近年、日本でも多くの企業でクラウドサービスの導入が進んでいます。
その中でも、Microsoft社が提供するMicrosoft Azureは、世界的に高いシェアを誇る人気のクラウドサービスです。
しかし、「Azureとは具体的にどのようなサービスなのか?」「自社にとって導入するメリットは?」といった疑問をお持ちの方も多いのではないでしょうか。
本記事では、Azureの主要なサービス、特徴、メリットや注意点など、Azureの基礎知識をわかりやすく解説していきます。
Microsoft Azure(マイクロソフト アジュール)とは?
Microsoft Azureは、Microsoft社が提供するクラウドサービスです。
Azureでは、サーバー、ネットワーク、ストレージなどのインフラや、多様なアプリケーションサービスをインターネット経由で利用することができます。
Azureを利用することで、企業はインフラの構築・管理の負担を軽減し、ITシステムを迅速かつ柔軟に活用することができるようになります。
世界のクラウド市場において、AzureはAWSに次ぐ高いシェアを獲得しており、多くの企業に選ばれているサービスです。
Azureを活用することで、高性能かつ高セキュリティなサーバーを自社システムに取り入れることができ、既存のオンプレミスサーバーとの連携も可能です。
また、IoT、ブロックチェーン、機械学習、データ分析などの分野にも強みがあり、さまざまな企業で導入が進んでいます。
なお、料金体系は従量課金制であり、利用した分がコストとして発生します。
Azureの操作には、「Azure Portal」と呼ばれる管理ツールを使用します。
Azureの提供するサービス

Azureをはじめとするクラウドサービスは、主に「IaaS」「PaaS」「SaaS」の3つの形態のサービスを提供しています。
それぞれのサービス形態がどのようなものなのかを説明していきます。
IaaS(Infrastructure as a Service)
IaaSは、サーバー、ストレージ、ネットワークといったITインフラを、クラウド上で提供するサービス形態です。
OS、ミドルウェア、アプリケーションは利用者側でインストール・設定するため、カスタマイズ性が高く、オンプレミス環境に近い自由度でインフラを構築・運用したい場合に適しています。
インフラの物理的な構築・管理の負担は軽減されますが、ミドルウェアやアプリなどのOS以上のレイヤーは利用者側で管理する必要があります。
PaaS(Platform as a Service)
PaaSは、IaaSが提供するインフラに加え、OSやミドルウェアなどのプラットフォームもクラウド事業者側が提供するサービス形態です。
IaaSと同様、アプリケーションは利用者側で用意・管理する必要があります。
PaaSを利用することで、インフラやプラットフォームの運用負荷が大幅に削減され、利用者はアプリケーション開発に集中できます。
SaaS(Software as a Service)
SaaSは、クラウド事業者側がインフラ、プラットフォーム、アプリケーションのすべてを提供する形態です。
利用者は、Webブラウザなどからアプリケーションにアクセスし、すぐにサービスを利用することができます。
利用者はITの専門知識がなくても、手軽にアプリケーションを活用できますが、一般的にカスタマイズ性は低くなります。
目的別 Azureの主なサービスと機能

Azureでは、インフラ構築からアプリケーション開発、データ分析、AI活用まで、あらゆるニーズに応えるためのサービスが提供されています。
ここでは、Azureの主なサービスと機能について、目的別に紹介していきます。
アプリケーション開発「Azure App Service」など
Azureを活用してWebアプリケーションやモバイルアプリ開発を行いたい場合は、「Azure App Service」をはじめとしたアプリケーション開発向けのサービス群を利用するとよいでしょう。
主要なサービスとしては、Webアプリ、モバイルバックエンド、APIアプリなどをホストするためのフルマネージドPaaSである「Azure App Service」、サーバレスコンピューティングサービス「Azure Functions」、APIの開発・公開・管理を行うためのプラットフォーム「Azure API Management」などがあります。
データ管理・分析「Azure SQL Database」など
Azureを活用してデータベースの管理やデータの分析を行いたい場合は、「Azure SQL Database」といったデータ管理・分析向けのサービスがあります。
代表的なサービスは、SQL Serverのデータベースサービス「Azure SQL Database」、Apache Hadoopなどのオープンソースフレームワークを利用したビッグデータ分析サービス「Azure HDInsight」、データウェアハウスとビッグデータ分析を統合した「Azure Synapse Analytics」などです。
インフラ構築・運用「Azure Virtual Machines」など
Azure上でインフラ構築・運用を行いたい場合には、仮想サーバーや仮想ネットワークなどのクラウドインフラ構築向けのサービスを利用しましょう。
代表的なものとして、WindowsまたはLinuxベースの仮想マシンを作成・管理できるサービス「Azure Virtual Machines」があります。
ほかにも、Azure内にプライベートな仮想ネットワークを構築する「Azure Virtual Network」、オブジェクトストレージサービス「Azure Blob Storage」、トラフィックを分散し可用性を高める「Azure Load Balancer」など、クラウドインフラの構築に活用できるサービスが多数用意されています。
セキュリティ・ID管理「Microsoft Entra ID 」など
セキュリティの強化・ID管理を行いたい場合は、IDおよびアクセス管理サービス「Microsoft Entra ID (旧Azure Active Directory)」をはじめとしたセキュリティ・ID管理向けのサービス群を選択するとよいでしょう。
セキュリティ強化に役立つ主要なサービスとしては、暗号化キーやパスワードなどを安全に管理する「Azure Key Vault」、クラウド全体のセキュリティを強化し脅威から保護する「Microsoft Defender for Cloud」などがあります。
AI ・機械学習「Azure Machine Learning」など
Azureを活用してAIや機械学習モデルの開発・運用を行いたい場合は、「Azure Machine Learning」をはじめとしたAI・機械学習向けのサービス群を活用しましょう。
機械学習モデルのライフサイクル全体を管理するための統合環境「Azure Machine Learning」、AI機能をアプリケーションに組み込めるAPI群「Azure Cognitive Services」、チャットボットを開発サービス「Azure Bot Service」などがあります。
IoT「Azure IoT Hub」など
Azure上でIoTデバイスの接続・管理や、収集したIoTデータの活用を行いたい場合は、「Azure IoT Hub」といったIoT向けのサービス群があります。
何百万ものIoTデバイスとの間で安全な双方向通信を実現する「Azure IoT Hub」、コーディングを最小限に抑えてIoTソリューションを構築・管理することができる「Azure IoT Central」などの利用を検討しましょう。
DevOps「Azure DevOps」
Azureでソフトウェア開発から運用までの開発ライフサイクル全体を効率化したい場合は、ソフトウェア開発の統合サービス群「Azure DevOps Services」が活用できます。
「Azure DevOps Services」は、プロジェクトの計画と進捗管理、ソースコード管理、テストの管理、リリースの自動化など、チームでソフトウェア開発を進める際の全行程を支援する一連の機能を提供するサービスです。
リモートワーク環境の構築「Azure Virtual Desktop」
場所にとらわれず安全なリモートワーク環境を構築したい場合は、「Azure Virtual Desktop」を利用しましょう。
クラウド上でWindowsの仮想デスクトップ環境やアプリケーションを配信する「Azure Virtual Desktop」を利用することで、自宅や外出先からでもセキュリティが確保されたリモートワーク環境で業務を行うことが可能になります。
Azureを導入するメリット

Azureを導入することで、企業は多くのメリットを享受できます。
ここでは、Azure導入の利点について解説していきます。
セキュリティが強固
Azureでは、Microsoftが提供する信頼性の高いセキュリティサービスを利用することができます。
Microsoftは、サイバーセキュリティに対して多額の投資を行い、多数の専門家を擁してAzureのセキュリティを維持・強化しています。
多層防御の仕組みや高度な脅威の検出機能など、企業が単独で実現するには困難なレベルの強固なセキュリティを利用することができます。
既存のオンプレミス環境と併用可能
Azureは、既存のオンプレミス環境と連携がしやすく、併用が可能なように設計されています。
Azure Arcなどのサービスを利用すれば、オンプレミス、マルチクラウド、エッジ環境にわたるリソースを一元的に管理・運用するハイブリッドクラウド環境をスムーズに構築することができます。
これにより、既存のIT資産を活かしつつ、段階的にクラウドへ移行することが可能です。
BCP(事業継続計画)に対応
Azureは世界中の多数のリージョンにデータセンターを展開しており、日本国内にも東日本リージョンと西日本リージョンの2拠点が存在します。
データを複数の地域に分散・バックアップすることで、自然災害や大規模障害が発生した場合でも、事業継続性を高めることができます。
Microsoft社のサービスやWindowsサーバーとの親和性が高い
AzureはMicrosoft社が提供しているため、Windows ServerやSQL Server、Microsoft 365といった他のMicrosoft製品との連携が非常にスムーズです。
これらの製品をすでに利用している企業にとっては、既存の環境や従業員のスキルを活かしやすく、導入・運用のハードルが低いという大きなメリットがあります。
Azureの導入に際して注意すべき点
多くのメリットがあるAzureですが、導入にあたっては注意すべき点も存在します。
ここでは、Azure導入の際の注意点について説明していきます。
独自のカスタマイズや設定を行う場合、専門知識が必要になる
IaaSやPaaSを利用してインフラを自社で構築・設定する場合、サーバー、ネットワーク、セキュリティをはじめとした、ITに関する専門知識が求められます。
特に、高度なカスタマイズやパフォーマンスチューニング、複雑なネットワーク構成などが求められる際には、専門的なスキルを有する技術者が必要となります。
通信障害が発生するリスクがある
Azureは高い可用性を誇りますが、クラウドサービスである以上、インターネット回線の障害が発生する可能性はゼロではありません。
ミッションクリティカルなシステムでAzureを利用する場合は、通信障害を考慮したネットワークの冗長構成などを検討しましょう。
セキュリティ対策を万全にする
Azureは強固なセキュリティ基盤を提供しますが、クラウド上のリソースやデータのセキュリティ設定は利用者側の責任範囲も大きくなります。
不正アクセスを防ぐための適切なアクセス権限設定、脆弱性管理、ログ監視などのセキュリティ対策を講じることが求められます。
トラブル発生時の問題解決に時間を要する可能性がある
Azureに関する技術情報やドキュメントはMicrosoftから豊富に提供されていますが、情報量が膨大であるため、特定のトラブルシューティング情報を見つけ出すのに時間がかかる場合があります。
また、自社内にAzureに詳しい人材がいない場合、問題の原因特定や解決が困難になることも考えられます。このような場合は、Azureの導入・運用実績が豊富で、日本語でのサポート体制が整ったパートナー企業経由での導入を検討するのが有効です。
Azureを導入する手順

Azureの導入方法はプロジェクトの規模や目的によって異なりますが、一般的には以下のようなステップで進められます。
- Azureの導入目的と要件の明確化
まず、「Azureを導入して何を達成したいのか」という目的を具体的に定めます。
解決したい課題、Azureで利用したい機能、期待する効果などを詳細に洗い出していきます。
自社にAzureの知見がない場合は、この段階からAzureの導入・運用実績が豊富なパートナー企業の支援を得るとよいでしょう。 - 利用するサービスと構成の検討・設計
要件に基づき、目的の達成に適したAzureのサービスを選定していきます。
サービスのライセンス体系や料金プラン、サポートの種類についても、コストを鑑みながら決定しましょう。
要件によっては、複数のサービスを組み合わせた構成を設計することもあります。 - Azureの利用開始
Azureのアカウントを作成し、サブスクリプションの設定をしたうえで、利用したいサービスを選択してAzureの利用を開始しましょう。
もしくは、Azureを取り扱っているマイクロソフトのパートナー企業に相談することもできます。
利用開始時には、事前に検討したサービスの構成と設計に基づき、リソースの作成、アクセス権の設定、データの設定などを行います。 - Azureの運用・管理
Azureの利用開始後は、サービスの利用状況や稼働状況、コストなどを継続的に監視する必要があります。
利用状況に応じて、設定の見直しやコスト最適化の検討、問題発生時の原因調査と対応など、安定的かつ安全にサービスを利用し続けるための運用管理を行います。
Azureの導入に向いているケース
Azureの導入に向いているケースとは、どのようなケースなのでしょうか。具体的に説明していきます。
Microsoft製品を多く利用している
すでにWindows Server、SQL Server、Microsoft 365などのMicrosoft製品を社内で活用している場合は、Azure の導入が適しています。
このようなケースでは、既存のシステムやアプリケーションとのスムーズな連携やID基盤の統合が可能です。また、既存のMicrosoftのライセンス特典を活用できる場合もあります。
オンプレミス環境からクラウド環境へ移行したい
Azureは、Windowsサーバーからの移行、ハイブリッド運用がしやすい機能が準備されています。
そのため、Azureはオンプレミスサーバーからの移行先のクラウドサービスとして適しているといえます。
特にWindows Server環境からの移行はツールやガイドが充実しており、比較的容易に行うことができます。
また、一気に全てをクラウド化するのではなく、オンプレミスと連携したハイブリッドクラウド構成により、移行を段階的に進めたい場合にも適しています。
Microsoft Azureの活用事例

Azureは、業種や企業規模を問わず、さまざまなビジネス課題の解決に活用されています。
実際にAzureを活用し、ビジネス課題を解決した企業の事例を2つご紹介します。
株式会社ITCS:自社パッケージ製品のクラウド化によりユーザーが増加
ITCS社は、主力製品の業務アプリケーション群「ManageOZO3」をオンプレミスパッケージとして提供していました。しかし、市場のトレンドを受けたクラウド化への対応と、ユーザーの利便性向上が課題でした。
この課題に対し、同社は「ManageOZO3」を新たにAzureの基盤上で稼働させ、アプリケーション機能をクラウドサービスとして提供しました。Azureを活用したクラウド化により、ユーザーは勤怠管理・経費精算・稟議申請といったさまざまな同社の業務アプリケーションの機能を、単一のポータルサイトから簡単に利用できるようになりました。
その結果、ユーザーの利便性が向上し、サービスのユーザー数は右肩上がりに伸びました。また、複数のアプリケーションをAzure上で一元的に運用・管理できるため、企業側の運用効率化にも繋がっています。
株式会社A-ZiP:Azure上で開発した要員管理システムで顧客企業の工事対応力向上と過重労働防止を実現
SI企業のA-ZiPでは、顧客であるコベルコE&M社が抱える、工事の要員計画における課題解決にAzureを活用しました。
E&M社では、工事計画や要員配置に関する情報を現場ごとにExcel等で個別に管理していたため、計画的な人員配置が困難であるという課題を抱えていました。
A-ZiP社は、この課題に対しAzure環境上で「要員管理システム」を開発・提供しました。このシステムの実現において、社外の協力会社からも要員計画にアクセスできなければいけない点がセキュリティ上難しいポイントでした。
そこで、同社はAzure Virtual Desktopの機能を使い、ユーザーごとに同じ仮想環境で要員管理システムを操作できるようにすることでこの課題を解決したのです。
要員管理システムの導入により、コベルコE&M社では要員の予定・負荷状況がリアルタイムに可視化・共有できるようになりました。これにより、要員計画にかかっていた工数を年間約1080時間削減することに成功し、要員の過重労働の防止にも繋がりました。
(まとめ)企業のDX推進やビジネス課題の解決にMicrosoft Azureを活用しましょう
本記事では、Microsoft Azureの概要、主要サービス、導入のメリットや注意点について解説しました。
Azureは、インフラ構築からAI活用まで多岐にわたるサービスを提供する、世界的に人気の高いクラウドプラットフォームです。
導入の際には、目的の明確化や利用するサービスの選定が必要となりますが、Azureのサービスを適切に活用することにより、企業のDX推進やビジネス課題の解決に繋げることができるでしょう。
TD SYNNEXではあらかじめ選定されたスペックと構成内容でスピーディーにファイルサーバーを導入いただける「Microsoft Azure かんたん/おまかせ ファイルサーバー定番パック」を提供しています。
この定番パックは、カタログショッピングのような感覚で容量ベースで選ぶだけで、簡単にクラウド見積もりが可能です。
定番構成により、面倒な要件定義や設計を大幅に省略できるうえ、バックアップやバージョンアップといった煩雑な運用からも解放されます。
サービスの詳細については、以下のページをご確認ください。
Azure ファイルサーバー定番パック | TD SYNNEX株式会社

Azure導入を簡単に!定番パック資料をダウンロード
『Microsoft Azure かんたん/おまかせ ファイルサーバー定番パック』のサービス資料を公開中です。メニュー構成や参考価格など、導入の検討に役立つ具体的な情報をご確認いただけます。
[著者プロフィール]
羽守ゆき
大学を卒業後、大手IT企業に就職。システム開発、営業を経て、企業のデータ活用を支援するITコンサルタントとして10年超のキャリアを積む。官公庁、金融、メディア、メーカー、小売など携わったプロジェクトは多岐にわたる。現在もITコンサルタントに従事するかたわら、ライターとして活動中。