って従来通り業務を進めながらERPでデータを収集・活用するといったことも可能です。
ほかにも、データウェアハウス(DWH)やカスタマーデータプラットフォーム(CDP)といったデータ統合を目的としたツールも存在しています。これらは複数のシステムからデータを収集した上で目的に合わせて整理するツールであり、必要なときにデータを活用できるようになります。
サイロ化の解消が企業のDXを加速させる
サイロ化は企業の内部で部門・システム・データなどが独立して存在していることを指し、データ活用がうまくできないといったさまざまな問題を引き起こします。しかし、サイロ化を解消できれば企業がデータを活用する基盤が整うこととなり、DXを推進しやすくなるでしょう。サイロ化を解消するにはコストと時間がかかりますが、部門間でのコミュニケーションを活発化させるといった意識するだけで取り組める施策もあります。この記事で解説した内容を参考にしつつ、サイロ化の解消を目指してみてはいかがでしょうか。
【著者プロフィール】
M.NAKAYAMA
IT &製造業ライター。製造業向けシステム開発会社でコンサルティング営業やカスタマーサポート、製品企画を経験。システム導入や製造業の知見を活かして記事制作を行っている。